日本でも急成長を見せるe-Sportsに絡みつく、プロ選手の給料や権利などの大きな問題たち

日本でも急成長ぶりが世間の目にふれるようになったe-Sportsにおいて直近に問題となるであろう要点を、昨年末にeSports Observerが掲載した記事「2016年にe-Sportsが直面する最大の問題」から紹介する。

ここ4~5年ほどで、海外のe-Sports分野はファン数やビジネスといった複数の面で急速な成長を遂げている。日本国内のe-Sportsの急成長ぶりが世間の目にふれるようになったのはごく最近のことだが、海外での源流をたどればe-Sportsは1970年代より存在し、クオリティの高いオンラインゲームが主流となってからは文字通り爆発的な成長を遂げている。そんなe-Sportsにおいて直近に問題となるであろう要点を、昨年末にeSports Observerが掲載した記事「2016年にe-Sportsが直面する最大の問題」から紹介する。

 

プロ選手の給料公表問題

昨年末、英語圏の『League of Legends』(以下、LoL)コミュニティを席巻していたのが、この「プロ選手の給料問題」だ。e-Sports分野がビジネスとして急速な成長を遂げるにつれ、プロとして生計を立てる人間の数は増え続けている。ここで浮かび上がってきたのは「果たしてe-Sports関係者が受け取っている給料は、どのくらいなのか?」という関心である。この関心とは、ファンコミュニティにとっては多分に好奇心や嫉妬心が混ざり合ったものであろう。業界内関係者にとっては「妥当な給料額、ないしは自分を売り込むべきもっと給料の高い場所」に直結する。

韓国コンテンツ振興院が『StarCraft 2』『LoL』『ハースストーン』等々で生計を立てている韓国内のe-Sportsプロ選手51名に対して取ったアンケートによると、その平均年収は日本円にして約250万円であり、多くの選手が収入に不満を持ち海外への進出願望を抱いているということが明らかになった。この発表に対し、KeSPA(韓国e-Sports協会)は所属するプロ選手の給料を公開。40人の所属選手の平均年収が約700万円であることを公表した。またこれに追随し、北米の『LoL』プロリーグ「NA LCS」への出場を目指してアマチュアトップリーグ「NA CS」に参加中のチーム「Ember」のオーナー・Jonathan Pan氏も、選手に支払っている額を公開。これによると、北米ではアマチュアリーグの選手ですら、ボーナス等を含めて870万円以上の年俸を手にしていることが明らかになった。

Jonathan Pan氏は「徹底的な透明性こそが、チームやe-Sports業界の成功の鍵となる」と主張している。一方で元プロ選手のSnoopeh選手は「選手間に心理的な格差を作ってしまうなどの弊害があるため、プロ選手の給料は現時点では公表すべきではない」という意見を表明している。ヨーロッパのLCS参加チーム「H2k」のオーナーであるRichard Wells氏や、北米のLCS参加チーム「Counter Logic Gaming」のCEOであるDevin Nash氏も、この問題について「今のe-Sports業界に透明性が足りないのは確かだが、プロ選手の給料を公表するのはまだ早い」と発言している。

Snoopeh氏は意見の中で「とはいえ、新人選手が適切な給料をもらうための仕組みが必要」とも述べており、NFLやNBAといったプロスポーツリーグが採用しているサラリーキャップ制度のようなシステムが、将来的にe-Sportsトップリーグでも整備される可能性はあるだろう。

プロ選手の給料というのは、選手自身からすればプライベートの一部であり、非常にデリケートな部分でもある。『LoL』の現役プロであるDexter選手は「“プロは好きなことをやれているんだから、対価として十分なお金をもらえなくても別にいいだろう”という主張を見ること以上に、堪えることなどない」と、Twitterでその心情を吐露している。興味本位の好奇心や嫉妬心から、他人の収入というプライベートな情報を覗こうとすれば、覗かれた側は傷ついて当然という面もあるだろう。業界の透明性を高めることがe-Sportsの発展につながるとしても、ファンとプロ選手の関係を良好に保ちつつ、不幸になる人間が出ないような仕組みが作られる日は、いつになるだろうか。

 

ゲーム内の暴力表現

e-Sportsで採用されているタイトルには、暴力表現を含むゲームも多い。『LoL』『ハースストーン』等は、グラフィック表現をカートゥーン(漫画)寄りにしているため、ゲーム映像に制限がつくことはない(シネマティックムービーを除く)。しかし、リアルな兵士たちが銃を撃ちあう『Counter-Strike: Global Offensive』といったFPSタイトルでは、暴力表現や残虐表現が問題となってくる。e-Sportsはネット回線を通じて大きなファン人口を誇っており、老若男女どのような人間が見ていても不思議ではない。教育・倫理・感情などのさまざまな面から、e-Sportsとなるタイトルが含む暴力表現について、ゲームメーカーはコミュニティと向き合って考え続けなければならないだろう。

余談だが、格闘ゲーム分野における暴力表現は、ある種の作品群を除けば意外にも抑えられている。『モータルコンバット』や『サムライスピリッツ』のように残虐表現を一種の売りとしているシリーズを除けば、流血や殺人描写といった部分は抑制されているのが現在の格闘ゲームだ。近年の格闘ゲームにおける問題表現としては、性的表現が注目されることが多い。

参考記事:
『ストリートファイターV』、キャラクターの一部のセクシーなシーンが修正か。あのR.ミカの“お尻叩き”など見れないように
『DEAD OR ALIVE Xtreme 3』欧米では発売されず、女性の性的描写が原因か。100万ドルで販売権を買い取ろうとするファンも

 

プロ選手の権利

先に述べたプロ選手の給料公開問題と隣接、ないし包含しているのが、選手の権利問題である。これまで、e-Sportsのプロ選手やアマチュア選手の権利はあまり守られることがなく、選手自身や献身的な人物が立ち上がらねば、一方的な契約条件や選手自身に対する横暴には無力だった。

過去にあった事件を挙げると、2015年初頭に「EU LCS」参加チームに所属していたKori選手が、チームマネージャーより近親者の身柄を危うくする脅迫を受けたことが明らかになった。LCS運営の調査と裁定により、選手を脅迫したマネージャーは『LoL』プロシーンより永久追放となっている。『LoL』韓国プロシーンでは、2013年の大会でマネージャーが違法賭博で勝つためにチームの選手たちに八百長を強要するという事件があった。この事件では八百長に対して選手たちが抵抗した結果、選手の一人が自殺を図るという痛ましい形で全てが明るみに出た。

この問題は、業界が大きくなるにつれ解決に向かって進んでいるという。e-Sportsに携わる弁護士たちはこういった需要から近年増加しており、従来のスポーツにも存在した法的前例をふまえ、さまざまな組織において選手とチームの間に対等な契約を結ぶために働いている。各国のe-Sports競技団体も、選手とファンの双方に公平な利益を供するための努力を行っている。

ただ一方で、業界全体が権利や法律に敏感になったことで、アマチュアからプロになったばかりの選手が慣例をよく理解しないままプロチームと契約を結んでしまい、最終的に訴訟に発展するというケースも考えられる。業界全体の意識改革や、これからプロになる選手に対する教育などが、今後求められていくはずだ。

 

ネット中立性

ネットワーク中立性とは、一言でまとめると「インターネット通信に関わる全ての存在は、あらゆるデータを平等に扱うべき」という考え方である。この考え方の是非はともかくとして、そのように考える向きは確実に存在する。そして、この観点からすると、e-Sportsコンテンツというのは悩みの種だ。

e-Sports観戦に使われる動画配信では、ゲームの進行をつぶさに見るため、きわめて高画質の配信が行われる。そうした高画質の配信は大きなデータ量となり、他の内容の通信を圧迫し、ネットワーク中立性を脅かしかねない。観戦のみならず、e-Sportsとなっているタイトルをプレイするための通信環境にも影響がある。

事実ここ数年、『LoL』の運営元であるRiot Gamesは北米やヨーロッパ地域において、インターネットプロバイダ業者との連携を強く進めている。これはもちろん『LoL』の一般プレイヤーがゲームをプレイするための通信環境を改善するという意味合いもあるが、プロバイダに『LoL』の通信を優先させるということではなく、他の無関係なデータとの正しい棲み分けを行うという面での活動でもあるだろう。

ネットワーク中立性の是非はともかくとして、インターネットを支えるインフラは無限ではない。この問題に対し、e-Sportsを楽しむための最低限の通信量・通信環境とはどういったものなのか、今後も議論が続いていくことだろう。

 

未成年の賭博行為

『Counter-Strike: Global Offensive』では、プレイヤーが所持している有料スキンをプロの試合に賭けることのできるシステムが存在している。昨年後半のRedditで話題になったトピックのひとつに、17歳のプレイヤーがスキン賭博に興じて1万ドルの負けを作った挙句、賭博の中毒性から抜けられずに母親のクレジットカードに手を付けてしまったという投稿があった。このプレイヤーは、投稿時点で最終的な借金となってしまった3000ドルを母親に返済中であると書いており「賭博と、クレジットカードを一人で使うことの危険性を思い知った。スキンはただのスキンであって、時間・金・苦痛を支払ってまで手に入れる価値のあるものではない」とこぼしている。

e-Sportsが大きく成長するためには、プレイヤーやファンから得られる収益が不可欠ではある。しかし、その中でも賭博問題はあまり注意を払われていない。上記のようにブレーキのきかない未成年の射幸心を刺激してしまうケースは、スマートフォンゲームにおける未成年の高額課金問題も想起させる。日々成長を続けるe-Sportsではあるが、こういった賭博に関して自主規制等が設けられなければ、将来に暗い影を落とすことになるだろう。

Sawako Yamaguchi
Sawako Yamaguchi

雑食性のライトゲーマー。幼少の頃からテレビゲームに親しむが、プレイの腕前は下の下。一時期国内外のTRPGに親しんでいたこともあり、あらゆるゲームは人を楽しませるだけでなく、そのものが出発点となって人と人を結びつけ、新しい物語を作る力を持っていると信じている。2012年から始めた『League of Legends』について、個人ブログやTwitterにて日本語で情報発信を続けている。

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