パレスチナ人としてイスラエルに復讐する戦争ゲーム、英国のSteamにて発禁に。開発者は「Valveに英国政府機関からの働きかけがあった」と主張
Steamにて2022年4月に配信開始された『Fursan al-Aqsa: The Knights of the Al-Aqsa Mosque』(以下、Fursan al-Aqsa)が、英国にて10月22日より配信停止となっている。同作開発者は、英国の政府機関Counter-Terrorism Internet Referral Unit(CTIRU)からValveへの働きかけがあったと主張している。海外メディア404 Mediaが伝えている。
『Fursan al-Aqsa』は、三人称視点または一人称視点で展開されるアクションシューターだ。パレスチナ系ブラジル人のNidal Nijm氏が個人で開発を手がけている。本作の主人公となるAhmad al-Falastiniは、イスラエルに強い怨恨をもつパレスチナ人だ。イスラエル兵によって不当に拷問を受けながら5年間投獄されるなか、イスラエル軍の空爆によって家族をすべて失ったという設定になっている。Ahmadはゲームタイトルでもある架空のパレスチナ人の抵抗運動「Fursan al-Aqsa」に参加し、イスラエルへの復讐を試みることになる。
本作のゲームプレイは三人称視点と一人称視点が切り替え可能なアクションシューターとなっている。Steamストアページ上の説明では“強烈にしたパレスチナ版『マックス・ペイン』”とも標榜されており、スローモーションになりながらダイブアクションできる要素なども特徴。また敵の四肢や頭部が欠損する、ゴア表現も備わっている。
なおプレイヤーキャラはイスラム原理主義組織ハマスのシンボルとされる緑色のバンダナを巻いており、ゲーム内でもハマスなどのパレスチナ系武装組織をモチーフとしていることが示唆されている。そうしたゲーム内容とは裏腹に、Steamストアページ上ではテロリズムや反ユダヤ主義、ユダヤ人やそのほかのグループに対する憎悪を助長する目的がないとの説明がなされている作品だ。
突然の販売停止
SteamDBを見るに本作は英国で10月22日より販売が中止されていたようだ。Nijm氏は、このうち英国での販売中止については英国の政府機関CTIRUの働きかけが背景にあると主張している(404 Media)。
Nijm氏が伝えるところによると、まずValveは英国当局からの要請で本作の同国での販売を中止したことを報告したそうだ。Nijm氏はこの報告に対してValve側に、中止の理由について英国当局から伝え聞いてないかを尋ねたという。同氏は『Fursan al-Aqsa』について「たとえば『Call of Duty』のようなSteam上のほかのシューター作品と大差がない」と考えており、なぜ『Fursan al-Aqsa』だけが販売停止となったかを不思議に思ったようだ。
するとValve側は、本作の英国での販売停止の背景にはCTIRUからの連絡があったことを明かしたという。CTIRUとは、英国にて2010年に設立された機関。インターネットプラットフォームと協力して、英国のテロリズム対策法に反するコンテンツの削除を要請してきた。同法に反するコンテンツがあれば各インターネットプラットフォーム側に自発的に削除を促す格好だ。一方で応じない場合には、将来的に「コンテンツを認識せずにプラットフォームとしてあくまで仲介しただけだった」といった抗弁を用いることができなくなるとされる。つまり自発的な削除を求めつつも、プラットフォームとしてコンテンツを管理する責任を迫るような仕組みとなっているようだ。なおCTIRUが削除を要請するコンテンツの多くは、一般市民からの報告に基づいているという。
なぜ2022年4月にリリースされた『Fursan al-Aqsa』が、このタイミングでCTIRUに問題視されたのか。この背景には昨年インフルエンサーXアカウントLibs of TikTokが昨年本作を取りあげたことが一因だと伝えられている。同アカウントは本作にてプレイヤーがハマスとして、エルサレムでユダヤ人を殺害する内容であると指摘しており、ゲーム内容が問題視されていた。
また昨今の現実でのパレスチナとイスラエルといえば、昨年10月のハマスによる襲撃以降、イスラエル側の報復攻撃が繰り返される状況にある。緊迫した情勢が続くなかで、イスラエルへの復讐を描く本作の過激な作風が周知され、CTIRUより問題視された可能性がありそうだ。
Nijm氏による反応
かねてより一部で物議を醸していた背景もあり、英国内で配信停止となった『Fursan al-Aqsa』。なおNijm氏は先述のSteamのニュース投稿において、英国当局が本作をテロリストのプロパガンダと見なしていることは明らかだと説明。今後米国も含めほかの国でも販売停止になりうると伝えている。なお同氏は404 Mediaに対してもコメントを寄せており、今回の決定についてValveを責めるつもりはないとする一方で、英国当局を批判。『Call of Duty: Black Ops 6』などの政治的なフィクション描写も含むゲームは許されているのに、同じくゲームである『Fursan al-Aqsa』が販売停止されるのは矛盾しているといった主張を展開している。
とはいえ『Call of Duty: Black Ops 6』では1991年当時の情勢をモチーフとしつつも架空の勢力が黒幕として描かれるなど、特定の立場に偏った描かれ方をしているわけではないといえる。このほか、シリーズ過去作『Call of Duty: Modern Warfare 2(2009)』においてはロシアの空港を舞台とするテロ活動に加担するミッション「No Russian」が、ロシア版で削除されるといった配慮もあった。同シリーズに限らず、過激な表現を含むゲームにおいて地域ごとに制限される事例はしばしばあるだろう。
いずれにせよ、ゲームが多様化を見せるなか、さまざまな政治的なメッセージをもつ作品も増えてきた。特にSteamでは個人開発・小規模開発作品なども多く展開されており、中には開発元の思想が色濃く反映されたものも存在する。Valveとしてはそうした作風のゲームであっても、ガイドラインを遵守している限りは配信を認めているようで、あくまで各国の要請に基づき個別対応していく方針があるようだ。