Steamでは「すぐに充実感を得られるゲーム」が売れていそうとの専門家見解。手っ取り早く“元を取りたい”という心理か

GameDiscoverCoは10月24日、近年注目を集めるSteamの新作の傾向について分析した。

ゲーム開発者向けのマーケティング調査機関GameDiscoverCoは10月24日、近年注目を集めるSteamの新作の傾向について分析。共通点として、短時間で満足感を得られるという特徴があるそうだ。

GameDiscoverCoの編集者Simon Carless氏は先日、『Ball X Pit』と『Keeper』のどちらを遊ぶべきかという板挟みに直面したのだという。『Ball X Pit』はKenny Sunが手がけるブロック崩しローグライトゲームで、10月16日に発売。そしてもう一方の『Keeper』は、歩く灯台が海鳥とともに島を冒険するパズルアクションゲーム。開発を手がけたのは、『Psychonauts』シリーズなどの開発で知られるゲームスタジオDouble Fine Productionsで、『Keeper』は10月18日に発売となった。発売時期が重なった二作で悩んだ末、Carless氏は『Ball X Pit』をプレイすることを選択したそうだ。

『Ball X Pit』

ところで、『Ball X Pit』は10月23日には初週時点での累計売上が40万本に達したことも報告され、Steamのユーザーレビューでは5000件中95%の好評率で「圧倒的に好評」ステータスを獲得し、同時接続プレイヤー数のピークも3万4554人を記録している(SteamDB)。対して『Keeper』は現在までのSteamでの最大同時接続プレイヤー数はわずか191人(SteamDB)。『Keeper』はXbox Series X|S向けにも発売されているほか、PC/Xbox Game Pass向けにも提供されている。そしてXbox Game Studiosがパブリッシングをおこない、高い評価を博すにも関わらず、『Keeper』のユーザーベースはかなり小規模と言える。この“伸び悩み”ともいえるセールス状況に業界からは驚きの声が聞かれる。

『Keeper』

そうした結果を受けてCarless氏は、これら二作がどちらも高評価を記録していながら、かたや売上40万本で同時接続プレイヤー数3万人超え、かたや同時接続プレイヤー数191人と、どうしてまったく異なる反響を得ているのか分析することにしたそうだ。同氏はまず、経験則的に忙しい大人たちによくある理由として、『Ball X Pit』が短時間のプレイを促す構造になっている点に着目した。

同作のメインとなるゲームプレイは、地下の大穴をブロック崩しの要領で攻略し、地上に戻って都市建設を進めるというループだ。1ゲームのループは最大でも15分程度であり短時間で楽しむことが可能。また、プレイするたびにランダムで取得できる永続アップグレードがあるため、時間を重ねるにつれてより良い戦術を立てられるようになる。また、同作のサブ目標として存在する基地建設要素では、ゲーム内でゴールドを稼いで建物を購入していくといった長期的な目標も考える必要がある。

すなわち、たとえば20分程度しかプレイできなかったとしても、2回のランに挑み、新たな建物を購入し、新キャラなどをはじめとした各要素の開放、発展に近づく。同作のゲームスタイルでは、短い時間で充実した体験や成果を得られ、友人に勧めたいと感じられるという。Carless氏はこうした性質を「sessionability」と呼んでおり、日本語では「セッション充実性」といった意味になるだろう。同様の要素をローグライクポーカーゲーム『Balatro』なども持ち合わせているとしており、同氏いわく、ユーザーは数時間プレイしただけでももっと長くプレイできそうだと感じ、出した金額に見合った作品であると感じさせてくれると述べている。

『Balatro』

この「セッション充実性」は、ギャンブル的な要素と深いかかわりがあるとCarless氏は分析している。『Balatro』や『Ball X Pit』のほか、ローグライトスロットゲーム『CloverPit』などの作品には(関連記事)、キャッチーなユーザー体験とともに伝統的なギャンブルのインスピレーションが至る所に含まれていると考えているそうだ。過去には『Balatro』の開発者LocalThunk氏が同作を「賭博ゲーム」として作ったわけではないとの立場を表明(関連記事)。とはいえ、(ゲーム内の)金銭やスコアなどを賭け、戦略立てて勝負をするという、「ギャンブルのエッセンス」を取り込むことにより、上手くユーザーの関心を獲得していったという側面はあるのだろう。

『CloverPit』

一方で、『Keeper』のような一直線型かつストーリー主導の作品では、ゲーム全体をクリアしないと他人にはおすすめしづらく、バイラル性が大幅に低下するとのこと。またデモ版をリリースしたとしても、基本的に物語は一部しか体験できない。そのため、PRをおこなってもゲームの背景が伝わりづらく、同じ関心をもつ集団よりも外に作品が広まりづらい、いわゆる「フィルターバブル」の状態に陥ってしまうそうだ。

ところがSteamではなく、サブスクリプションサービスに視点を移すと、状況は一変するようだ。GameDiscoverCoの推計によれば、『Keeper』のプレイヤー数は、Steamにおいては『Ball X Pit』のプレイヤー数の3%程度の規模だという。しかしGame Passにのみ限ったプレイヤー数で言えば、『Keeper』のプレイヤー数は、『Ball X Pit』のプレイヤー数の75%となるとのこと。この結果からCarless氏は、主にゲームをサブスクリプションサービスで遊ぶプレイヤーは、ストーリー性のあるタイトルを遊ぶ比率が高いことを示しているとの見解を示している。というのも、サブスクリプションを通して追加の費用なくプレイする場合、「プレイ1時間あたり何ドル」といった価格の問題を気にしなくていいからだろうとCarless氏は考察している。

Carless氏により、Steamにおいては、短期間の繰り返しプレイに堪えるセッション充実性のある作品が特に人気を博す傾向にあるとの考察がおこなわれた。そしてこの人気の傾向の偏りによって、ストーリー重視の作品を「駆逐している」ともとれる状況も指摘された。こうした要素はあくまで結果から導かれた考察であり、一概に人気ジャンルを決定づけるものではないことには留意したいが、利用するプラットフォームの形式の違いによって、ユーザー層にここまで大きな変化が生まれるというのは注目すべき点だろう。

Shion Kaneko
Shion Kaneko

夢中になりやすいのはオープンワールドゲーム。主に雪山に生息しています。

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