Steamで今年出たゲームの40%が「登録費用1.5万円」すら回収できていないとの推計。“赤字”タイトルが多数、業界の厳しい現実あらわに
Steamでゲームを販売するためには登録料が必要となるが、多くのゲームが登録料をカバーできるだけの売上を得られていない可能性が指摘され話題となっている。

ゲーム販売プラットフォームSteamでは、日々多くの作品がリリースされており、その開発規模や売上はさまざま。そんなSteamでゲームを販売するためには登録料が必要となるが、多くのゲームが登録料をカバーできるだけの売上を得られていない可能性が指摘され話題となっている。
発端となったのは、ポーランドのゲーム開発者であるArtur Smiarowski氏が10月21日に投じたポストだ。同氏はSteamの非公式統計データベースGamalyticから得られた推計データを共有するかたちでポストを投稿した。なおSmiarowski氏は過去にローグライクRPG『Soulash』シリーズを手がけており、『Soulash 2』はSteamで2124件のレビューを受け、そのうち85%が好評とする「非常に好評」ステータスを獲得している。各作品はセルフパブリッシングであり、Steamでのゲームの販売実績もある開発者といえるだろう。

そんなSmiarowski氏が示したデータによれば、2025年にはこれまで1万3132本のゲームがSteamでリリースされ、このうち下位30%のゲームは平均37ドルの売上に留まるという。
なおSteamではゲームを販売するにあたって100ドル(現在のレートで約1万5000円)の登録料を支払う必要があり、売上が1000ドル(現在のレートで約15万円)に達すると、最初に支払った100ドルが返金されるという仕組みになっている。そしてこの100ドルの販売費用を売上で相殺できなかったゲームは下位40%にものぼるとのこと。ちなみに、1000ドルの売上により登録料の返金がかなわなかったゲームは66%にもおよぶそうだ。
Smiarowski氏はこのデータを受けて、インディーゲームのゴールドラッシュは昨年ピークに達してしまったかもしれないとの見解を述べた。昨年Steamでリリースされた作品数は1万8121本と従来と比べても極めて多く、総収益が76億ドルとなり2020年クラス。一方で今年の数値はまだ2か月強を残した状態かつ、ホリデーシーズンには例年売上が増加する傾向にあることを考慮しても、昨年の総収益およびリリース総数には届かないペースとなっている。
とはいえ、下位30%の平均売上に目を向けると、その額は2020年から年々減少をたどっており、昨年が最低水準。作品の数自体は約2倍に増加しているのにもかかわらず、市場の規模としては縮小しているということになり、作品一つあたりの収益は悪化していることもうかがえる。今年は昨年よりも状況が緩和されているとはいえ、同様の水準といえるだろう。

なお今回のデータはあくまでもGamalyticによる推計値。Gamalyticは同時接続プレイヤー数、レビュースコア、平均プレイ時間などを用いて回帰分析をおこない、公表されているデータなどによって微調整することで、予測される売上を算出しているという。全体で見ると、検証結果では推定値の精度は99%とのこと。ただし小規模作品や無料タイトルでは精度は低くなる傾向があると説明されている点には留意したい。
ちなみに先述した通り、2020年と比較すると今年の作品数は約2倍にまで増加。先月BloombergのジャーナリストJason Schreier氏によって、昨今のゲーム業界では作品の数が多すぎるのではないかとする問題提起がおこなわれていた(関連記事)。同氏の指摘するように、業界では大手スタジオのAAAタイトルから個人デベロッパーが手がけるインディー作品まで、さまざまな形態でゲームが生み出されている。マーケティングの重要性も増すなかで、収益を得るためには激しい競争を勝ち抜く必要があるだろう。ましてSteamでは多くのゲームが登録料を売上でカバーすることにさえ苦戦する状況があるようで、改めて昨今の業界の競争激化がうかがえるかもしれない。