Steamの「ウィッシュリスト数と実際の売上本数」についての分析報告。「成人向けゲーム」がやたら強い、あとで買われやすいゲームの傾向

ウィッシュリスト登録されたのちに実際に購入されやすいゲームには、とある傾向があるようだ。

ゲーム開発者向けのマーケティング調査機関GameDiscoverCoは10月18日、Steamにおけるウィッシュリストがどのように売上に繋がるのかを分析した調査結果を報告した。ウィッシュリスト登録されたのちに実際に購入されやすいゲームには、とある傾向があるようだ。

ゲーム販売プラットフォームのSteamには、「ウィッシュリスト」という仕組みが存在する。ゲームをウィッシュリストに追加したユーザーは、そのゲームがリリースされた際やセール時などに通知を受け取ることができる。Steamを運営するValveによると、「人気の近日登場」タブなどの例外を除けば、ウィッシュリストへの追加によってストアページにおける露出が影響されることはないという(Steamworksドキュメント)。一方でウィッシュリスト登録数は、その作品が発売前にどれだけ注目を集めているかを表す指標としても用いられることもあり、先述した通知機能による販売促進効果も狙ってか、多くの開発者が発売前にウィッシュリストへの登録を呼びかけている。

*ウィッシュリスト登録数に対する実際の売上本数の比率(コンバージョン率)
Image Credit: GameDiscoverCo

GameDiscoverCoは昨年4月に、パブリッシャーおよび開発者を対象としたアンケートで、1万件以上のウィッシュリスト登録を受けたゲームにおけるウィッシュリストの「コンバージョン率」を算出。ここでのコンバージョン率とはすなわち、ウィッシュリスト登録数に対する実際の売上本数の比率のことを指している。このデータでは中央値は0.17となっており、グラフを見てもウィッシュリスト登録数を大きく超える売上を出す作品は少数であるということがわかる。

コンバージョン率が高い作品の傾向

そして今回GameDiscoverCoの編集者Simon Carless氏は、昨年の調査のデータをベースとして、リリース時期やゲームジャンルごとの違い、また発売後のパフォーマンスの高さに着目して、再度分析をおこなうことにしたという。過去2年以上にわたるすべてのSteamタイトルも加えて、2万5000件以上のウィッシュリスト登録数をもつゲームに絞り、マクロ分析をおこなった。

*コンバージョン率トップ20の作品
Image Credit: GameDiscoverCo

Carless氏は、2024年9月から2025年9月までの期間における初週売上を集計し、そのうちコンバージョン率が高いゲームから抜粋したトップ20をリストアップ。すると上位に並んだのは、今やSteamの定番となった協力山登りゲーム『PEAK』や、マイクで魔法詠唱する対戦ゲーム『Mage Arena』、そして物理演算ホラー『R.E.P.O.』といったタイトルだ。これらはいずれも、インフルエンサーやユーザー間で爆発的なバイラルとなった作品で、オンラインでの協力プレイに対応した作品は高いコンバージョン率を誇るといった傾向も見受けられる。

また上位に並んでいる作品の中には、「購入者のウィッシュリストに登録されない傾向の作品」も含まれているという。たとえば『NBA 2K26』や『EA Sports FC 25』などのスポーツゲームは、売上の規模と反してウィッシュリスト登録数が少なく、その分だけ高いコンバージョン率が現れているようだ。逆に、ウィッシュリスト登録数をたくさん集めて、それを1から3倍程度の高い割合で売上につなげた「すごくうまくいった作品」もランキング外にはたくさん存在しており、今回の分析ではそうした作品については考慮していないそうだ。

「評価」や「発売までの期間」も要因か

一方で、コンバージョン率が低かったワースト20のゲームも見てみると、ユーザーの評価の低さが間違いなく理由のひとつとして挙げられるとのこと。先述したトップ20のゲームでは、発売1週間後のSteamユーザーレビューの平均評価率が91%であるのに対して、ワースト20のゲームでは67%に留まるという。また、ストアページでの発売までの掲載期間を比べると、トップ20では平均214日であるのに対して、ワースト20では平均411日となっているそうだ。発売までの時間が長かったタイトルはその分ウィッシュリスト登録を多く獲得できる一方で、ユーザーの関心がその分日々増加していくとは限らないということだろう。

*コンバージョン率ワースト20の作品
Image Credit: GameDiscoverCo

またCarless氏は分析として、“続編”はコンバージョン率が低くなりがちであるという見解を述べている。これは、人々の期待の高さに加えて、続編発売のタイミングで前作が大幅な割引価格で販売されることが多いのも原因だという。また作家性の強いインディー作品、いわゆる「boutique indie」もコンバージョン率が優れない可能性があり、「面白そう」だとしてウィッシュリストに入れられるものの、購入にまでは至らないといったケースも考えられるそうだ。

ちなみに、今回分析したデータにおいて、コンバージョン率の中央値は0.15倍となり、これはGameDiscoverCoが予想していた値よりもかなり高かったとのこと。どのようなゲームがコンバージョン率を押し上げているのか探る過程で、コンバージョン率の高いユーザーについて分析したところ、成人向けゲームが多く含まれていることが判明したそうだ。成人向けゲームを好むユーザーは“ハードコア”で特にコンバージョン率が高く、またユーザー全体をみた際にはニッチなジャンルであるため、Steamではそんな成人向けゲームは外れ値として見なせてしまうほどとのこと。

ゲームのジャンルやコンセプトによってコンバージョン率に大きな違いがあるというのは興味深い。しかし同時に、ウィッシュリスト登録数と売上本数の間にはさまざまな要因が影響しており、単にウィッシュリスト登録数から売上本数を推定して期待することの危険性も露呈したかたちだ。開発者やパブリッシャーはそうしたウィッシュリストの性質も理解したうえで、巧みに活用して販売戦略を練りたいところ。またSteamを利用するユーザーは、自分がウィッシュリストを経ずにいきなり購入するゲームにはどのような共通点があるのか振り返ってみるのも面白いだろう。

Shion Kaneko
Shion Kaneko

夢中になりやすいのはオープンワールドゲーム。主に雪山に生息しています。

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