「実験用ラットに『Doom II』をプレイさせる装置」が一気に進化。自由に歩き、“射撃”までできるゲーミングねずみ訓練
Viktor Tóth氏は12月5日、ラットに『Doom II: Hell on Earth』をプレイさせる研究について発表。研究が進んだ結果、ラットが『Doom II』の世界を歩き、自発的に射撃もおこなえるようになったという。

神経工学者で機械学習ソフトウェアエンジニアのViktor Tóth氏は12月5日、ラットに『Doom II: Hell on Earth(以下、Doom II)』をプレイさせる研究について発表した。海外メディアTom’s Hardwareが報じている。
『Doom II』は、1994年にMS-DOS用ソフトとしてリリースされた一人称シューターゲームである。前作にあたる『DOOM』と同じid Tech 1エンジンを採用しており、『DOOM』『Doom II』はともに1997年にソースコードが公開され、1999年にGPL(GNU General Public License)ライセンスに基づいて再公開された。その後、多くの非公式移植が生まれ、『DOOM』を変わったデバイスで動作させるのは恒例行事のようになっている(関連記事)。
一方で今回発表された装置は“変わったプレイヤー”に『DOOM II』を遊ばせることを目標としている。本装置では小型の曲面AMOLEDディスプレイや、なめらかなボール状のコントローラーを採用し、実験用ラットに没入感の高い環境で『Doom II』をプレイさせようというのだ。ラットはゲーム内を移動できるだけでなく、レバー操作により射撃も可能。射撃はラットが自発的にレバーを操作したときにだけおこなわれる仕組みとなっている。こうしたハードウェアやソフトウェアはオープンソース化されており、誰でも3Dプリントでハードウェア部を再現し、PCとRaspberry Piのような小型コンピュータと組み合わせることで同様の研究をおこなうことが可能だ。


本研究の歴史は4年前に遡る。動物にいかに複雑なタスクを学習させられるかを研究するもので、Viktor氏が個人で進めていたものだ。2021年10月に投稿された動画では、ボール状のコントローラーに乗ったラットが歩くと、ラットの目の前にある『Doom II』の画面でもプレイヤーが進んでいく様子が映し出されている。とはいえラット自身は行動の強化に使われている砂糖水に夢中のようで、ゲーム中のマップも単純な直線的な通路に過ぎなかった。また、敵がいる状況でしばらく歩き続けると自動で射撃がおこなわれる仕組みとなっていた。そのため、本当に『Doom II』をプレイしているとは言い切れない部分もあったわけだ。
今回の装置では、新たに電気技師のSándor Makra氏が研究に参加。モジュール構築をさらに進化させ、ハードウェア面の改善が図られたという。具体的には、射撃がレバー操作となっており、ラットの自発的行動でしかおこなわれないように変わっている。また、通常のディスプレイをラットの目の前に置くのではなく、ラットの視野を覆うような小型の曲面AMOLEDディスプレイが採用された。ラットのひげの近くにはエアノズルも配置されており、状況に応じてエア噴射をしてラットに壁への衝突などを知らせる触覚フィードバックを与える。サウンドに関しては未実装のようだが、小型スピーカーを配置できるようなスペースも設けられているとのこと。今後の発展が期待される。

そのほかにも、Sándor氏の協力によりハードウェア面が全体的に強化されており、ラットが乗っているボール状のコントローラーはよりなめらかに動き、低遅延で精確にラットの動きを検出することが可能となっている。ラットに学習を促すためにボールを操作して少し歩かせたり、向きを変えたりするといった操作もできるようだ。
さらにソフトウェア面でも改善がおこなわれたようだが、ラットが自由に移動して射撃操作に馴化(habituation)したところまでで研究は中断されたようだ。本格的な学習や研究にはさらなる時間が必要だったが、本研究にプレイヤーとして参加していたラットたち3匹が年齢制限に達してしまったとのことだ。そのためラットがVRを長時間利用した際の健康状態への影響や、個体による学習の差などについては未検証となっている。
こうした研究についての情報はÁkos Blaschek氏の協力のもとでドキュメントが作られており、誰でも3Dプリント可能なハードウェアのデザインや、回路図、ファームウェアや制御ソフトウェアを確認することができる。もしも研究について新たなアイデアがある場合は、これらを活用して独自に研究を進めることもできるわけだ。
なお今回の研究に使用されたデバイスは、ラットの身体に機器を埋め込むといった、身体を傷つける仕組みにはなっていない。ラットが実験の「ご褒美」を頬張っている写真も添えられており、ラットの健康状態について心配する必要はなさそうだ。また、研究に参加したラットたち3匹の名前はTodd、Kojima、Gabeと、ゲーム開発者にちなんだ名前になっているという。

多くのデバイスで動作してきた実績を持つ『DOOM』および『Doom II』が、柔軟に扱える3Dマップや実験環境として活用されている点は興味深い。また、これまで話題を集めていた『DOOM』の“移植”としては、ゲーム用途ではないさまざまなデバイスに向けたものが通例となっていた。一方で今回のプロジェクトは、プレイヤーが人間以外であるというのも、注目を集める要因となっていると思われる。今後さらに研究が進み、ラットが実際にステージを攻略する日が来るのか注目したい。
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