「オープンワールドゲームが前向きメンタルにしてくれる可能性」示す研究結果。自由度が日々の悩みから解放してくれるとして

オープンワールドゲームについて、イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンより、メンタル改善に役立つとする研究論文が出版された。

広大でひとつづきになった世界を探索することのできるオープンワールドゲーム。そんなオープンワールドゲームについて、メンタルヘルスの改善に役立つ可能性を示す研究結果が報告されている。海外メディアScience Alertが報じている。

オープンワールドとはゲーム世界の設計にかかわる言葉のひとつだ。アクションゲームやRPGなどと違い、ゲームジャンルそのものではないうえ、厳密に統一された定義が存在するわけではないが、おおまかにはゲームのマップが地続きになっており、ほとんどロード画面を挟まないものが主にオープンワールドと呼ばれる傾向にある。またメインストーリーの進め方が一通りでなく、いくつかの選択肢が取れることや、さまざまなサブクエストが存在するのもオープンワールドゲームの特徴のひとつといえる。代表的なオープンワールドゲームとしては、『グランド・セフト・オートV』『サイバーパンク2077』『ELDEN RING』などがあげられる。ほか、公式にはそうした要素がオープンエアと標榜されているものの『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下、ブレワイ)も類似の設計といえるだろう。

『ELDEN RING』

そんなオープンワールドゲームは、研究によればプレイヤーをリラックスさせ、幸福感の向上につながる可能性があるそうだ。当該の研究論文は、インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)の医学部に籍を置くAilin Anto氏を筆頭著者とするもの。同論文は2024年6月に投稿され、2024年11月にアクセプトされたようだ。

調査ではICLのオープンワールドゲームをプレイしたことのある大学生および大学院生計630人に対しアンケートを実施。加えて定性的データ分析として、オープンワールドゲームをプレイしたことのある32名の学生に対しインタビューを実施した。データ収集の際には潜在的なバイアスを最小限に抑えるために、2名のリサーチアシスタントがインタビューをおこない、参加者の回答を誘導しないように注意が払われたという。

その結果、回答者の多くはオープンワールドのマップを歩き回って日々の悩みを忘れるといった価値を見出していたようだ。学業や人間関係などから解放されるという声が、回答では多く挙げられていた。なかには、ソーシャルメディアなどで、ネガティブなニュースを見てしまいげんなりしたときなどにプレイして、純粋に冒険を楽しむことで気分の落ち込みを回復するというプレイヤーもいたそうだ。

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』

そして具体的に『ブレワイ』や『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』の名前を挙げ、時間やタスクに追われず、自分のペースで好きなように探索できる部分が楽しいとの回答も見られた。ダンジョンの仕掛けを解いた際の達成感や、ストーリーにおけるカタルシスなども解放感を得られる要因として挙げられている。それ以外のタイトルでも、タスクが強制されないことや意思決定がプレイヤーに委ねられている自由度を評価する回答が多く、それがストレスからの解放を感じる要因になっているのではないかとの調査結果が示されている。

さらには、オープンワールドゲームをプレイすることが、人が現実世界に立ち向かうきっかけとなっているとする考察もおこなわれている。ゲームをプレイすることによって、程よく息抜きができた結果、現実での問題に対する新たな考え方ができるようになったとする声が論文内では引用されている。また「ゲームではこんなに大きな問題があるのに、自分はなんて小さなことで悩んでいるのか」などと、自省を経たうえで、「自分の悩みはちっぽけだ」として解決できたプレイヤーもいたようだ。

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』

論文では調査結果のまとめとして、オープンワールドゲームを遊ぶと、嫌なことを一旦忘れたりリラックスしたりすることができ、プレイヤーの精神的な安らぎに貢献しているとする見解が示された。これはメンタルヘルスの治療に活かすこともできるとして、将来メンタルヘルス改善のための手段としてゲームが利用されていく可能性も示唆されている。一方、現時点では自己申告のデータに頼っている点を課題としつつ、今後は生理学的、あるいは観察による測定によって、メンタルヘルスに与える影響を研究したいとの展望も述べられている。

オープンワールドゲームにおいてはその世界の広大さ、探索における自由さが売りとされる傾向がある。メインストーリーという“くびき”こそあるものの、プレイヤーがどのような選択をし、どのように物語を進めていくかというのは、ある程度プレイヤー自身に委ねられているといってもいいだろう。そうした、いわゆる自由度の高さがメンタルの改善に役立っているのかもしれない。

ちなみに過去には、あるゲームライターが『ブレワイ』をプレイしてうつ病から立ち直ったというエピソードも注目を集めていた(関連記事)。同作も含め、オープンワールド系のゲームがメンタル改善効果をもつ可能性が、改めて研究結果として示されたのは興味深いところだろう。

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』

なおオープンワールドゲームではないものの、過去には『パワーウォッシュシミュレーター』のプレイが、メンタル改善に効果があるとする研究結果が以前に報告されていた(関連記事)。こちらも時間に追われず、黙々とプレイヤー自身のペースで掃除ができるという点が、先述のオープンワールドゲームにおいてメンタル改善効果をもつ可能性が示された要素との共通点といえるかもしれない。ステージやオブジェクトが綺麗になったときの達成感も、メンタルに効果を及ぼしている可能性も考えられる。

今回、ゲームのプレイによって気分が改善したとの研究結果が、以前報告されたものとはタイプの異なるゲームにおいても改めて提示されたというのは興味深い。作品によっては、単なる気分転換にとどまらない効果をもつのかもしれない。

Kosuke Takenaka
Kosuke Takenaka

ジャンルを問わず遊びますが、ホラーは苦手で、毎度飛び上がっています。プレイだけでなく観戦も大好きで、モニターにかじりつく日々です。

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