とある傑作FPS開発者、「失敗移植」について時を超えて明かす。“寄せ集めチーム”で悪戦苦闘

往年のFPS『The Operative: No One Lives Forever』に携わった開発者が、PS2向けの同作移植について「失敗だった」と吐露。リリースから約24年を経て、その経緯について明かしている。

往年のFPS『The Operative: No One Lives Forever』(以下、NOLF)に携わった開発者が、PlayStation 2(以下、PS2)向けの同作移植について「失敗だった」と吐露。リリースから約24年を経て、その経緯について明かしている。

『NOLF』は、2000年にPC向けにリリースされたFPSだ。本作でプレイヤーは世界の平和を守る秘密諜報機関・UnityのスパイエージェントであるCate Archerとなり、世界を巻き込む極秘任務を戦い抜く。当時のFPSとしては珍しかった本格的なステルス要素や、スパイ小道具などを使ったステージ攻略、そしてバラエティに富んだ展開が好評を呼び、当時は「『Half-Life』に次ぐ傑作FPS」とも称され複数のGOTYアワードを獲得。翌年にはPS2に向けても移植版が展開された。

オリジナル版『NOLF』

『NOLF』を手がけたMonolith Productions(以下、Monolith)は、かつて存在したゲームデベロッパー。設立後にはシューター/アクションゲームを中心に多数の作品を開発し、後にWarner Bros. Games傘下に。近年では『F.E.A.R.』『Condemned: Criminal Origins』『Middle-earth: Shadow of Mordor(シャドウ・オブ・モルドール)』など好評作品を世に送り出すも、2025年に閉鎖されることとなった(関連記事)。

そんなMonolithにかつて在籍し、『NOLF』の開発に携わったMatthew Allen氏が、『NOLF』PS2版の“失敗”について明かした。というのも、『NOLF』PS2版はオリジナル版に比べて芳しくない評価を受けた。追加コンテンツが収録されたものの、マルチプレイモードは未収録。また、オートセーブ機能の廃止がゲームプレイと噛み合わないといった理由で賛否両論が寄せられることになった。オリジナル版『NOLF』にてリードアーティストを努めたAllen氏が、同移植版の開発背景についてTime Extensionに向けて語った。

オリジナル版『NOLF』

移植の発端として、当時Monolith内では『NOLF』にも採用されていた内製ゲームエンジン「LithTech」製のゲームをPS2に移植するプロジェクトチームが動いていたという。その対象として白羽の矢が立ったのが『NOLF』というわけだ。また、同時期に同スタジオが送り出した『Sanity: Aiken’s Artifact』はAllen氏曰く「6本売れたかどうかというほど、売上が悪かった」とのことで、同氏は『NOLF』PS2版リリースを目指して“寄せ集めチーム”と共にプロジェクトに取り組む流れとなった。

ところが、プロジェクトはいきなり怪しい雲行きを見せる。『NOLF』は当時、快適に動作させるためには高性能なグラフィックボードも必要になるハイエンド環境向けのタイトルだった。それをPS2に移植するため、チームメンバーはAllen氏に全コンテンツのリメイクを提案。さらにはAllen氏に向けて「技術的な話はわからない、みんなどうしたらいいか全くわからないが、とにかくPS2移植版を作るんだ」と言い放ったという。

オリジナル版『NOLF』

ところが、幸いにも救いの手が差し伸べられることになる。LithTechに携わる別の有能なエンジニアチームがプロジェクトに関わってくれたそうだ。ミーティングの中では、移植チームメンバーがエンジニアたちに向けて「PC版のコンテンツを移植用に“解体”するツールを作ってくれ」と言い放ちエンジニアたちを困惑させるも、Allen氏が慌てて「いや、それは移植チーム側の仕事だ」とフォローする一幕もあったという。

PS2版『NOLF』

そうした経緯もありつつ、Allen氏らは実に9か月間で移植を成し遂げた。しかし、Allen氏からして『NOLF』PS2版はひどい出来だったとのこと。「一番嫌な敵にすらこれを出してほしくない」と酷評するほどながら、いずれにせよPS2版は世に出ることとなった。

開発者さえこき下ろすほどの品質となってしまったPS2版『NOLF』の裏側には、ハイエンドPC向けゲームの移植をおこなうにはあまりにも乏しいPS2のスペックと、急ごしらえの開発体制があったようだ。とはいえ、当時の技術的には難しい移植の成功に無事漕ぎつけたのは、Allen氏や協力してくれたエンジニアチームの力量があってこそだったのかもしれない。

開発者による移植作品の後がたりとしては、「移植成功の秘訣」や「成功の理由」などポジティブな話がされることが多い。今回は開発者自らが「失敗だった」とする移植作品について語られる珍しいケースだろう。

Sayoko Narita
Sayoko Narita

貪欲な雑食ゲーマーです。物語性の強いゲームを与えると喜びますが、シューターとハクスラも反復横とびしています。

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