元Blizzardのゲーム開発者、「これからは“AA級”タイトルがどんどん台頭する」と予測。ゲーム市場の“スキマ”を狙う

元Blizzard Entertainment社員であり、Notorious Studiosの設立者であるChris Kaleiki氏は、今後ゲーム業界にはAA級タイトルがどんどん増えていくと予測。AA級タイトル開発におけるメリットなどを、GamesRadar+に向けて語っている。

かつてBlizzard Entertainmentに在籍していたゲーム開発者のChris Kaleiki氏は、海外メディアGamesRadar+のインタビューに回答。同氏によれば、これからはインディー(小規模)開発とAAA級タイトルの中間にあたる、AA級タイトルが台頭するのではないかと予想しているようだ。

Chris Kaleiki氏はNotorious Studiosの設立者だ。元Blizzard Entertainmentのスタッフでもあり、同社に在籍していた時期には、約13年にわたりゲームデザイナーとして『World of Warcraft』の開発に携わっていた。Notorious Studiosはアメリカ・カリフォルニア州に拠点を置くゲームスタジオで、2021年に設立。初タイトルとして現在PvPvEアクションRPG『Legacy: Steel & Sorcery』を開発中だ。同作は日本時間2月13日の早期アクセス配信開始を予定している(関連記事)。

『Legacy: Steel & Sorcery』の早期アクセス配信トレイラー

Kaleiki氏は同作について、GamesRadar+によるインタビューに回答。その中ではゲームの開発秘話のほか、同氏の考えるゲーム業界の今後についてといった内容が語られている。このなかでKaleiki氏は、今後業界で小規模なインディーゲームとAAA級タイトルの中間に位置する、「AA級タイトル」が増加するとの見解を述べている。

Kaleiki氏は今日ではインディーゲームが「非常に飽和している(incredibly saturated)」との考えを示した。たとえばSteamではリリースされるほとんどのゲームがインディーゲームであり、AAA級タイトルの数は非常に少ないと語る。加えてAAA級タイトルは年々開発コストが高くなり、開発期間も長大になっている傾向にあるとして、インディーゲームとAAA級タイトルの間に生まれている「大きな隔たり」を指摘した。

Kaleiki氏は、そんな隙間を埋めるような、インディーゲームよりも大規模ながら“数千億円”ほどの利益を稼ぐことはないようなゲームを求める市場がある、との持論を述べている。Kaleiki氏は大企業によるAAA級タイトルの開発が減ると見込んでいるようだ。同氏はAAA級タイトルとして『エルデンリング』などを例に挙げつつ、ユーザーからの根強い支持があるタイプの作品は、需要に従いこれからも世に送り出され続けるものの、そうした大作に追従して同様のスタイルのゲームを制作しようとするのは、ゲーム開発において「持続可能ではない」としている。

『エルデンリング』

一方でKaleiki氏は、大手ゲームスタジオにて(社内あるいは委託で)小規模な作品が手がける試みがみられることにも注目しているそうだ。同氏は、任天堂と日本の開発会社グッド・フィールが共同開発した『プリンセスピーチ Showtime!』を具体例として挙げた。ほかにも『メイジシーカー』や『ヌヌの唄』を、Riot Gamesの社内レーベルであるところのRiot Forgeが手がけていることにも言及している。

実際Kaleiki氏が挙げたほかにも、たとえばスクウェア・エニックスが小規模なタイトルとして『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』などの複数作品を手がけたことや、もともとネクソン社内のサブブランドであったミントロケットが『デイヴ・ザ・ダイバー』を開発していたことなどは記憶に新しい。大企業の後ろ盾や人材力を活かした「AA級タイトル」の開拓は業界の新たな戦略としてあるのだろう。

『Legacy: Steel & Sorcery』

Kaleiki氏はさらに、開発に携わる目線の意見としても「AA級タイトル」が好まれる傾向があるという。AAA級タイトルの開発はやりがいがあるものの、規模が膨大になるため、開発にあたってさまざまな手続きを経たり、特定の事物の対応に集中してしまいがちになったりするという。対してAA級タイトルでは規模が小さいゆえに、ゲームのさまざまな部分に同時に取り組めるとの考えを示した。Kaleiki氏はBlizzard Entertainment時代に不満こそなかったものの、色々な箇所に取り組める現在のNotorious Studiosのスタイルの方が幸せだと述べている。

ゲーム開発者にとって先述の「AAA級における一極集中スタイル」か「AA級におけるなんでもやるスタイル」のどちらが好ましいかは個人差があるだろう。しかしいずれにせよ、経営目線ではAAA級タイトルは大きな開発リソースを割くゆえに、売上が想定より振るわなかったときのリスクは大きい。一方で小規模開発ゲームについても、昨今ではインディーゲームスタジオが業界でもっとも大きな割合を占めている傾向がみられ(関連記事)、競争は激化しているだろう。今回Kaleiki氏が述べるように、一定の開発・宣伝リソースが割かれつつも開発規模やボリュームはほどほどといった「AA級タイトル」の開発は、業界の“スキマ”を狙う戦略として有力になっているのかもしれない。

Kosuke Takenaka
Kosuke Takenaka

ジャンルを問わず遊びますが、ホラーは苦手で、毎度飛び上がっています。プレイだけでなく観戦も大好きで、モニターにかじりつく日々です。

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