KRAFTONのCEO、Tango Gameworksを受け入れた理由は「売れるゲームを作れるからじゃない」。評価したのは別のところ


KRAFTONは8月12日、マイクロソフトおよびZeniMax Mediaの協力のもと、今年5月に閉鎖されたTango Gameworksの事業を継承したと発表した(関連記事)。この件について、KRAFTONのCEOを務めるキム・チャンハン氏が海外メディアGame Developerのインタビューに応じた。キム氏によれば、Tango Gameworksの買収は、“大きな利益を上げるため”のものではないようだ。

Tango Gameworksは、日本の東京を拠点にするゲーム開発スタジオだ。三上真司氏によって2010年にTangoとして設立。その後Bethesda Softworksなどを傘下にもつZeniMax Mediaに買収。以後、ZeniMax Asiaのゲーム開発部門Tango Gameworksとして活動し、『サイコブレイク』シリーズや、『Ghostwire: Tokyo』、『Hi-Fi RUSH』などを手がけてきた。この間には、ZeniMax Mediaを買収したマイクロソフトの傘下に入っている。なお三上真司氏は2023年に同社を退職している(関連記事)。

そして今年5月には突如Tango Gameworksの閉鎖方針が発表され、6月にはゼニマックス・アジアとともに閉鎖された(関連記事)。そこから約2か月を経て8月12日、KRAFTONが事業継承をおこなったと発表。事業継承にあたっては『Hi-Fi RUSH』のIPも取得。同作のIP拡大に向けた開発および新たなプロジェクトに着手する予定と明かされている(関連記事)。

『Ghostwire: Tokyo』


KRAFTONは、傘下にPUBG STUDIOSやBluehole Studio、Unknown Worldsなどを抱える韓国のゲーム企業だ。それぞれのスタジオの代表作としては『PUBG: BATTLEGROUNDS』、『TERA』、『サブノーティカ』といった作品が挙げられる。

今回KRAFTONのCEO、キム・チャンハン氏は、海外メディアGame Developerによるインタビューに応じた。キム氏は、Tango Gameworksの買収理由について、「できるだけTangoから多くの人材を獲得し、彼らの遺産を継承したい」と考えたからだと説明。高い評価を集めるTango Gameworksの作品群を、スタジオ閉鎖で終わらせたくないという意図のようだ。

なお同スタジオスタッフのキャリアに空白を空けすぎないために、出来る限り取引を早く完了させたかったとも明かされている。またファンが特に続編を待ち望んでいるという考えもあり、マイクロソフトからのIP取得は『Hi-Fi RUSH』のみに留まったという事情も明かされた。

『Hi-Fi RUSH』


そしてキム氏は、買収したTango Gameworksには、失敗を恐れずクリエイティビティを発揮することを望んでいると述べている。またKRAFTONとしては、手がけるゲームのラインナップを増やす方針があるそうで、Tango Gameworksがクリエイティブなタイトルをさまざま手がけていたことも、同スタジオの事業継承に繋がったようだ。

とはいえ今回の事業継承にあたっては、商業的側面でのメリットはあまり考えていないという。たとえば『Hi-Fi RUSH』がどれだけ商業的に成功したか、という質問に対してキム氏は、売上を把握しているわけではないとしつつも、(製作費も考えると)マイクロソフトに収益をあまりもたらさなかった可能性もあるとの見解を伝えている。さらに、Tango Gameworksのほかの作品についても多くが損益分岐点に達していなかったかもしれないと述べている。仮にユーザーに望まれているであろう「Hi-Fi RUSH 2」を発売したとして、それがKRAFTONに大きな利益をもたらすとも思っていないとのこと。

しかしながら、キム氏はTango Gameworksが新鮮で特徴的なゲームプレイの作品を手がけてきたとしており、スタジオのアプローチを評価しているようだ。またキム氏は、KRAFTONのような企業は業界トップレベルの大ヒットを絶え間なく生み出し続けることを目指すのではなく、スタジオのクリエイティビティを育てつつ「元を取る」ことを目標にすべきだという持論を説明。独創的なゲームでラインナップを増やすことが、結果的にゲーム業界でゲームを売り出すにあたってのリスクを軽減しうると考えているそうだ。

『サイコブレイク』


突然の閉鎖を経たものの、KRAFTONによって事業の継承やスタッフの移籍がおこなわれたTango Gameworks。事業継承の主な理由は、スタジオから見込める利益よりもクリエイティブさにあったようだ。昨今のゲーム業界では、大作だけでなくさまざまな開発規模の作品を手がけることがリスクを軽減しうるといった考えもみられる(関連記事)。今回のインタビューを見るに、KRAFTONも“大きな当たり”だけでなく、大小さまざまなIPを創出する方針を取っているわけだろう。

なお先述の通りKRAFTONは『Hi-Fi RUSH』のIP拡大を目指しており、Tango Gameworksスタッフは今後新プロジェクトに着手する予定としている。新天地にて“復活”を果たす、Tango Gameworksスタッフが手がけるさらなる作品の登場にも期待したいところだ。