『グランド・セフト・オート』を「大学の講義」に使うと宣言する教授あらわる。『GTA』で学ぶ“アメリカ史”

テネシー大学にて現地時間の来年1月20日より、『グランド・セフト・オート(GTA)』シリーズを用いたアメリカ史の講義がおこなわれるという。

テネシー大学にて現地時間の来年1月20日より、『グランド・セフト・オート(GTA)』シリーズを用いたアメリカ史の講義がおこなわれるという。

『GTA』シリーズは、Rockstar Gamesが手がけるオープンワールドクライムアクションゲームだ。1997年発売の見下ろし型2Dゲーム『グランド・セフト・オート』に端を発しており、2001年発売の『グランド・セフト・オートIII』では3Dグラフィックス化。それぞれアメリカの都市をモチーフとする架空の都市や地域が舞台になっており、来年5月26日には最新作『グランド・セフト・オートVI』(以下、GTA6)が発売予定だ。

『GTA6』

このたびテネシー大学にて現地時間1月20日より、そんな『GTA』シリーズ作品を用いたアメリカ史の講義がおこなわれることが米IGNなどに報じられ、注目を集めている。また同誌は講義を担当する歴史学教授のTore Olsson氏に取材を実施。『GTA』シリーズ作品が採用された意図などが語られている。


“『レッド・デッド・リデンプション』に続いて”講義の題材に

Olsson氏によると、講義の主題はあくまでアメリカ史であり、ゲーム自体の研究ではないという。『GTA』を過去を探るための構造的なフレームワークとして活用し、『GTA』シリーズの登場人物・都市・農村の風景・物語などを“フィクションとしてのアメリカ”として分析。過去半世紀にわたって米国で実際に起こった出来事を検証する、本格的な歴史の授業の枠組みとして『GTA』を用いるという。

なおOlsson氏は過去にも、Rockstar Gamesが手がけた西部開拓時代のオープンワールドゲーム『レッド・デッド・リデンプション2』(以下、RDR2)を題材として、歴史の講義をおこなっていた。この講義をもとに「Red Dead’s History A Video Game, an Obsession, and America’s Violent Past」という書籍も出版しており、オーディオブック版は『RDR2』の主人公アーサー・モーガン役を務めたRoger Clark氏が読み上げを務めている。

『RDR2』

そんな『RDR2』のほかにも、過去には時代考証に基づくゲームもさまざま展開されてきた。対して『GTA』シリーズといえば、基本的には現代に近い舞台設定。“歴史のゲーム”という印象は抱きづらいだろう。しかしOlsson氏は、本シリーズがすでに誕生から30年近く経過しており、中には1986年を舞台とする『グランド・セフト・オート・バイスシティ』(以下、バイスシティ)、1992年を舞台とする『グランド・セフト・オート・サンアンドレアス』(以下、サンアンドレアス)など発売時点から10年~20年前を舞台とする作品もあったことに言及。そして同氏は1980年代から今日に至るまでの年月を、アメリカ史においてまとまりのあるひとつの時代として捉えているという。

Olsson氏は、政治的な分断や経済的な格差、移民の増加、受刑者人口の増加など、さまざまな観点から1980年と現在の米国が似ても似つかない状況になっていると言及。講義ではこうした変化がいかにして起こったのかを、『GTA』シリーズの架空の世界を用いて探っていくとしている。

ただOlsson氏は、もちろん作中描写では現実の忠実な再現ではなく風刺的なパロディであり、現実と異なる描写も少なくないと説明。一方で、たとえば作中の「コンテナ港」には、歴史的な文脈が反映されていると述べている。それぞれロサンゼルス・ニューヨーク・マイアミをモチーフにした、ロスサントス・リバティーシティ・バイスシティではいずれも、活況を呈するコンテナ港に、寂れた工場地帯が近接する構図で描かれてきた。同氏は1980年代以降のアメリカを大きく変えた要因として「コンテナ輸送」技術を挙げ、こうした地理的配置が歴史に則していると考えているそうだ。

『グランド・セフト・オートIV』

このほか作中の「ラジオ番組」に着目すると、『バイスシティ』や『サンアンドレアス』では1つの局でさまざまな政治的な立場の人物たちが討論をおこなっているという。対して『グランド・セフト・オートIV』や『グランド・セフト・オートV』ではそれぞれの立場の政治評論家が別々の局で毒舌を吐く、分極化したメディア構造がみられるとのこと。

この違いには「Fairness Doctorine」の撤廃が、図らずも反映されているのではないかとOlsson氏は見ているそうだ。「Fairness Doctorine」とは米国にてかつて定められていた、メディアに政治的な公平性を求める原則のこと。1949年より導入されていたものの、1987年にロナルド・レーガン大統領の政権下で廃止され、政治的に偏った報道が増加したとされている(産経ニュース)。『GTA』シリーズの制作陣がそうした歴史的背景を踏まえていたかどうかは不明ながら、いずれにせよそれぞれの作品に当時のラジオ番組の内容が踏襲された結果、現実の米国社会の変遷も垣間見える要素になっているのだろう。


『GTA』好きゆえに

ちなみにOlsson氏は“認めたくないほど”『GTA』シリーズに多くのプレイ時間を費やしてきたファンだそうで、その筋書きや登場人物を用いて歴史学の講義をおこなうことを楽しみだと語っている。講義の中でOlsson氏は、ゲームの映像やスクリーンショットを紹介したり、ときには実際にプレイしてみせたりすることも予定しているという。とはいえ受講者にはゲームをプレイすることを求めることはなく、ゲームにおけるフィクションの内容が試験の設問になることもないと明言されている。

さらにOlsson氏は、同シリーズが描いてきた暴力的な側面について称賛も支持もしないという立場を表明。むしろ講義が伝えるメッセージはきわめて反暴力的だそうで、今日の米国社会の分断の原因を示し、より調和のとれた未来が実現可能であることを受講者に理解してほしいと述べている。

なお講義については本来『GTA6』の発売後となることが予定されており、Olsson氏は授業の柱とすることを想定していたものの、同作が今年秋から来年5月に発売延期されたことでその計画はふいになったそうだ。将来は『GTA6』の内容も取り入れる予定だそうだが、当面は過去作を用いる授業になるとのこと。また同氏は学生の集中力がそがれることを心配して、『GTA6』の発売が期末試験に重ならないことを祈っているとのコメントを綴っている。

『GTA6』

ゲームが大学の講義に採用される例は複数見られ、たとえば過去には『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』がメリーランド大学カレッジパーク校の機械工学の講義に用いられたこともあった。また『アサシン クリード』シリーズについても、一部作品では公式から教育用のカリキュラムガイドが公開されてきた。

対して『GTA』シリーズは細やかな作り込みも評価されてきた一方で、暴力的かつ風刺や際どいジョークも満載なゲームであり、学術的なイメージとは程遠いかもしれない。今回は同シリーズのファンだというOlsson氏により、数十年にわたる米国社会の変遷を確認するための題材として、大学の講義に抜擢されるようだ。どのような講義となるのかは注目されるところだろう。ちなみに同氏は先述した「Red Dead’s History A Video Game, an Obsession, and America’s Violent Past」と同じく、今回の講義の書籍化にも前向きな様子だ。

『GTA』シリーズの最新作『グランド・セフト・オートVI』は来年5月26日にPS5/Xbox Series X|S向けに発売予定だ。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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