インディーゲーム開発者が“激やばパブリッシャー”についての体験談を赤裸々に暴露。日本語ローカライズは機械翻訳、開発資金未払いなどシャレにならない体験明かす
海外掲示板Redditのゲーム開発に関するトピックを扱うサブレディットr/gamedevにて、開発者が「あるパブリッシャーについての“怪談話”」を投じ、話題となっている。投稿によると、そのパブリッシャーからは非常に劣悪な契約条件を迫られたうえ、パブリッシャーとしての対応も酷いものだったという。
今回自身の経験における“怪談”をRedditで語ったゲーム開発者は、ヤナ(yana_kosaka)氏だ。同氏は『Nuumonsters』や『MonMae (MonTamer Maker)』を手がけており、『Notice Me Leena-senpai!』でもアートの部門で携わっている。ゲーム業界に複数年関わっている開発者であり、新作としては『ドキモンクエスト』のリリースを今年第4四半期に控えている。
そんなヤナ氏が、「Game Publisher horror story (Almost), take your game and run for your life!(ゲームパブリッシャーのホラーストーリー、自分のゲームを抱えて必死に逃げろ!)」と題してr/gamedev、そしてX上に自身の経験を投稿。ゲームパブリッシャーに関する“ホラーな”体験があったことを明かした。
見え隠れする、とあるパブリッシャーの「嘘」
ヤナ氏によれば、投稿の数日前に、同氏の作品を担当する“はず”であったとあるパブリッシャーとのミーティングがおこなわれたという。パブリッシャーとは今年2月はじめ頃から話をしていたものの、コミュニケーションがうまくいっていなかったそうだ。さらに同氏はパブリッシャーに「疑いを持ち始めていた」そうで、今回ミーティングに踏み切ったとのこと。
当のパブリッシャーはヤナ氏に対し、マーケティング、他ゲームハードなどへの移植、ローカライズの総費用として17万6000ドル(約2630万円)と見積もっていたとのこと。そしてこの見積もりにおいては、17万6000ドルの収益が出るまでヤナ氏側に一銭も入らないとされていた。
なおこの金額に到達した以降の収益は、ヤナ氏が受け取る割合としてPC版が50%、コンソールのダウンロード版が30%で提示されていたとのこと。またコンソール向けパッケージ版については1万5000ドル(約220万円)での買取となり、ロイヤリティなしでの取り決めとなっていた模様。つまりヤナ氏がゲーム発売後に利益を得るには非常に多くの売上を達成しなければならず、そのうえで収益の一部しかもらえない、といった条件となっていたわけだ。
こうした条件を提示され、すでに疑念を抱いていたというヤナ氏であったが、このほかにも問題となったパブリッシャーの「嘘」が見つかったという。というのも同氏によればそのパブリッシャーは、ローカライズの品質について「ビデオゲームに特化したネイティブスピーカーが10か国語以上にローカライズできる」と宣伝していたそうだ。しかし実際に同社からリリースされたゲームをヤナ氏が遊んでみると、日本語がすべて機械翻訳でおこなわれていたのを確認したという。そうしたずさんなローカライズはユーザーレビューでも不満点として挙げられていたとのこと。
先延ばしも多々
さらにヤナ氏は、開発資金の支払いも延期され続けたと述べている。当該パブリッシャーは、はじめに2万ドル(約300万円)の開発資金を提示。これは2月に両者の間で話をしてから1、2か月ほどで承認が下りたものの、なかなか払われることはなかったという。そして開発資金の支払いは延期され続け、最終的に資金を受け取ることなく、ゲームの開発は完成を迎えてしまったようだ。
このことについて、パブリッシャーは後払いするどころか、「ゲームが完成したのだから、開発資金はもう必要ないでしょう(it’s finished so you don’t really need the development funds anymore right?)」と述べたことを明かした。その代わりとして、(先述したパッケージ版の)ロイヤリティを先払いすると言われたようだ。
そして先述の“機械翻訳ローカライズ”なども含め、当該パブリッシャーに不信感を抱いていたヤナ氏は、上述のように面談の機会を設けることにしたという。ヤナ氏はこの面談によって、パブリッシャーに対する「不安」が確認できた気がしたと振り返っている。
面談は基本的に、パブリッシャーがヤナ氏との当初の約束の多くを破り、変更することに終始していたそうだ。最後にヤナ氏が、機械翻訳でおこなわれた日本語ローカライズについて言及した際にはパブリッシャー側は目を見開いてうろたえ、「その場ででっち上げたような」言い訳がおこなわれたという。またヤナ氏は実際にローカライズの担当者がいることを確認しようとしたものの、日本人翻訳者の名前や会社名については、ついぞ教えてもらえなかったとのこと。
そして面談は終了したものの、その後に送ったメールには、投稿時点でも返信が来ていないそうだ。ヤナ氏はもう連絡は来ないと考えているとのこと。こうして問題のパブリッシャーとの面談や資料作成などに手間を取られてしまったものの、結果として契約を結ぶことはなく、自費出版というかたちで『ドキモンクエスト』をリリースすることとなるようだ。
“食い物にされないため”の警鐘
ヤナ氏はこうした経験を“恐怖体験”として振り返りつつ、インディーゲーム開発者がパブリッシャーによって食い物にされる危険性がある、と警鐘を鳴らした。今回の投稿をおこなったのも、他のインディーゲーム開発者が被害にあわないように、具体的な情報を共有するためだったとのこと。
加えてヤナ氏は、“まずいパブリッシャー”を見分けるいくつかのポイントを紹介している。たとえば条件が突然、あるいは大幅に変更されたり、パブリッシャー側の取り分が不自然に多かったりするときには「赤信号」なのだという。またパブリッシャーからリリースされているゲームのレビューを、新旧問わず多言語で確認する、パブリッシャーと仕事をしたことのある開発者に話を聞いてみるといったことで、事前に危険性を把握しておくこともできるとの見方を示している。
今回ヤナ氏が投じた「恐怖体験」を見るに、業界には悪質なパブリッシャーも一部存在するようだ。なお本件とは直接関係がないものの、昨今では特に海外でゲーム業界が苦戦している状況もうかがえ、新作を売り込んでもそもそもパブリッシャーが見つからないといった例も見られる(関連記事)。そうした情勢もあるものの、ゲーム開発者にとっては作品を預ける、あるいは受け渡すこととなるパブリッシャーについては、実績や信頼性は引き続き重要視されるところかもしれない。
なおヤナ氏の手がける『ドキモンクエスト』は紆余曲折がありながらも、PC(Steam)向けに11月下旬にリリース予定となっている。ストアページではデモ版も配信中だ。