『ぷよぷよ』のe-Sports化をうたう『Magical Stone』が正式発表、PC向けにベータテスト開始【UPDATE】
【UPDATE 2016/3/30 18:30】 セガの広報担当者はAUTOMATONの取材にて、今回の発表に合わせてTwitchで語られたようなセガ側のコメントが事実かという問い合わせに対し、事実確認はできていないと返答した。「事実関係の確認はできておりません。また、セガの広報部門からは発表しておりません」。またセガ側が『Magical Stone』に関してどのように捉えているのかを問い合わせたところ、「コンテンツにつきましては、セガのものではございませんので、コメントを差し控えさせていただきたく存じます」と答えている。
――れそ氏の配信中発言で御社の方のコメントもいくつか出ていますが、こちらは広報から実際にこういった発言があったという事でしょうか?
担当者:
ご案内いただいたサイト上で報道されております発言については、事実関係の確認はできておりません。また、セガの広報部門からは発表しておりません。
――今回の件についてセガゲームスとしてどういった捉え方をされていますか?
担当者:
こちらは『Magical Stone』というタイトルへの見解に関するご質問となりますでしょうか?コンテンツにつきましては、セガのものではございませんので、コメントを差し控えさせていただきたく存じます。
株式会社GameFactoryは、基本無料プレイのPCパズルゲーム『Magical Stone(マジカルストーン)』のオープンベータテストを行うことを3月27日に発表した。『Magical Stone』は現在セガが販売を行っている『ぷよぷよ』シリーズのアイディア的なクローンであり、同社はこのタイトルのe-Sports化を目指すとされている。
『ぷよぷよ』と『Magical Stone』の比較
『Magical Stone』はいわゆる「対戦落ち物パズルゲーム」。ルールとしては、縦12マス×横6マスのフィールドに画面上部から降ってくる2色一塊の「オーブ」を操作して配置、同色のオーブが4個以上隣接すると消滅し得点となる。オーブが消滅したことにより積み上がったオーブの配置が変わり、新たに同色オーブが4個以上隣接すると「連鎖」が発生し、高得点を得られる。連鎖は2回以上発生すると「コンボ」となり、無色の「ブロックオーブ」を対戦相手のフィールドに送り込む。フィールドの最上部にまでオーブが積み重なり、先にフィールドにオーブが出現できない状況になってしまったプレイヤーが敗北となる。
このルールを読むと、「ぷよ」を「オーブ」と名称変更した『ぷよぷよ』であるという簡単な説明には納得がいく。ここまでまったく同じなクローンゲームを作ることに問題はないのだろうか。
著作権や特許権についての問題
初代『ぷよぷよ』は1991年にコンパイルより発売された。以後20年以上シリーズは続き、根強いファンを獲得して今日まで大会が開かれている。『Magical Stone』の発表も、3月27日に行われた「ぷよぷよ統一王座戦」配信内でのものだった。『ぷよぷよ』有名プレイヤーのれそ氏によるこの発表によれば、当初は『ぷよぷよ』の権利を持つセガに対し、『ぷよぷよ』のプロスポーツ化の動きに対し、ライセンス貸与などの公認を求めたという。しかしその申し出は「ブランド価値の維持のため」拒絶されたとも氏は述べている。それでも競技としての『ぷよぷよ』をやりたいという氏は、セガの担当者から「ストーリーやキャラクター、商標などを侵さない範囲で」あれば自由にやってよいという言質を取り、『Magical Stone』の開発に踏み切ったと経緯を説明している。
ルールをそのままにグラフィック等を差し替えるだけのゲームは『ぷよぷよ』の著作権や特許を侵害していないのだろうか。これについては『Magical Stone』を支援しているという弁理士の安高史朗氏が自身のブログにて詳細を書いている。氏のブログでは『ぷよぷよ』と『Magical Stone』で共通する点、違う点を細かく記述しているが、要するに「著作権が生じるのはキャラクターやグラフィック等、直接的に製品を構成する要素であり、アイディアやルールといった無形のものについては著作権は生じない」ということである。これはボードゲームや料理のレシピなどでも知られていることであり、たとえば名作ボードゲーム「ドミニオン」は、一時期「ドミニオンクローン」と呼ばれるジャンルができるほど、そのルールをほとんどそのまま流用したゲームが発売されていた。つまり、『ぷよぷよ』と全く違うグラフィック・キャラクター・演出効果などを用いている『Magical Stone』は、『ぷよぷよ』の著作権を侵害していない。
著作権に保護されない「アイディア」であるが、一方でこれを保護するのが「特許」である。安高史朗氏は前述のブログ記事において「ぷよぷよを開発したコンパイル社は、ぷよぷよの特許を出願していません。仮に出願していたとしても、初代ぷよぷよのリリースは1991年ですから、とっくに特許権は切れていて、ぷよぷよというゲームアイデア自体はパブリックドメインになっているはずです。」と述べている。保護されていない、もしくは特許の切れたアイディアが使用されて新しい製品が作られることは、もともとのアイディアの進歩にも繋がる。
以上2点により、『Magical Stone』の著作権・特許権問題はクリアであるというのが、現時点の『Magical Stone』制作の主張となっている。
『ぷよぷよ』への敬意
れそ氏の発表では、セガの担当者が『ぷよぷよ』の「キャラクター・ブランド」を強調していたことも伝えられている。個性豊かな『魔導物語』のキャラクターたちやかわいらしい「ぷよ」は、多くの『ぷよぷよ』ファンを獲得した原動力として決して否定できない大きなものであろう。競技的な『ぷよぷよ』を愛するファンも存在し続けており、その存在がなければ今日まで大会が開かれ続けることもなかったのは事実だが、セガ自身も二十数年にわたり『ぷよぷよ』のブランドとコミュニティを築き上げてきた。『Magical Stone』の稼働により、そのコミュニティが分裂、競技ファンが『ぷよぷよ』から離れてしまうということはないだろうか。
オンラインゲームでもあるため、今後仕様の変更が行われ、元になった『ぷよぷよ』とは全く別のゲームになっていく可能性もないとはいえないだろう。既に公式サイトのシステム紹介では「囲碁将棋のように、ビデオゲームに慣れてない人でもじっくりと連鎖戦略を考えることが出来る」とうたう「ターン制モード」の実装が予告されている。リアルタイムモードしかない『ぷよぷよ』に比べると、ゲーム入門の敷居を下げる試みといえるだろう。
また『Magical Stone』は『ぷよぷよ』の著作権を侵害しないために独自のキャラクターなどを用いており、最近のゲームらしくキャラクターボイスには非常に力を入れている。まだベータテスト段階のためだろうか、UIなどはあっさりとしたもので、サーバー能力の限界から繋がりにくいとの声もあるが、こういった点も徐々に改善・解消され、『Magical Stone』独自のキャラクター・ブランドを確立していける可能性も否定できない。
いずれにせよ『Magical Stone』はその源流である『ぷよぷよ』とさまざまな面で競合するだろう。このことが吉と出るか凶と出るか、今のところは不透明というほかない。
e-Sports化にまつわる問題
最初からe-Sports化を目指すという『Magical Stone』。基本無料プレイのオンラインゲームによるe-Sportsといえば『DotA』『League of Legends』『Smite』『Vainglory』といったタイトルがすぐに思い浮かぶ。こうした大規模タイトルは開発会社が進んでe-Sports化を行っており、トーナメントや配信の規模も莫大だ。ただこうしたタイトルは開発会社がプロシーンを運営しているというのが肝心で、ゲーム本体のプロモーションという意味合いが強い。実際、トーナメント運営費用はプロ選手の違反行為による罰金徴収を含めても赤字であるとの話もあり、こういった運営体制においては「ゲーム内課金や周辺グッズで売上を上げる」のが安全かつメソッド化された収益方法なのであろう。『DotA2』などのタイトルでは、「賞金総額を上げるためのグッズ販売」等も行われており、ファンがシーンに直接関わる一体感を演出している。
『Magical Stone』は現在オープンベータテスト期間中であり、全要素が無料でプレイできる。本サービス開始日となる5月1日よりゲーム内課金を導入するとのことだが、現時点ではどのような要素について課金を行うのかは不明であり、今後の動きが注目される。
e-Sportsには犯罪の影もつきまとう。具体的には大会での八百長行為や、大会賞金を利用したマネーロンダリング等が考えられる。MOBA系タイトルの複雑な運営ほどではないにしろ、八百長行為をはじめとした選手個人に由来する違反行為について、大会・リーグでの継続的なルール整備が求められるだろう。
シーンを盛り上げるための配信環境整備や大会運営など、e-Sports運営は多くのスタッフを必要とする組織の仕事だ。『Magical Stone』がe-Sports化するのならば、こういった課題をひとつひとつクリアしていかなければならない。
制作・運営元にまつわる黒い噂
「ぷよぷよ統一王座戦」配信内で『Magical Stone』オープンベータテスト開始を発表したれそ氏は、『Magical Stone』公認攻略サイト「e-Sports Runner」運営会社「株式会社FanGames」の代表取締役とされる。また氏が関わる会社が、数年前からRMTやBOTプログラム販売等を行っているとの話もある。RMTやBOTプログラムについては多くのゲームで利用規約違反とされているため、ゲームファンは関係者に対していい印象を持っていない。『Magical Stone』のe-Sportsビジネス拡大にいい印象を持っていないファンも多いようである。
AUTOMATONでは『Magical Stone』について、開発運営会社であるGameFactoryと、セガへの取材を試みている。返答があり次第記事の更新を予定している。