ある自転車レースゲーム開発元、ゲームエンジン移行にいちど“失敗”した苦労を詳細に明かす。ほぼ移行できたのに、また作り直し

自転車レースゲーム『Tour de France 2025』および『Pro Cycling Manager 25』では、ゲームエンジンとしてUnreal Engine 5が採用されている。

Cyanide Studioは3月26日、同スタジオが手がけるロードレースシミュレーション『Tour de France 2025』および『Pro Cycling Manager 25』を発表した。『Tour de France 2025』はPC(Steam)/PS5/Xbox Series X|S向けに、『Pro Cycling Manager 25』はPC(Steam)向けに、それぞれ6月5日配信予定。同2作はシリーズで初めてゲームエンジンとしてUnreal Engine 5を採用しており、同スタジオはこの決断に際して直面してきた困難を明かしている。

『Tour de France』は、自転車競技のロードレースをテーマにしたシミュレーションゲームシリーズ。毎年フランスでおこなわれるロードレース大会「Tour de France(ツール・ド・フランス)」に合わせて発売される公式ライセンス作品だ。実在の主要なプロサイクリングチームを網羅している点が特徴で、体力を温存するペース配分や集団内での位置取りなど、実際のロードレースさながらの駆け引きが楽しめる。またPC向けには『Pro Cycling Manager』もリリースされており、こちらはチームのマネジメントに焦点を置いた作品だ。Cyanide Studioはこれら2つのシリーズを毎年同時に展開してきた。今年リリースされる『Tour de France 2025』および『Pro Cycling Manager 25』では、グラフィックの大幅な進化などが特にアピールされている。


フランスに拠点を置くCyanide Studioは3月26日、2025年バージョンとなる『Tour de France 2025』および『Pro Cycling Manager 25』を発表。これらの作品では、それまで使っていた自社開発の独自ゲームエンジンからEpic Games社が手がけるUnreal Engine 5(以下、UE5)へと変更されている。UE5は美麗なグラフィックが特徴のゲームエンジン。大手スタジオを中心に多数のゲームで採用されており、Unityと並んで業界標準と言えるゲームエンジンとなっている。Cyanide Studioは、この大胆な決断に至るまでの経緯やそれにともなう苦難の道のりを開発ブログで語った。


次世代グラフィック実現に向けた決断

『Tour de France 2025』


同スタジオはゲームのビジュアル面を向上させるべく、2018年からゲームエンジンの移行を検討し始めたという。とはいえ、毎年性質の異なる2作品を同時にリリースしなければならないという特殊な開発環境下では、単に「グラフィックの良さ」だけでゲームエンジンを選ぶことはできない。長寿シリーズであるがゆえに、まずはステージやAIなど既存のコンテンツを移行できるということが条件として挙げられた。また、もともと同2作はそれぞれ別々のゲームエンジンを使って開発されていたとのことで、制作プロセスを統合できるようにすることなども求められたという。移行には膨大な作業が必要となるため、採用するゲームエンジンは慎重に選定された。

さまざまな条件を加味したところ、自社で開発・管理をおこなうゲームエンジンではなく外部ソリューションに頼ることがベストだと判断したそうだが、はじめに選ばれたのはUnreal Engineではない別のゲームエンジンだったという。当時業界で使われていたUnreal Engine 4は、狭いマップを舞台にしたFPSゲームの制作に特化していた部分があるとのことで、数百キロメートルにもわたる広大なフィールドを扱う同スタジオのニーズには合わないと判断された。代わって採用された別の新ゲームエンジンを用いて、2019年末には次世代版のプロトタイプが完成。当時はちょうどPS5やXbox Series X|Sなどの次世代コンソールが登場するタイミングであり、2021年バージョンのゲームには正式に導入できそうだと計画されていた。


トラブル発生、度重なる開発計画見直し

『Pro Cycling Manager 25』


しかし、ここで大きな問題が発生する。新たに採用したゲームエンジンが別の会社に買収されることとなり、結果的に多くの開発ツールがゼロから再構築され使えなくなってしまったのだ。2021年バージョンのリリース延期のほか、次世代コンソールへの対応には追加の労力を費やす必要があるという状況。ゲームエンジンの買収先である新たなパートナーができるだけ早く開発ツールを用意してくれることを期待して、次世代コンソールへの対応が進められていった。ところが、再設定された2022年のリリースにも開発ツールの準備が間に合わないことが判明したという。

そんな阿鼻叫喚の中、Epic GamesからUnreal Engine 5が発表される。UE5では、大量のポリゴンを高速にレンダリングする新技術「Nanite」などをはじめとし、オープンワールドゲームなどに向けた改善が多数導入されている。当初Unreal Engineに対して感じていた制約の多くがUE5で解決されていたという。ライセンス料などは懸念点の1つであったが、Cyanide Studioはその頃フランスの大手パブリッシャーNaconの傘下に入っていたため希望が見えていた。NaconはUE5への移行を支持してくれたそうで、2023年にはゴーサインが出された。UE5へのコード移植には大きな困難がともなったが、途中で不採用となったゲームエンジンでの作業や次世代コンソールへの対応といった経験が、ここで大いに役立ったという。ゲームへの実装については再三の延期を決断しつつも、順調に移行が進んでいった。

『Pro Cycling Manager 25』


頓挫した新ゲームエンジンでの開発に4年間、そこからUE5への移植にさらに2年間をかけ、計6年にもわたる大規模な改修を経て今日の発表に至るわけだ。『Tour de France 2025』および『Pro Cycling Manager 25』の2作のゲームエンジンを統合したことにより、今後は相乗効果を発揮して大幅な生産性向上が期待できるとのこと。また、これまではライティングなどのビジュアル面の進化がメインの目標となっていたため、まだ活用しきれていないUE5の機能もたくさんある模様。今後それらの強力な機能を導入していきたいとしている。

『Tour de France』と『Pro Cycling Manager』の2シリーズについては、長年グラフィックの改善を求める声がユーザーから上がっていた。公開されたトレイラー映像からはまだゲーム内容について伺い知れる部分は少ないものの、先述のとおりグラフィック面でUE5の機能が活用されているとみられ、注目されるところだろう。またグラフィックだけでなく、機能面でどのような進化を遂げているかにも期待したい。

『Tour de France 2025』はPC(Steam)/PS5/Xbox Series X|S向けに、『Pro Cycling Manager 25』はPC(Steam)向けに、それぞれ6月5日配信予定。

Shion Kaneko
Shion Kaneko

夢中になりやすいのはオープンワールドゲーム。主に雪山に生息しています。

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