「良いゲームを作れば、マーケティングは必要ない」という意見に議論白熱。“マーケティング”は開発段階から始まっている

「良いゲームを作れば、マーケティングは必要なくなる」との考えの是非を巡るスレッドが議論を呼んでいる。

「良いゲームを作れば、マーケティングは必要なくなる」との考えの是非を巡るスレッドが海外掲示版Redditのゲーム開発者系コミュニティr/gamedevに投じられ、議論を呼んでいる。

今回RedditユーザーのKyoN_tHe_DeStRoYeR氏が投じたのは、「良いゲームを作れば、マーケティングは必要なくなる(Make a good game and you don’t need marketing)」あるいは「楽しいゲームは売上が保証される(fun games are guaranteed to sell well)」といった考えに疑義を呈するスレッドだ。同氏はそうした考えがr/gamedevをはじめ一部で信じられているとしつつ、批判的に見ている模様。新作ゲームの本数が限られていた時代であればともかく、無数のゲームがリリースされる今日では売れるためには何らかのマーケティング施策やニュース・口コミが不可欠だとしている。

なお同氏が挙げた“ゲームが上質であれば売上が確約され、マーケティングが必要なくなる”といった考えは極論といえるだろう。スレッド内ではそもそもの出発点が的外れだといった指摘もありつつ、ゲームの品質とマーケティングの関係性について、ユーザーや開発者も含めさまざまな見解が集まっている。

このうちたとえば個人開発者のMatt White氏は、人気ジャンルであれば上質なゲームは成功する確率が高くなり、特にビジュアルにこだわって魅力的な見せ方をすればその可能性が一層高まるといった持論を述べている。同氏は2022年にリリースされたメトロイドヴァニア『Ghost Song』を手がけた人物。同作はユーザーレビュー900件中84%が好評とする「非常に好評」ステータスを得ており、不満点が指摘されつつ一定の評価を受けている。

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Matt氏によれば同作は成功しているそうで、人気ジャンルであるメトロイドヴァニア、かつソウルライク要素も取り入れた作品であったことも売上に繋がったと考えている様子だ。また同時期には無名かつマーケティング力もない開発者仲間たちも同様に人気ジャンルの作品を開発して成功を収めていたといい、同氏の持論の根拠となっているのだろう。

一方でMatt氏は、品質だけでなく、作品の見せ方が平均的・凡庸だと売れ行きは運次第になるとの考えを説明。また不人気あるいは知名度のないジャンルのゲームでは売上の予測が難しいとの見方を伝えている。裏を返せば運に頼らずに売るためには、ゲームの良し悪しだけでなく、ジャンルや作品の見栄えといった、開発段階でのマーケティング的な観点が必要ということかもしれない。

このほかにもスレッド内では、『Kiwi Clicker』の開発者であり、tobspr Gamesにて『shapez 2』の開発にも携わったDimitri Kipper氏など、実績ある開発者が意見を述べている。同氏もまた想定顧客の多い「売れるゲームを作る」ことが重要だと説いており、期待に合致するような作品を作った上で、作風や持ち味をストアページ上でターゲット層に分かりやすく示すことが重要だとした。

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また『Closure』『The End Is Nigh』といった高評価作品に携わってきたTyler Glaiel氏は、そもそもの「マーケティング手法」について持論を展開。たとえば、良好な初動売上を記録したゲームでは人気の配信者や動画クリエイターにゲームキーを渡すといった手法が効果的であったと分析される例が見受けられる。しかし同氏としてはマーケティングに必要不可欠なのはむやみなゲームキーの配布や広告出稿ではなく、「できるだけ少ない言葉で、フックとなるような説明をおこなうこと」「その作品をひと目で識別することができるアートスタイル」「独自性や出来の良さといった、Steam上に無数ある類似作品を差し置いて選んでもらえるような理由」の3点だという見解を述べている。

Tyler氏はそうした点を備えることこそがマーケティングであり、同時に「良いゲームを作ること」の一部でもあると説明。そのため良いゲームを作ることとマーケティングは表裏一体であり、つねに共に考える必要があるとの考えを示している。

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いずれにせよ、上述した開発者らは「良いゲームを作れば、マーケティングは必要なくなる」という考えに自身の経験を踏まえて反論しているともいえるだろう。それぞれ違った切り口で開発段階で「見せ方」や「需要」といった、マーケティング的な観点も備えておくことの重要性を説いているのは興味深い。

ちなみに過去には「マーケティング費用を減らして開発費に回し、ゲームの品質を高めるべきではないか」という意見が投じられ、開発者やユーザー間で議論が白熱したこともある(関連記事)。品質とマーケティングは二者択一ではないものの、特に人手や予算の乏しいインディー開発者にとってはマーケティング施策に割く時間やその費用をどれだけ節約するかも課題となっているのだろう。

なおたとえば最近のヒット作においては、ジャンルのファン層に訴求できたことが成功要因のひとつとして分析される場合も多い(関連記事1関連記事2)。インディー作品でマーケティング費用をかけずに口コミなどに期待する場合には特に、開発の前段階でターゲット層を見据えたジャンル選びをすることが重要となるのかもしれない。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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