「『ファイナルファンタジー』はターン制に戻せば1000万本売れる」と、大ヒットRPG『バルダーズ・ゲート3』開発者がつぶやき議論白熱。そう単純ではなさそう

『バルダーズ・ゲート3』の開発元Larian Studiosのスタッフが「『ファイナルファンタジー』シリーズ作品をターン制バトルに戻せば売上1000万本を狙える」といった考えを述べ、議論を呼んでいる。

Larian Studiosにて『バルダーズ・ゲート3』のパブリッシングディレクターを務めるMichael Douse氏は7月10日に自身のXアカウントにて、『ファイナルファンタジー』シリーズについて言及。伝統的なターン制を求めるファンや需要があるという考えを述べ、上質なストーリーとキャラクターを備えたターン制『ファイナルファンタジー』を作れば“1000万本級”の売上を狙えるだろうという見解を伝えた。同氏はあくまで儲けるためのアイデアを投じただけとのことだが、議論が巻き起こっているようだ。

Larian Studiosは、『バルダーズ・ゲート』シリーズや『ディヴィニティ』シリーズなど数々のターン制RPGを生み出してきたデベロッパー。最新作となる『バルダーズ・ゲート3』は、世界最古のテーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の第5版ルールをベースとしたRPGだ。クラスによって異なる多種多様なプレイスタイルや、プレイヤーの選択によって変化する奥深いストーリー展開が特徴。2023年に発売された本作は、5つの主要ゲームアワードにおける「Game of the Year(GOTY)」、いわゆる“5大GOTY”をすべて独占するという史上初の快挙を成し遂げ、2024年11月には売上1500万本を突破したと報じられた。

『バルダーズ・ゲート3』


ターン制に戻した方が儲かる?

そんな大ヒット作『バルダーズ・ゲート3』にてパブリッシングディレクターを務めたVery AFKことMichael Douse氏は、7月10に自身のXアカウントにて、『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)シリーズについての考えを投稿。同氏はクラシックな『FF』シリーズを数多くプレイしているそうで、(ユーザーや開発者に)好みを指図するつもりはないと前置きつつ、伝統的な『FF』体験を求めるファンと需要が存在することは明らかだという見解を伝えた。同氏はその市場は「少なくとも1000万本は売れる余地がある」とし、また「開発コストが安く済むうえに売上ポテンシャルは高い」と主張。つまり、『FF』はアクションバトルではなくターン制バトルにした方が儲かるということだろう。

続くポストで同氏は、レビュー集積サイトMetacriticでメタスコア90台を獲得するような「素晴らしいストーリーとキャラクターを備えたターン制『FF』であれば900万~1500万本の売上を狙える」とも主張。同氏によれば『FF』シリーズを『FF』たらしめる「核」はいくつもあるものの、連携して戦うパーティーの存在も「核」の一つであり、ターン制はパーティー戦闘という「核」に適しているという考えがあるようだ。

Douse氏の投稿を支持する声も見られ、中には発売から33日間で売上330万本を突破した『Clair Obscur: Expedition 33』を例に挙げて同意する意見も存在する。同氏はこれに対して「このジャンル(ターン制RPG)の売上予想を覆すことができる完璧な事例である」と返答。新興スタジオが手がけた新規IPである同作が大ヒットを上げていることも“ターン制RPGの需要が大きい”という同氏の考えの背景にあるのかもしれない。

一方でDouse氏は、ターン制バトルにせよアクションバトルにせよ「開発者自身が作りたいという強い情熱を持っていることが重要」とも述べており、要望ではなくあくまでターン制RPGにもセールス面での需要があるという考えを投じただけだった様子だ。また「すべての『FF』シリーズ作品をターン制するべき」といった極端な考えもないことを伝えている。

なお同氏が提唱する「ターン制にするだけで売上1000万本もの大ヒットを狙える」といった発想については疑問視する意見が見られる。そもそも『FF』シリーズのなかで売上が公開されて1000万本を超えている作品は『FF7』が1510万本、『FF15』が1000万本、および『FF10』と『FF10-2』が合算で2110万本となっている。また、スクウェア・エニックスから過去10年間に発売された作品としても、『ニーア オートマタ』が900万本、『ドラゴンクエストXI』が850万本、『FF7リメイク』と『キングダム ハーツIII』がそれぞれ700万本。ターン制バトル・アクションバトルに関わらず大ヒット作品でも1000万本ものヒットを上げるのは難しいことがうかがえ、少なくともターン制にすることで「1000万本売れる」という主張については疑問の余地があるだろう。


“二者択一”ではない

いずれにせよ、『FF』シリーズで今後どのような戦闘システムが採用されるかは開発チーム次第といえる。またスクウェア・エニックスから“『FF』シリーズで今後ターン制を採用しない”といった方針が明言されているわけではない点にも留意したい。なおアメリカ・ロサンゼルスで7月3日から7月6日にかけて開催されたAnime Expo 2025では、海外メディアAnime News Networkが『FF14』のプロデューサー兼ディレクターである吉田直樹氏に対してインタビューを実施。この中では同氏に向けて、『Clair Obscur: Expedition 33』の高い評価とヒットを受けて、将来の『FF』がターン制に戻る可能性はあるかという質問も投げかけられた。

『ファイナルファンタジーXVI』


質問に対して吉田氏は、「こうしたターン制vsアクションの質問においては、ゲームプレイの観点は置いてけぼりにされやすい」としつつ、「(その点で)クリエイターがプレイヤーにどのようなゲーム体験を届けたいのかが考慮されない」と回答。グラフィック品質や伝えたい物語に基づいて、バトルシステムやゲームデザイン、ゲームプレイの感触は構築されるため、今後すべてターン制になる、あるいはさらにアクション寄りになるといった、明確な答えはないという。また吉田氏は必ずしも『FF17』に携わるかどうかわからないとしており、将来『FF17』や『FF18』を手がけるディレクターやプロデューザーの可能性を制限したくもないそうだ。あくまで可能性の一つとして、ターン制の完全新作『FF』が作られることもありうるのかもしれない。

ちなみに、スクウェア・エニックスは『FF』以外の作品では、近年でもリマスターやリメイクを含めターン制RPGを積極的に発売している。中でも『オクトパストラベラー』シリーズは累計500万本を突破しており、Douse氏が述べるような“ターン制RPGの需要”はスクウェア・エニックス側でも認識されているのだろう。そして先述したように、特に昨今の海外ゲーマーコミュニティでは『Clair Obscur: Expedition 33』のヒットでターン制の“JRPG”が熱を帯びている状況はみられる。そうしたなかで『FF』シリーズの新作がどのような戦闘システムを採用するのかは、引き続き注目されるところだろう。

ところで、9月30日には『ファイナルファンタジータクティクス – イヴァリース クロニクルズ』が発売される。本作はSRPGというジャンルではあるものの、ターン制の一形態だ。ターン制を求めるシリーズファンの方は手にとってみるのもいいだろう。

Haruki Maeda
Haruki Maeda

3DアクションRPGと犬をこよなく愛するPCゲーマー。『フォールガイズ』のようなわちゃわちゃ系も大好きです。

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