クトゥルフ医療シム『Do No Harm』、開発元いわく「約7100万円も売れている」。初開発ゲーム成功までの「失敗」も包み隠さず解説
Darts Gamesは4月7日、海外掲示板Reddit上にて同スタジオが手がけるゲーム『Do No Harm』についての売れ行き、開発経緯などを報告。同業者に向け、成功も失敗もあけすけに語り、ゲーム制作のノウハウを共有した。

デベロッパーのDarts Gamesは4月7日、海外掲示板Reddit上にて同スタジオが手がけるゲーム『Do No Harm』の売れ行きを報告。そのほかゲーム開発者向けに、『Do No Harm』の開発における経緯や販売戦略などを詳細に公開している。
『Do No Harm』は医療シミュレーションゲームだ。対応プラットフォームはPC(Steam)で、ゲーム内は日本語表示に対応している。本作では、プレイヤーはとある村で開業した医者として患者の診察や治療をおこなう。「クトゥルフ神話」などで知られる作家H.P.ラヴクラフトのコズミックホラーの世界観が採用されていることが特徴だ。
『Do No Harm』は2025年3月7日にリリースされた。ユーザーレビューは本稿執筆時点で475件中72%が好評とする「やや好評」ステータスを獲得。ゲームシステムやシナリオ面での説明不足な点が課題として指摘されつつも、さまざまな薬剤を選んで患者に適した治療薬を作るゲームプレイや、「クトゥルフ神話」をベースとした不気味さなどが一定の評価を獲得している。
そんな『Do No Harm』は、アゼルバイジャンに拠点を置くDarts Gamesが開発している。ゲーム開発の経験があるスタッフたちによって構成されているという同スタジオながら、本作はスタジオとして開発する作品としては初めてのタイトルとなる。本作はリリース日となる2025年3月6日には、10万件を超えるウィッシュリスト登録があったという。そして発売から約1か月経つ現在では、約4万4000本、約48万ドル(約7100万円)を売り上げているとのこと。
発売後には売れ行き順調な様子の『Do No Harm』ながら、開発過程にはいくつかミスもあったのだという。Darts Gamesは、本作を制作する中でうまくいったこと、うまくいかなかったことを共有し、ゲーム開発者に参考にしてもらいたいという考えによって、今回Reddit上に『Do No Harm』開発の流れや裏話などを公開するに至ったようだ。
満を持して自作タイトルを手がける
Darts Gamesによれば、まず2019年のスタジオ設立以降、外部委託された開発業務などでスタジオを運営していたという。そんな中2024年2月には資金調達に成功。完全内製の新規タイトル制作に専念できる環境ができたそうだ。『Do No Harm』はその新規タイトル3つのうちのひとつとして手がけられることになる。
そして2024年6月にバクーで実施された「Game Summit 2024」にて、初めてデモを公開。ところがプレイヤーの反応には明らかに退屈している様子も見られたという。その対策としてDarts Gamesは機能追加などを考えていたようだ。しかしここで、Rami Ismail氏のアドバイスを受けて、そもそものコアとなるゲームプレイを変更。医学書を調べて病気を特定するというゲームプレイではなく、患者の話を聞いたり、部位を観察したりした結果から推測して薬を処方するというスタイルに変更することになった。同氏は『Nuclear Throne』などの開発元Vlambeerの創設者であり、現在は同スタジオを離れ、ゲーム開発者向けのアドバイザーとして活動する人物だ。そんな同氏の助言を受けた結果ゲームメカニクスを作り直す必要性に迫られ、Darts Gamesでは3つあったプロジェクトも『Do No Harm』のみに絞ることになったそうだが、同作のゲームプレイはより魅力的になったという。

無名デベロッパーの1作品には手を出しにくい
またDarts Gamesはアドバイスに応じ、パブリッシャーに連絡しマーケティング面での支援を獲得しようとした。4か月かけ50社に連絡したとのことだが、Darts Gamesの望む最低条件を満たしてくれる会社は現れなかったという。投稿では“パブリッシャー待ち”の姿勢は間違いだったと述懐。とても有名か、びっくりするほど素晴らしい/中毒性のあるバーティカルスライス(部分的に絞って完成度を高めた試作)が出来上がっていないと、パブリッシャー側は見向きしてくれないだろうとの見解を述べている。
なお当時連絡したパブリッシャーのほとんどは『Do No Harm』のSteamでのウィッシュリスト登録件数が6000件を超え「人気の近日登場」に載るようになってから、連絡を返してきたそうだ。先述の通り、Darts Gamesはいくつか外注の案件をこなしていたものの、『Do No Harm』は初めての自作タイトルだ。昨今では実績あるスタジオでもパブリッシャー探しに苦心している状況もみられ、パブリッシャー側の求める条件が厳しくなっている可能性も垣間見える。

つきまとうお金の問題
いずれにせよDarts Gamesは中国以外の地域でセルフパブリッシングにて『Do No Harm』をリリースすることとなった。そのためその後は知名度の向上に努めたという。ゲームトレイラーを公開し、体験版も2月下旬に実施された「Steam Next フェス」にて早期に公開したところ、口コミが広がり一気に知名度が向上したとのこと。特にデモについてはフィードバックも寄せられ、改善に役立ったとしている。
Darts Gamesはその後、『Do No Harm』を3月6日にリリース。ブラッシュアップを続けたい気持ちはあったとのことだが、「Steam Next フェス」にて注目を集めた流れを逃したくなかったこと、そして何よりも開発資金が底をつくまで、残り1か月~2か月程度しかなかったそうだ。そのため体験版公開から間髪いれずにリリースすることにしたのだという。また制作の遅れやゲームの不具合修正に工数を割かれ、リリーストレイラーも作れなかったとのこと。かなりギリギリの状況でリリースされたことがうかがえる。

教訓を今後に活かす
波乱万丈がありながらもついにリリースされた『Do No Harm』は、驚きの結果をもたらしたとしている。リリースから1日目にはすでに7500本の売上を達成、1週間後には2万6000本もの売上を達成し、約28万ドル(約4100万円)の売上高を記録したという。
一方でゲームのメカニクスの説明が不十分であることや、微妙なニュアンスを含めた選択のメカニクスの実装がうまくいかなかったことが、レビューによって明らかになった、といった反省もあるようだ。フィードバックに対応すべく、大型アップデートにも取り組んでいるという。
またDarts Gamesにとって初めてのオリジナル作品として結果を残しつつも、さまざまな指摘が寄せられていることについては、次作以降の改善点として活かしていくとのこと。長期的な観点としては、社内の制作プロジェクトなどのパイプラインの見直しをおこないつつ、新作を開発するとのことだ。またここまで歩んでこられたのは、コミュニティからやストリーマー、インフルエンサーからのサポートがあったことも大きいとして、支援者に感謝を述べている。

今回の投稿では、Darts Gamesの初開発作品が上手くいった理由だけでなく、失敗談も含めて赤裸々に共有された。なお今回の投稿は部屋作りシミュレーター『Furnish Master』開発者のAlex Blintsov氏が売上データなどを公開したことに触発され、同スタジオでも制作における失敗まで共有し、何を学んだかを共有したのだという。ゲーム開発者間でのノウハウの共有の輪の広がりも見られる一幕となったかたちで、興味のある人はスレッドを見てみるのもいいだろう。
なおDarts Gamesは先述のとおり『Do No Harm』についても継続的なサポートを手がける予定としている。大型アップデートも予定されており、ゲームバランスの調整を中心とした各種要素の更新がおこなわれるそうだ。加えて、コンソール版とモバイル版の展開も、可能性を見出したいとしている。今後の展開についても期待されるところだ。
『Do No Harm』はPC(Steam)向けに配信中だ。