人気MMO『Destiny 2』を巡る訴訟で「証拠がもうゲームにない」事態発生。古すぎて再現不可能、“奥の手”にすがる

ある作家の提訴した、『Destiny 2』を手がけるBungieへの訴訟の中で、Bungieがファン作成の動画を用いたとして、海外メディアが報じている。ライブサービスならではの理由があったようだ。

『Destiny 2』などを手がけるBungieに対して、昨年10月よりある作家が著作権侵害の訴訟を提起している。この訴訟の中で争点となっているコンテンツがすでにゲームにないことから、Bungie側の証拠提出にあたって「ファン作成の動画」が用いられたようだ。海外メディアThe Game Postなどが報じている。

『Destiny 2』は、Bungieが開発・運営するMMOFPS。本作でプレイヤーたちは、人類最後の都市を守るガーディアンとなり、全宇宙から迫りくる敵との戦いを繰り広げる。オンライン専用タイトルとして、仲間と協力して楽しめるPvEコンテンツや、各種PvPモードも提供。2017年にリリースされ、大型拡張コンテンツの配信を重ねているライブサービス型のタイトルだ。なお先日には協力プレイにて攻略するミッション迷宮について、新たに「経典の潰滅」が登場している。

そんな『Destiny 2』を巡って、昨年に訴訟が提起されていた。訴訟を起こした人物は、Caspar Cole のペンネームで作家として活動しているMatthew Kelsey Martineau氏。同氏は2013年から2014年にかけて、SF世界で繰り広げられるオリジナル作品を執筆し、WordPressで全世界に公開したという。

Martineau氏は、『Destiny 2』にて同氏の執筆した作品からストーリー(プロット)が盗用されていると主張。具体的には、『Destiny 2』にて敵役としてプレイヤーの前に立ちはだかる、カバルの軍「レッドリージョン」とそのリーダー、ドミヌス・ガウルの人物設定を巡る訴えだ。Martineau氏の作品にも「レッドリージョン」と呼ばれる派閥が存在しており、訴状ではYinnerahという登場人物とドミヌス・ガウルの背景と目的が直接一致している、と述べられている。そのためMartineau氏は、損害賠償と同氏の作品の盗用と主張する部分の差し止めを求めてBungieを提訴していた(The Game Post)。

BungieはMartineau氏の訴訟について、盗用したと主張する根拠が不十分と反論。2024年12月20日には公式の回答を提出し、Martineau氏に対して訴訟の棄却を求めて争う姿勢を見せていた。

この訴えに関連し、Bungieは「レッドリージョン」に関する資料を提出する必要に迫られたわけだ。ところが現地時間2月24日、Bungieのテクノロジー責任者David Aldridge氏が、ゲーム内の該当する箇所を、「プレイ可能ないかなるかたちでも裁判所に提出できない」とする文書を裁判所に提出した。そして海外メディアGame Fileの伝えるところでは、代わりにYouTuberのMy name is Byf氏が投稿した、Destinyのストーリーをまとめた10時間にわたる動画が提出されたようだ。

*裁判所に提出されたと伝えられる動画

争点となった部分を裁判所に提出できず、公式の資料ではなく、「ファンメイド動画」が資料として用いられたのには理由がある。まず今回の訴訟において問題となっている「レッドリージョン」の部分は、現在『Destiny 2』でプレイすることはできず、「Destinyコンテンツ保管庫(DCV)」に移されている状況だ。

DCVは長期にわたって運営されていく『Destiny』シリーズについて、Bungieが古いコンテンツがゲームサイズの増加やバグの温床となることを危惧し、一時的にライブゲームから隔離、のちにリニューアルして再実装するために導入した取り組みだ。現在は「抗戦のシーズン」をはじめとしたシーズンのストーリーや「反抗の戦場」などのアクティビティがDCVに保管されている。つまり現在の『Destiny 2』上に該当部分を登場させられるとしても、少なくとも再実装するための作業が必要になるわけだ。

加えて、Aldridge氏によれば、訴訟が起こる前に、『Destiny 2』の運用フレームワークがすでにアップデートされているため、開発チーム内部でも、DCV入りした古いコンテンツを実行できる環境が無くなってしまったという。そのために、今回Bungieはファンメイドの動画を資料として用いることとなったようだ。

MMO、ひいてはライブサービスによって運営されるゲームでは、長年の展開でゲームの基盤部分が現代基準で古くなるといった状況もありえる。今回の『Destiny 2』の事例では、基盤のアップグレードにより互換性が失われ、物証の提出が不可能になるという一風変わった事態となったようだ。長期展開されるMMOの、コンテンツの流動性がうかがえる一幕ともいえるだろう。またファンメイドコンテンツの“史料”としての側面も垣間見える事例かもしれない。提示された動画も含め、今後裁判所がどのような判断を下すかも注目されるだろう。

Kosuke Takenaka
Kosuke Takenaka

ジャンルを問わず遊びますが、ホラーは苦手で、毎度飛び上がっています。プレイだけでなく観戦も大好きで、モニターにかじりつく日々です。

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