あるゲーム開発者、4年かけて作ったゲームが“売上大失敗した”として原因を自己分析。成功を確信していたのに「同接わずか35人」、なぜ
Slothwerksは4月2日、『Bramble Royale: A Meteorfall Story』の開発プロセスをブログにて公開。商業的観点から“大失敗”に終わった本作について振り返りつつ、知見を共有している。

インディーデベロッパーのSlothwerksは4月2日、同スタジオが約4年かけて開発したデッキ構築ローグライクゲーム『Bramble Royale: A Meteorfall Story』の開発プロセスをブログ記事にて振り返った。商業的な観点では「大失敗に終わった」という本作の開発体験を通して、インディーゲーム開発を成功に導くためのヒントをユーザーに共有した。
『Bramble Royale: A Meteorfall Story』(以下、Bramble Royale)は3月27日に発売された、PC(Steam)向けのデッキ構築ローグライクゲーム。本作は、同スタジオがPCおよびスマートフォン向けに手がける『Meteorfall』シリーズの3作目で、前2作と共通の世界を舞台としている。賭け事で失った闘技場を再建したいブランブルは、ひょんなことから手に入れた「ウーバーリッチの仮面」を賞品に、有象無象を呼び寄せた闘技大会「Bramble Royale(ブランブル・ロイヤル)」を開催することになる。ヘンテコなキャラクターたちが激しい戦闘を繰り広げるというコンセプトの作品だ。
本作のゲームプレイでは、デッキ構築ローグライクの金字塔『Slay the Spire』をベースに、よりテンポの速い戦闘システムが採用されている。手札に引いたアビリティカードやアイテムカードを使用することで、それぞれのファイターの行動を選択していく。カードをアップグレードしながら、強力なコンボの構築を目指していくのだ。また、観客を驚かせることでボーナスを得られる「神業」や、試合のルールを大きく変える「ワイルドカード」など、ユニークなシステムも特徴。
Slothwerksのリーダーを務めるEric Farraro氏は4月2日、同スタジオのブログに一本の記事を投稿。その中で、3月26日にリリースされたばかりの『Bramble Royale』の開発プロセスを詳細に振り返った。同氏によると、本作は配信までの過程で大きな問題が起きることなく、無事にリリースすることには成功したものの、売上などの商業的な観点では「壮大な失敗」に終わったのだという。
「成功を確信」したはずが大誤算に
『Meteorfall』シリーズの前2作はこれまで安定した成功を収めており、2017年から10万本以上を販売し、110万ドル以上の純利益を上げたという。2作目の『Meteorfall: Krumit’s Tale』に関しては、初年度のSteam版の売上において10万8000ドルの収益を出し、最大同時接続プレイヤー数も174人を記録している(SteamDB)。
そして3作目となる『Bramble Royale』では、これまで獲得してきたゲーム開発の経験やシリーズファンなど、豊富な土壌が存在していた。前作よりも多くのコンテンツを実装し、ローカライズや声優の起用にも力を入れた。そしてもっとも重要な点として、Farraro氏は「見た目で面白さが伝わりやすい」という本作の強みを挙げている。前作は端的にゲーム内容を説明するのが難しかったのに対して、本作は『Slay the Spire』などのゲームプレイを彷彿とさせる要素もあり、より“大衆的な魅力”を兼ね備えていると感じた模様。そうした点から、Slothwerksは本作が少なくとも前作を超える成功を遂げることができると確信していたようだ。

Steamにおけるウィッシュリスト登録数も最初は低調だったものの、2024年9月のデモ版配信に伴いやや増加。その時点でのウィッシュリスト登録数は3000件弱であったという。その後2025年2月に開催された「Steam Nextフェス」にて、“運命を変えるほど”の劇的な増加を望んでいたものの傾向はほぼ変わらず、最終的には4500件のウィッシュリスト登録数でリリースを迎えることとなった。結果としては、初週で621本しか売ることができず、そこから導き出された初年度の総売上は前作のわずか30%にも満たない金額。ウィッシュリスト登録数にもとづく試算の下限すらも下回る売上となった。本稿執筆時点での最大同時接続プレイヤー数はたったの35人(SteamDB)。このペースでは、Farraro氏自身の給料を0ドルと仮定したとしても、開発コストを回収するだけで何年もかかる可能性がでてきてしまったという。
「魅力的なアイデア」と思ったものの
Farraro氏はこの惨状を振り返り、「アイデア」と「マーケティング」の2本の柱について分析をおこなっている。「アイデア」については、ユーザーはデッキ構築ゲームに飽きてしまっているのではないかとの見解を示した。『Slay the Spire』のヒットを追うかたちで多くの競合作品がリリースされている今日において同ジャンルはありふれており、運も含め何か特別な要素が必要だと述べた。ジャンルの陳腐化については、開発に4年もの時間をかけたことによってゲーム市場を取り巻く環境が変化してしまったという側面もありそうだ。この開発期間の長期化には同氏も言及しており、前2作が築いたブランド認知度の低下にも繋がってしまったとしている。

さらにFarraro氏は、本作にはさまざまなアイデアが盛り込まれているが、どれも作品の“フック”にはなっていなかったと反省の弁を述べた。本作のもつアイデアは、「デッキ構築」ジャンルのゲームプレイをただ改善しただけに留まっている、とする分析だ。同氏は「フックとなるアイデア」の成功例に『ダンジョンクロウラー幸運ウサギと魔法の爪』を挙げた。同作の「クレーンを用いてデッキの中身を取り出すシステム」は他のデッキ構築ローグライクとは一線を画しており、一目で興味をそそられる内容だと評価した。アイデアの“ユニークさ”にもさまざまあり、既存のシステムにひねりを加えるだけでなく、より革新的な変化が必要という見立てだろう。Farraro氏いわく、次回作ではデッキ構築ローグライクの可能性をさらに探求し、よりクリエイティブな作品を目指したいとのことだ。
「インディーならではのマーケティング」を活かせなかった
一方の「マーケティング」については、インディースタジオならではの手法をもっと取り入れるべきだったとの後悔を語った。Slothwerksは早期アクセスでのリリースと正式リリースで勢いが分散してしまうことを恐れ、早期アクセスを実施せずに本作を配信。Farraro氏はその判断を悔やんでいるようだ。高評価を獲得したインディーゲームである『Die in the Dungeon』や『バックパック・バトル』のように、デモ版や早期アクセスの期間をじっくりと取って開発を進める方針も試したいとしている。また、Itch.ioでの先行配信など、インディーゲームならではの開発プロセスにも興味があるとのこと。今後はいきなり市場に投入するのではなく、じっくりとコンセプトの吟味をおこなっていきたいとの見解を示した。

ところで、Farraro氏はSlothwerksのリーダーとしてゲーム開発に参加しつつも、別のフルタイムの仕事にも従事しているという。ゲーム開発が本業ではないとはいえ、同氏の分析力と次の成功に向かう姿勢からは、本職顔負けの熱意が感じ取れる。今後は『Bramble Royale』のスマートフォン版移植に取り組みつつ、アップデートにも力を注いでいくようだ。『Meteorfall』シリーズの新作の登場も予告されており、本作の今後の売れ行きとともに、同氏が構想中の新たなタイトルなども期待されるところだ。
『Bramble Royale: A Meteorfall Story』はPC(Steam)向けに配信中。