『バルダーズ・ゲート3』開発者、「ターン制RPG」は欧米ゲーム会社経営陣に理解されづらいと嘆く。なかなか承認してもらえない
ターン制RPGが経営陣に理解されづらい。欧米のゲーム会社で。

デベロッパーのLarian Studiosでパブリッシングディレクターを務めるMichael Douse氏は、4月27日に自身のXアカウントにて、ターン制RPGが経営陣に理解されづらいとの苦悩を語った。『Clair Obscur: Expedition 33』の成功を受けて、ゲーム業界への問題提起をおこなった格好だ。
Larian Studiosは、『バルダーズ・ゲート』シリーズや『ディヴィニティ』シリーズなど数々のターン制RPGを生み出してきたデベロッパー。最新作となる『バルダーズ・ゲート3』は、世界最古のテーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の第5版ルールをベースとしたRPGゲームだ。クラスによって異なる多種多様なプレイスタイルや、プレイヤーの選択によって変化する奥深いストーリー展開が特徴。2023年に発売された本作は、5つの主要ゲームアワードにおける「Game of the Year(GOTY)」、いわゆる“5大GOTY”をすべて独占するという史上初の快挙を成し遂げた。

Larian Studiosでパブリッシングディレクターを務めるMichael Douse氏は、4月27日に自身のXアカウントにて、ターン制RPGゲームを販売するスタジオとしての苦悩を語った。同氏は、現在大ヒットを記録しているRPGゲーム『Clair Obscur: Expedition 33』の驚異的な同時接続プレイヤー数を示すポストに対しリポスト。自身の経験からして、経営陣にターン制RPGが売れるとわかってもらうことは非常に難しいのだという。また、売れないと思っていた社内の人々も、リリース後のメタスコアを見た途端に手のひらを返し、「絶対に売れると思ってたよ」と言うのだと皮肉交じりに呟いた。同氏は続くポストで、このことによる軽いトラウマを抱えているとも話しており、こうした状況に傷つけられた過去を抱えているとみられる。
ちなみにDouse氏はLarian Studiosのパブリッシングディレクターに就任する2017年まで、フランスのパブリッシャーであるFocus Home Interactiveに所属していた。同社からはターン制のゲームはあまり出ていない。あくまで筆者の推測ではあるものの、そこでの体験談であるのかもしれない。
このDouse氏のポストに対して、ユーザーからは多くの賛否の声が寄せられている。あるユーザーは、ゲーム業界の上層部は消費者や市場についてあまり知らず、トレンドばかりを追っているのではないかと指摘。同氏はこれに賛同し、広義の“幹部”は自分たちの作品以外で何が上手くいっているのかをほとんど知らないと答えた。ゲームにチャンスを与えるためには、過去のデータを根拠にして応援してくれたり、あるいはデータに反して自分を支持してくれたりする人に頼らなくてはならないとしている。たとえ革新的なアイデアであっても、それが作品となってユーザーに届けられるためには、納得してくれる上層部の承認が必要となるのだろう。
一方で、『Clair Obscur: Expedition 33』が評価されているのはターン制であるからではなく、魅力的なストーリーを兼ね備えているからだとの意見も挙げられている。さらに、近年のRPG作品ではアクション要素が取り入れられていることも多く、純粋なターン制の作品は少なくなってきている状況もある。
現に『Clair Obscur: Expedition 33』でも、相手の攻撃に合わせてパリィや回避などをおこなう目押しのほか、スキル発動時にはタイミングよくボタンを押すことで効果を高めるQTE(クイックタイムイベント)が発生する。戦略をじっくりと練って行動していく『バルダーズ・ゲート3』のような作品とはむしろ対照的とも言えるだろう。『Clair Obscur: Expedition 33』がヒットした理由については、ジャンルの観点を超えてより多角的に分析する必要があるのかもしれない。
ところでターン制RPGといえば、かつては一世を風靡したジャンルであった。ビデオゲームとしてのターン制RPGの系譜を辿っていくと、1981年にリリースされた『Wizardry』や『Ultima』にまで遡る。同ジャンルは80年代に隆盛を極め、その後『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』などのシリーズに影響を与える。時に「時代遅れだ」とも言われるターン制RPGだが、アトラスが手がける『メタファー:リファンタジオ』などをはじめ、今日ではその人気が戻りつつあるとの声も上がっている。『Clair Obscur: Expedition 33』やそうした作品の共通点はやはり、ターン制RPGに独自のエッセンスを加えて再構築しているという部分なのだろう。

とはいえ、ターン制ゲームの魅力が伝わりにくいという意見にも一定の理解はできる。奥深いストーリーや爽快なアクションなどの直感的でわかりやすい魅力を持たない場合、ターン制RPGではあくまでも戦略性などといったゲームのメカニクスで勝負することになるだろう。ゲーム開発者としては絶対に面白いという確信がもてたとしても、ゲーム開発に携わらない上層部としては、派手さがなければゴーサインを出しづらいという状況もあるのかもしれない。しかし、そうした判断によって『Clair Obscur: Expedition 33』のような作品の多くが舞台に立つことなく失われてきた可能性もある。開発者やユーザーと同じ“ゲーマー的視点”をもつことが、経営陣にも時に求められるかもしれない。
ちなみにLarian StudiosのCEOであるSwen Vincke氏は先日、現在進行中の新プロジェクトを5年後までには発表したいとの意向を示している(関連記事)。同スタジオの次回作としては、ターン制RPGという古典的なジャンルをどのように拡張するかという点にも注目が集まる。