ValveのデジタルTCG『Artifact』、プレイヤー数が「謎の乱高下」を見せて憶測飛び交う。1万人以上が突如出現&消失する年末年始の怪奇現象
Steamを運営するValve制作のデジタルTCG『Artifact』のプレイヤー人口が、この年末年始に謎の乱高下を見せて注目を集めている。本作は2021年の無料化以降、大幅にプレイヤー数が増えることはなかったが、1月1日には1万2000人を超えるSteam同時接続プレイヤー数を記録。コミュニティではさまざまな推測が飛び交っている。
『Artifact』は、『マジック:ザ・ギャザリング』のデザイナーRichard Garfield氏とコラボして、Valveが開発したデジタルトレーディングカードゲーム。『Dota 2』の世界観をベースにしており、3つのレーンにて対戦ゲームプレイが同時進行し、またそれぞれのレーンの状況により互いに影響し合う要素が特徴の作品だ。
本作は2018年11月にローンチされ、Steam同時接続プレイヤー数にしてピーク時6万人以上を記録する順調な滑り出しを見せた。しかし、「ランダム性が強い」「有料ゲームであるにもかかわらず、課金すると有利になるいわゆるPay to Winである」といった批判が集まり、ほどなくしてプレイヤー数が大幅に減少。Valveは2019年4月より大規模な改修を行うことを発表し、「ベータ2.0」として約1年半アップデートを行った。しかし、2021年3月に本作は開発中止を発表。以降は課金要素のない完全無料のカードゲームとして、配信されることとなった。
無料化以降の『Artifact』のSteam同時接続プレイヤー数は2023年後半まで、毎日のピーク時でも100人前後で推移していた。その後は、時折約1000~4000人ほどのピーク時プレイヤー数が観測されたものの、また大きく減少し安定しない様相が見られたのが2024年の年末までの現状である(SteamDB)。
そんな本作であるが、2024年12月に突如プレイヤー数が急増する。12月14日(以下、すべて協定世界時)、それまで600人ほどであった同時接続プレイヤー数が12月15日に約1万4000人まで急増。翌日も同様の水準をキープしたものの、17日にはふたたび約600人に同時接続プレイヤー数が減少することとなった。その後、プレイヤー数は以前と同様の水準にまでふたたび落ち着く。
しかし、異変は終わっていなかった。12月31日の午前4時、その直前までは約400人ほどだった同時接続プレイヤー数が一気に約4300人に増加。しばらく横ばいを見せていたものの同日23時にふたたび同時接続プレイヤー数が急増を見せ、10000人を突破。そこからもじわじわプレイヤー数が増加し、年をまたいだ1月1日の午前8時には約12700人もの同時接続プレイヤー数を記録することとなった。そこから、Redditや、Steamコミュニティ内で本作のプレイヤー数が急増したことを不思議がる声が散見されることとなる。
本作コミュニティ内では、本作のプレイヤー急増について「何が起こっているんだ」「Classic(ゲームモード)でマッチングしようとしたが失敗した」といった、困惑を示す声が寄せられた。また、「海賊版ゲームの影響では」との見解を投稿するユーザーも見られた(詳細は後述)。急増してコミュニティを困惑させた同時接続プレイヤー数は、1月3日の午前0時に突然激減。約150人とふたたび以前の水準に戻った。
このプレイヤー数の奇妙な推移に関して、コミュニティだけでなく、Forbus、IGNをはじめとした各メディアも注目。しかし、本稿執筆現在に至るまでこのプレイヤー数の推移の確固たる原因はわかっていない。
コミュニティ内では困惑が広がりつつも、原因の推察が行われていた。まず1つ目は、自動でゲームを起動するプログラムなど、いわゆるボット(Bot)が使用された結果という推察だ。短時間で急激に増加、減少するプレイヤー数は、いかにもボットらしい挙動といえる。しかし、なぜボットが使用されたのか、どういったユーザーがボットを使用したのかは不透明。「ゲームをプレイするAIを訓練するために本作が実験台にされた」、「Steam上で何かしらの詐欺を働くために、ゲームのプレイ時間を増やしてValveに怪しまれないようにするため」といった見方もされているようだ。
また、Steamのトレーディングカードをボットを使って本作で入手し、Steamウォレットクレジットを稼いでいるという推察もあったが、そもそも本作のコミュニティマーケットは賑わっておらず、すべてのアイテムが低価格で取引されているのが現状。ボット利用者が“薄利多売”を目指した可能性はあるものの、疑問が残る。
2つ目は、「Steam上のゲーム作品の海賊版起動の巻き添えになった」という推察だ。ある種の海賊版ゲームは遊ぶ際に、Steamでの認証が必要となる場合があるという。違法にダウンロードしたゲームを起動するプログラムが、何らかの方法で『Artifact』を遊んでいるということにして、認証を乗り越えている可能性があるわけだ。しかし、この推察でも依然として、プレイヤー数の急激な増加・減少の背景は不透明だ。
そのほか、「“Half-Life 3”のテストが本作を介しておこなわれている」として、そもそも発表されていない作品に繋げる眉唾ものの説も見られた。困惑が広がるなか、いくつかの推察があがることとなったが、結局真相は未だ不明のままだ。IGNはこの現象について、Valveにコメントを求めたものの、記事の掲載までに回答を貰えなかったという。
また、年末年始に突然プレイヤー数が増加し、急激に減少したのは『Artifact』だけではない。2018年リリースの『Miniballist』、2017年リリースの『Rogue Port – Blue Nightmare』『Tetropunk』をはじめとした、過去Steamで販売された複数の有料タイトルがSteamDB上でプレイヤー数が増加していることが記録されている。
これらのタイトルとデータには、「2024年の12月から1月にかけてプレイヤー数が増加している」「1月2日23時から1月3日午前0時にかけてプレイヤー数が大幅に減少している」といった共通点がある。また、これらのタイトルはSteamウィンターセールで税込100円以下で購入可能であった。プレイヤーがセールで格安になったゲームタイトルを買い込んで一気に遊んでいた……にしても、各タイトルのジャンルはばらけており、人気作というわけでもなく、謎が残る。年末年始に限らず、こうした謎のSteam同時接続プレイヤー数の乱高下はしばしば観測される。今後もまたこうした現象が起きるのか、そしてこの謎がいつか解明されるか注目したい。