新作脱出シューター『ARC Raiders』の「滑らか最適化」が脚光浴びる。“秘伝のタレ”はUE5の最新グラフィック技術をあえて使わないこだわりか

本作の優れたグラフィックは、Embark Studioのとある工夫によって実現されているようだ。

ネクソンは10月30日、Embark Studiosが手がける『ARC Raiders』をリリースした。対応プラットフォームはPC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5/Xbox Series X|S。本作の最適化には業界人からも好評が寄せられているが、品質・パフォーマンス共に優れたグラフィックは、Embark Studioのとある工夫によって実現されているようだ。

『ARC Raiders』はPvPvE形式の脱出シューターだ。ソロプレイまたは最大3人でのチームプレイに対応。本作の舞台はARCと呼ばれる謎の機械によって荒廃した未来の地球。プレイヤーは「レイダー」と呼ばれるならず者のガンマンとなり、ARCや敵対するほかのレイダーなどと地表で戦う。戦闘や探索を通じて手にした貴重な物資を、地下居住区「スペランザ」へと持ち帰るのだ。

本作は10月30日に発売。人気ストリーマーを含め、発売初日から多くのプレイヤーに遊ばれている。現時点において、Steamでの最大同時接続プレイヤー数は26万4673人(SteamDB)。週末にかけてさらにプレイヤー数が増加するだろうとの予想も散見される。また本作はSteamのユーザーレビューにて、約1万1000件中89%が好評とする「非常に好評」ステータスを獲得し、人気面でも好調。ユーザーレビューの中には、美麗な映像と良好なパフォーマンスが共存しているとして本作の最適化具合を賞賛するユーザーも少なくない。

『ARC Raiders』の最適化については、10月17日から開催された最終プレイテスト「サーバースラム」において、Electronic Artsのスケボーゲーム『skate.』の環境アーティストである、Adrian Campos氏もXにて言及。本作ではゲームエンジンとしてUnreal Engine 5(以下、UE5)を採用しているが、同氏は本作がパララックス(視差)効果なども使用しつつ、ジオメトリよりもマテリアルを重視したレンダリング戦略を取っていると分析。低ポリゴンを基本としつつ、アセット密度の高い場所や重要なランドマーク(POI)では驚異的なグラフィックに仕上がっているとして、UE5を実践的に活用している点が「非常に賢い(so smart)」と評価した。

Unreal Engineは美麗なグラフィックで定評を得ているゲームエンジン。UE5からは、ハイポリゴンメッシュを軽量にレンダリングする仮想化ジオメトリ技術「Nanite」や、グローバルイルミネーション(GI)および反射を動的にリアルタイム処理する「Lumen」など、さまざまな新機能が追加された。大手スタジオでの採用例も増加する一方で、新機能を用いたリッチな表現が押し出された結果、UE5製のタイトルは最適化不足に陥る傾向にあるとして、近年たびたび議論が生じている。ただそうした意見に対しては、UE5を開発するEpic GamesのCEO・Tim Sweeney氏が今年8月に反論。コンテンツ制作よりも最適化を先に始めるほか、低スペック環境でのテストを優先しておこなうことの重要性が語られた(関連記事)。現場における実情は定かではないものの、少なくとも扱いの難しいゲームエンジンではあるようだ。

最適化についてはさまざまな議論のあるUE5。しかし『ARC Raiders』では、UE5を用いて巧みな最適化が実現されているとの評価が相次いでいる。この最適化の裏には、どうやらNaniteやLumenなどの機能を採用せずに制作されている可能性が浮上しているのだ。

NVIDIAの公式サイトによれば、本作のグローバルイルミネーションにはLumenではなく「NVIDIA RTXGI」が使用されているとのこと。またサーバースラムにおける有志の検証では、おそらくNaniteが使用されていないだろうとする分析もおこなわれていた。最適化に成功している理由としては、これらのUE5の技術を採用していないからではないかという意見も聞かれる。

ちなみに、このNanite・Lumen不採用の方針は、Embark Studiosの前作『THE FINALS』においても同様であったようだ。同作でのRTXGIの採用についてはNVIDIAが発表。そしてあるユーザーは、Naniteがサポートしない「Direct X 11」でもゲームが動作したことを根拠として、『THE FINALS』にはNaniteが使われていないのではないかと考察している。

同作のコンソール版においては、派手な破壊表現を交えながらでも60fpsを維持する点などが高く評価されていた。またPC版では、CPU使用率が高くなりボトルネックが発生しやすい傾向にあるとの報告も上がっていたものの、RTXGIの採用もあってか、マシン構成次第で高いパフォーマンスを出せるとして注目を集めていた。

『THE FINALS』

Unreal Engine 5の重要な柱としてアピールされているNaniteやLumenであるが、『ARC Raiders』によって、あえて採用しないことでの最適化におけるメリットも示唆されたかたち。今後登場するUE5製タイトルでは、そうした技術をどのように活用するのか、またはしないのかといった各スタジオの表現における工夫にも注目したい。

『ARC Raiders』はPC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5/Xbox Series X|S向けに販売中だ。

Shion Kaneko
Shion Kaneko

夢中になりやすいのはオープンワールドゲーム。主に雪山に生息しています。

記事本文: 471