チート販売業者の売上推計は「年間20億~100億円」規模との研究結果。多くの“顧客”を抱える巨大市場
イギリスのバーミンガム大学およびウォーリック大学の研究者たちは、チート販売市場の実態を明らかにした。

イギリスのバーミンガム大学およびウォーリック大学の研究者たちは、ゲームにおけるアンチチートシステムの有効性などを探る研究の中で、チート販売市場の実態を明らかにした。海外メディアTechSpotなどが報じている。
ゲーム業界でかねてより問題となっているチート行為。たとえばシューターゲームにおいては、プレイヤーの位置や体力など、通常では得ることのできない情報にアクセスしたり、照準を自動化して相手を正確に狙ったりするチートなどが知られている。チートは多くのタイトルにおいて利用規約に違反するだけでなく、日本を含め法律に抵触するケースが存在する。各メーカーによってアンチチートシステムの導入が強化されているものの、それを搔い潜る新たなチートが次々と出現する状況もあり、チート販売業者とそれを対策するメーカーとのいたちごっこが繰り広げられている。
チート販売の巨大市場
2024年に発表されたバーミンガム大学のSam Collins氏らによる研究「Anti-Cheat: Attacks and the Effectiveness of Client-Side Defences」は、「Man-At-The-End(Mate)攻撃」、すなわちソフトウェアの改ざん行為のもっとも広く普及した形態の一つとして、ゲームにおけるチートを取り上げ、広く展開されているアンチチートシステムの関連性や技術的側面、効果などを調べている。

研究チームはまず、ヨーロッパおよび北米における80のチート販売サイトから、各サイトの平均月間トラフィックやチートの販売価格などを測定。チートはダウンロード可能なソフトウェアパッケージとして月額制サブスクリプションモデルで販売されているという。期間は1日トライアルから3か月契約まで多岐にわたり、販売価格も月額10ドル(約1500円)から約240ドル(約3万6000円)と幅広い。
そうしたデータをもとに、研究チームは市場規模を分析した。チート販売業者全体の年間総収入は1280万ドルから7320万ドル(約19億2000万円から約109億8000万円)と見積もられている。またチートの月間顧客数は3万人から17万4000人と推計され、非常に大きな市場が存在することが示唆された。
アンチチートシステムの効果
さらに、研究チームは21のチート販売サイトについてより詳細な調査を実施。調査対象の11本のゲームに対するチート価格・チートの稼働時間・タイトルの人気度・リリースからの経過月数などをサンプリングし、相関を調べた。対象となったタイトルは、『VALORANT』『フォートナイト』『Battlefield 2042』『レインボーシックスシージ』『The Finals』『オーバーウォッチ2』『Apex Legends』『Call of Duty: Warzone』『Counter-Strike 2』『Team Fortress 2』『Battlefield 1』だ。
すると、チートの価格は対象となるゲームのアンチチートの堅牢性と非常に強い正の相関関係(0.948)があることがわかったそうだ。これは強力なアンチチートを突破するために、より大きな開発コストが要求されるからだと考えられる模様。一方、興味深いことに、チートの価格はタイトルの人気度およびタイトルがリリースからどれだけ経ったかなどのデータとの有意な相関は確認できなかったとのこと。つまりあくまで技術的なハードルが、チートの販売価格に及ぼす主要因となっているようだ。さらに、アンチチートの堅牢性とチートの稼働時間の間には強い負の相関(-0.765)があり、強力アンチチートがチートの抑止に効果的である可能性も示されている。

なお、研究チームはこれらのタイトルにおけるアンチチートシステムの堅牢性を評価するためのベンチマークを作成。アンチチートの強度を比較した。上位に挙げられたのは『VALORANT』と『フォートナイト』。それに対して下位に位置づけられているのは『Counter-Strike 2』『Team Fortress 2』『Battlefield 1』だ。研究当時では、下位に位置するタイトルでは(少なくとも検証されたかぎりでは)限られた保護しか提供されておらず、クライアント側ではなくサーバー側での統計的な分析によるチート利用者検出に依存しているとの見解が述べられた。
チートへの抑止力
研究チームは結論として、各国でチート行為に対する法整備がまだ進んでいないことや、チートが簡単に入手可能であることから、現在の各社のアンチチートシステムがチート行為を完全に防ぎうるものではないとした。とはいえ、攻撃者にとってのコストやチートの利用停止期間を増やすといった効果があると評価している。チートに対する一定の抑止力として作用している可能性はあるのだろう。

なお昨今では対戦型ゲームに強力なアンチチートシステムが用意される例もある。10月11日発売予定の『Battlefield 6』では、アンチチートシステム「EA Javelin Anticheat」が導入される。PC環境では「セキュアブート」の有効化が必須となるなど、強固なチート対策がアピールされている。そうした取り組みが功を奏してか、先日開催された同作のオープンベータテストでは先行アクセス日程の時点ですでに33万件ものチートを防いだとの実績が開発元によって発表されていた(関連記事)。一方で、そうした対策を掻い潜ったチート利用者が現れたとする報告も上がっており、予断を許さない状況だ。チート業者が多額の収益を得ているという今回の報告を見るに、需要がある限りいたちごっこが続く側面もあるのだろう。メーカーやゲーム業界全体が、今後どのようにチート業者およびチート利用者に対策を講じるのかは注目される。