元Amazon重役が「Steamに何度も挑戦したが連敗だった」と告白。“Valveの250倍以上巨大なAmazon”が負けた理由とは

元Amazon重役で、Prime Gaming部門VP(Vice President)などを務めた人物が「AmazonはSteamを何度も倒そうとしたが失敗した」と告白している。

元Amazon重役で、Prime Gaming部門VP(Vice President)などを務めた人物が「AmazonはSteamを何度も倒そうとした」と告白。しかし、幾度にもわたり失敗したとして、その原因について振り返っている。

Amazonは、米国を拠点とする巨大IT企業。通販のほか多種多様なサービスにも手を伸ばしており、ゲーム分野もそのひとつ。サブスク会員向けサービスのPrime Gamingのほか、パブリッシング事業や傘下スタジオによる自社タイトル開発もおこなっている。

方やSteamは、Valveが運営するPCゲームダウンロード販売の最大手プラットフォームだ。本稿執筆時点で、Steam全体での最高同時接続プレイヤー数は3550万人を突破。PCゲーム配信プラットフォームとして、圧倒的なシェアを誇っている。今回、「Amazonは幾度となくSteamに挑戦し失敗していた」との証言が、Amazon元重役から明かされている。

今回語ったのは、Ethan Evans氏。Evans氏はAmazonのVPや、Prime Gaming部門のVPといった重役を歴任。パブリッシング部門なども率いていたそうだ。2020年にはAmazonを退職し独立している。同氏がAmazonの“敗北”について語ったのは2月14日ごろ、LinkedInでの投稿だ。

Evans氏は投稿のなかで、「Prime GamingのVPとして、Steamを何度も妨害(Disrupt)しようとしたがことごとく失敗した」と吐露。会社規模としてはAmazonの方が、Valveの少なくとも250倍大きい“巨人”であったにもかかわらず、敗北したとしている。また、そうした「打倒Steam」の試みはEvans氏がPrime Gaming部門のVPに就任する以前から、Amazonにて15年以上にわたって実施されていたとのこと。

Evans氏は、「私を含めだれも、Steamの成功の秘密を解けなかった」と表現しつつ、その失敗の歴史と理由について述懐した。まずAmazonは、ゲームの開発及び小規模な配信プラットフォームを手がけていた企業である、Reflexive Entertainmentを買収。そこからのゲーム配信事業拡大を試みたものの、「なんにもならなかった(It went nowhere)」という。

その後、Amazonは動画配信プラットフォームのTwitchを買収。自前のゲーム配信プラットフォーム設立を目指すこととなった。Evans氏によれば、Amazon側は「Twitch利用者は、自然とAmazon自社プラットフォームからゲームを買うようになるだろう」と推測していたものの、期待はずれの結果となったそうだ。

Amazonは次の一手として、クラウドゲーミングプラットフォームである「Luna」を打ち出すこととなる。また、Googleも時を同じくして同種のプラットフォーム「Stadia」を展開。ところが、どちらもあげた成果は芳しくなかった。Evans氏は、GoogleもAmazonもValveより大きい企業であるにも関わらず、Steamが市場を制し続けていたと振り返っている。

Evans氏の分析によれば、こうした失敗の原因は「消費者がSteamを使う動機について、過小評価していたこと」だという。同氏はSteamについてストアも、ソーシャル・ネットワークも、ゲームライブラリも、実績システムも一つにまとまり、よく機能していると評価。一方のAmazon側は、「この規模と認知度なら消費者を惹きつけられるだろう」と推測していたものの、消費者の「すでに定着した習慣」の根強さを見誤っていたそうだ。

続いてEvans氏は、同氏らAmazonゲーム部門は、軸となる推測を検証しないまま大規模な投資をおこなってしまったとコメント。ゲーマーたちは既にSteamというプラットフォームをもっており、単に新しいプラットフォームができただけでは移行してくれないのが実際だと振り返った。

Evans氏はそうした実情も踏まえ、Amazonが勝利するには、「単に新しいものを作る」のではなく、消費者についての推測をしっかりと検証してSteamより遥かによいプラットフォームを作らなければいけなかったとした。同氏の見方では、Amazonはそのいずれも為せなかったため失敗したという。

AmazonのPCゲーム配信市場への挑戦の数々は、たしかに傍目にも芳しくない様子であった。今回は実際にAmazonでそうした戦略を手がけていた人物が“敗北宣言”をしたという点で、興味深いだろう。

なお、Amazon Gamesからは基本プレイ無料MMORPG『スローン・アンド・リバティ』が展開中。ほかにも、Maverick Gamesと共同開発による新規オープンワールドドライビングゲーム・「ロード・オブ・ザ・リング」のMMOアドベンチャーゲーム・『トゥームレイダー』シリーズ新作などのプロジェクトが動いている。引き続きAmazonによるゲーム開発・販売活動は続けられていくと見られ、今後の動向も注目される。

Sayoko Narita
Sayoko Narita

貪欲な雑食ゲーマーです。物語性の強いゲームを与えると喜びますが、シューターとハクスラも反復横とびしています。

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