“サービス終了危機”だったゲームの開発元、「チームを約25人→3人に減らして生成AI導入で危機を脱した」手法を明かす。レイオフをせず、サービス終了もしないピンチ脱出術
ある運営型モバイルゲームにおいて、チームを大幅に縮小して生成AIに頼ることで運営コストを削減し、サービス終了を免れたという。

とあるゲーム会社が、収益率が低迷している運営型ゲームの開発・運営にAIを組織的に導入していたと明かした。運営チームを大幅に縮小することで運営コストを削減し、サービス終了を免れたという。また手が空いたスタッフは新作の開発に移行したため、雇用も維持できたとのこと。海外メディアGamesIndustry.bizが報じている。
今回話題となっているのは、ドイツのゲーム会社InnoGamesが手がける『Sunrise Village』だ。同作は2021年12月にサービス開始された基本プレイ無料の農場運営ゲーム。木や石などの資源を採取したり作物を育てたり、あるいは未開の地を冒険したりして、スローライフを楽しむ。PCおよびiOS/Android向けに配信されており、Google Playでは本稿執筆時点で17.5万件のレビューを集め、5点満点中4.2点の評価を獲得。100万件以上のダウンロード数を記録するなど確かな人気を得ている作品だ。

とはいえInnoGamesでエンジニアリング・ディレクターを務めるThomas Lehr氏によると、そんな『Sunrise Village』の収益率は低かったという。同作の開発・運営チームはフルタイムのスタッフ約25人で構成されており、人件費を含め多額の運営コストがかかっていたとのこと。通常であればサービス終了が決断される状況だったそうだ。
しかし同作についてはサービスを打ち切る代わりに、開発にAIを組織的に導入することになったという。Lehr氏によれば「サービス終了か、AIの導入かの二択」だったとのこと。AIの利用に複雑な感情を抱くゲーマーがいることは理解していたが、ほとんどのプレイヤーは「遊べなくなるぐらいならAIを使った方がよい」という決断を支持してくれると思ったそうだ。結果的に、運営チームの人数は当初の約25人から、今では3人前後まで縮小。運営コストを抑えられたことでサービスの継続に成功したという。
しかも、『Sunrise Village』はAIの導入前後でプレイヤーのエンゲージメント率は落ちず安定していたとのこと。Lehr氏いわく「コンテンツの質が落ちた」といった類のフィードバックも皆無だそうで、同氏は「AIを導入したことに、プレイヤーは気づいていないように見える」と話している。AIの導入から1年ほど経ったが、その間継続して安定した運営ができており、この手法が効果的だったことが示されたと感じているそうだ。そんなLehr氏は、AIを活用しつつ作品のクオリティを維持する、AI導入の具体的な手法についても語っている。

まずInnoGamesではAIを導入にするにあたって、1、2名のエンジニアが専任でおよそ2か月間、AIの利用法を研究したという。その結果、直接AIにゲーム内コンテンツを生成させるのではなく、まずAIにそのゲーム用のコンテンツ制作ツールを作らせ、そのツール内でコンテンツを作成させるのが効果的だと分かったという。またInnoGamesのシニアリードアーティストであるLémuel Wuibout氏によると、同社独自のデータセットでAIをトレーニングすることで、アートスタイルのバラつきの問題も改善したそうだ。
さらに、利用するAIは必ずしも最新モデルがよいとは限らないことも分かったという。新型モデルは確かに性能自体は大幅に向上しているものの、旧バージョンから挙動が大きく変わっていることがあり、モデルを更新するたびに広範なテストが必要になってしまうとのこと。そのためInnoGames全体では、OpenAIのGPT-4oをベースとした開発体制を継続しているそうだ。GPT-4oは現在では型落ちのモデルだが、実際の現場では単純な性能よりも、安定性と予測可能性の方が求められることが多いという。とはいえ必要に応じて各社の最新モデルも利用しており、タスクごとに最適なモデルを選択して利用しているそうだ。

そうして現在の『Sunrise Village』のコンテンツは、同社が「AI Stage Designer」と名づけてUnity内 に統合したカスタムツールセットを利用し、制作されているという。同ツールは大規模言語モデルに自然言語で指示することで動作し、ストーリーやクエストの構成のほか、ステージやオブジェクトの配置、カットシーンからバランス調整に至るまで、AIが自動でおこなう仕組みになっているそうだ。そのほかコーディングにおいてもAIが活用されており、以前は数日から数週間かかっていた作業が、わずか数時間で完了するようになったとのこと。大幅な開発の効率化が実現したそうである。
しかしLehr氏は、「決してすべてをAI任せにできるわけではない」とも強調。開発プロセス全体を通して人間の監督は必要だと説明している。たとえばコーディングにおいては、AIに完全に委任する“vibe coding”ではなく、細かに仕様を指示する“agentic coding”でおこなっているとのこと。 vibe codingは確かに速いものの品質にばらつきがあり、後の運用・保守が困難になってしまうケースが多いそうだ。さらにゲーム内コンテンツにおいてもプレイテストを徹底的におこない、微調整や個性を人間が加えることで、最終的なクオリティをコントロールしているという。

またAIは人員削減ではなく生産性向上のために利用しており、『Sunrise Village』開発チームの縮小はレイオフを意味していないとのこと。同作の開発から外れたスタッフらは新作の開発チームに異動し、新たなプロジェクトを推し進めているという。当初はAIの利用についてスタッフからの反発もあったが、メンバーの雇用は保証されていることを説明し、オープンなコミュニケーションをおこなうことで乗り越えられたそうだ。
Lehr氏はAI導入の具体的なメリットとして、「ルーチンワーク的な業務をAIに任せることで、人間がよりクリエイティブな仕事に集中できるようになる」ことを挙げている。一定以上の規模のゲームではコンテンツの大量生産が必要になるのは避けられず、その際にAIを活用することで、開発コストを抑えることができるという。生産性の向上は無視できないほど大きいと感じており、「AIを導入しない企業は深刻な競争上の不利に直面するだろう(Those who don’t adopt will find themselves at a severe competitive disadvantage.)」と語っている。少なくともモバイルゲーム業界においては、AIの活用は2年以内に業界全体のスタンダードになると予想しているとのことである。

近年は日々多くの運営型ゲームが登場しており、競争は激しい。一度は人気を博した作品も徐々にプレイヤー数が減っていき、やがてサービス終了が発表されるのが通例である。特に運営コストがかかっている作品の場合は、比較的大きなプレイヤーベースを保っていても採算が合わず、惜しまれつつサービス終了が決断されるケースもあるだろう。そうしたなかで、開発にAIを組織的に導入することで、サービスを継続できたという『Sunrise Village』は、興味深い事例といえる。
とはいえ生成AIは学習データの権利やクオリティの問題など、近年なにかと議論が絶えない分野だ。ゲーム会社のあいだでもスタンスはさまざまであり、なかには生成AIの利用を契約書で禁止していると明言するパブリッシャーも存在する(関連記事)。また開発中に仮置きされたアセット(placeholder)が製品版に誤って残された結果、一部ユーザーの批判を招く事例も後を絶たない。
その点今回話題となった『Sunrise Village』では、リリース後の運営面で生成AIが活用されている点で注目されるところ。InnoGamesのチェアマンHendrik Klindworth氏が2025年11月にGamesIndustry.biz向けに語ったところによると「AIの利用に賛否があるのは認識しているが、モバイルゲームの分野においては比較的反発が少ない」と感じ、効率的な利用法を模索しているという。モバイル・非モバイルを問わずゲーム開発におけるAIの利用がどのように展開していくのかには引き続き関心が集まりそうだ。
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