Steamでは約80%が“低予算ゲーム”との4年間推計データ。予算1000万円前後のゲームがかなり多めか

ゲーム業界に関わる分析をおこなう会社HushCrasherは11月5日、ゲーム販売・配信プラットフォームSteam上でリリースされたゲームの予算を独自の手法で調査・推定した結果を公表した。

ゲーム業界に関わる分析をおこなうチームHushCrasherは11月5日、ゲーム販売・配信プラットフォームSteam上でリリースされたゲームの予算を独自の手法で調査・推定した結果を公表した。同社の分析に基づけば、2022年以降のゲームのうち約80%のタイトルの予算は100万米ドル(約1億5000万円)を下回るという。

通常、ゲーム開発者が予算について明らかにすることは少ない。公開されるケースはあっても少数で、予算の傾向などを考察するために十分な数のデータを集めることは困難を極める。まずHushCrasherはニュース記事、リークされたデータ、開発者自身による事後分析といったインターネットを通じて収集できるデータだけでなく、業界関係者に問い合わせて秘密厳守で財務データの提供をしてもらうなど、徹底した情報収集をおこなったようだ。

ただそれでも業界全体の傾向を示すデータとしては足りず、HushCrasherは得られたデータを利用して機械学習モデルの訓練を実施。Steam上のゲームについて予算の推定をおこなったという。ちなみに算出に用いた予測因子について詳細は“企業秘密”にしたいとのことだが、一部の項目だけ紹介されている。ゲームのクレジットの長さ、パブリッシャーとスタジオの実績、役職の種類、対応言語といった項目が挙げられており、そのほかにも多くの因子が使用されたようだ。HushCrasherによれば、現時点で得られているデータの範囲内では、誤差の平均10%以内という高い精度で予算の予測ができているとのこと。


Steamの作品はほとんどが“低予算”

Image Credit: HushCrasher

推定の対象となったのはSteam上のゲーム約10万本である。公開されたグラフでは、そのうち2022年から2025年の比較的新しいゲームに対象を絞りつつ、Steamユーザーレビューが10件未満のゲームが除外されているという。その結果、グラフにて示された推定対象のゲームの母数は1万9634本となっている。

推定対象となったゲームのうち、全体の約80%にあたるゲームの予算は100万米ドルを下回る結果となった。このうちもっともゲームの本数が多いのは5万米ドル(約770万円)強の予算帯となっている。

なおHushCrasherはAAAゲームおよびAAゲームよりも開発規模が小さな作品を、MidiゲームとKeiゲームという独自の分類で表している。クレジットやゲームの容量などさまざまな観点からそうした分類をおこなっているそうで、結果としてKeiゲームには個人開発やごく少数の身内で開発された作品が、Midiゲームには中小規模のスタジオの作品が分類されているようだ。なおAAゲームの定義は業界では曖昧ながら、HushCrasherによると端的に言えばクレジットにスタッフと関係者を含めて数百人が記名されるような規模の作品をAAゲームに分類しているとのこと。対してAAAゲームには、関係者が数千人規模に膨れ上がるような作品を含めているという。

Image Credit: HushCrasher

そうした同社の分類と先述のグラフを踏まえた箱ひげ図も示されており、こちらではKeiゲームの予算の中央値が6万5000米ドル(約1000万円)となっていることがわかる。対してMidiゲームの予算の中央値は約90万米ドル(約1億4000万ドル)であり、その差は約14倍だ。中小規模のチームと言えども、人員が増えると桁違いの予算が必要になる傾向がうかがえる。

なお箱ひげ図を見る限りではKeiゲームとMidiゲームは似通った予算帯のように見えるが、HushCrasherの分析によるとこれはMidiゲームの外れ値が影響しているとのこと。実際には先述した“約14倍”という中央値の差が実態に即しているようだ。つまり、先述した5万米ドル強という予算範囲に含まれる作品では、Keiゲームが大半を占めていることもうかがえる。ちなみにKeiゲームにおける予算は、基本的には開発者の住居費などの生活費が多くを占めていると推察されており、金額を左右する要因は“家賃の差”などにとどまるようだ。このほかHushCrasherはAAゲーム、AAAゲームと規模が拡大するにつれて、指数関数的に予算は膨れ上がっていくと伝えている。

ちなみにゲーム開発者たちのカンファレンスGame Developers Conference(以下、GDC)の運営元は例年アンケート調査をおこなっており、2025年には3000人以上のゲーム開発者や業界関係者を対象に調査がおこなわれた(GDC 2025 State of the Game Industry)。その結果によれば、全体の約21%は個人のゲーム開発者として活動しており、アンケート回答者のうちもっとも多くを占めていた。またスタジオの形態としてはインディースタジオと請負・フリーランスを合わせると全体の約40%にも及んでいる。こちらも先述したような個人開発作品や予算規模の小さな作品がSteam上で非常に多い傾向を裏付ける数値かもしれない。

Image Credit: GDC 2025 State of the Game Industry


ゲームエンジンと予算

なおHushCrasherの調査によれば、推定対象となったゲーム全体の約60%でUnityが採用されているとのこと。とはいえ採用されているエンジンの傾向は、予算規模によっても大きく変わるという。Unityは予算100万米ドル未満のゲームのうち約60%ほどを占めるが、予算100万米ドルから1000万米ドル(約15億円)の範囲では半数を割り、予算規模が大きくなるにつれて採用率が下がっていく。その一方でUnreal Engineは予算100万米ドル以上のゲームでの採用例が多く、1000万米ドル以上のゲームではUnityの倍以上のゲームで採用されていることも読み取れる。

ちなみに予算10万米ドル(約1500万円)未満と推定されたゲームでは、Unreal Engineはほとんど使われておらず、Unityの採用率もわずかに減少している。個人開発やごく少人数の開発では、GodotエンジンやGameMakerの採用例が増え、独自のゲームエンジンを作成しているケースも約20%ほどとなっている。その理由としてHushCrasherは、2023年にUnityが料金システムを突如変更し、すぐに撤回したという一件で信用を失った影響ではないかと推測している(関連記事)。

Image Credit: HushCrasher

HushCrasherはこのほかにもさまざまな側面から推計の紹介をおこなっており、たとえば今回の対象作品のうちパブリッシャー付きの作品は23%にすぎなかったという。また予算ごとのパブリッシャーの有無も紹介されており、予算10万ドル以下の作品では非常に多くの作品がセルフパブリッシングで販売されていることも示されている。このほかHushCrasherの記事では2D/3Dゲームでの傾向、シングルプレイ/マルチプレイによる違いといったグラフも紹介されている。興味のある人は詳細をチェックしてみるといいだろう。

それぞれ機械学習を交えた推計である点には留意したいものの、レビュー数10件以上といった条件付きで絞り込まれた上でも、Steamでは低予算のゲームが非情に多くを占めている傾向が確認できるのは興味深い。また開発規模の拡大に伴う予算の増大が視覚的に確認できるのも今回の推計の注目点であり、たとえ小規模スタジオでも人件費の増大などに悩まされていることを物語っている(関連記事)。大型タイトルではさらに宣伝費といったコストもかさむと考えられ、指数関数的な予算の増加に繋がっているとみられる。

なおHushCrasherは現在もゲーム開発の予算について、匿名でのデータ提供を求めている。現状では業界の全体像を描くにはまだ多くの調査が必要になるとしており、今後さらにデータが集まり推定の精度が高まれば、さまざまな推察に繋がることが期待されているそうだ。大々的に発表される売上本数とは裏腹にあまり明かされることがないゲームの予算について、業界全体の傾向として分析が進むことは今後も期待されるところだろう。

Naoto Morooka
Naoto Morooka

1000時間まではチュートリアルと言われるようなゲームが大好物。言語学や神話も好きで、ゲームに独自の言語や神話が出てくると小躍りします。

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