米SIEの元ボス、「ゲーム業界の今後は中規模ゲームが担う」と予想。“コンテンツ疲れ”を打破する新たな風
かつてSIEAの社長兼CEOを務めていたShawn Layden氏たちが、GameIndustry.bizのインタビューにて、ゲーム業界の現状、そして未来について語った。その中でLayden氏は、“AA級”、つまり中規模タイトルが業界の未来を担うという考えを示した。

かつてソニー・インタラクティブエンタテインメントアメリカ(SIEA)の社長兼CEOを務めたこともある実業家、Shawn Layden氏たちがGameIndustry.bizのインタビューに登場。同氏たちはゲーム業界が直面する課題について回答。そしてインタビューのなかでLayden氏は、AA級と呼ばれるような規模ゲームが、今後の業界の成長の鍵になるとの見解を示している。
Shawn Layden氏は1987年にソニーに入社し、その後ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の前身であるソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の時代からさまざまな要職を務めてきた人物だ。2018年には、ファーストパーティータイトルを手がけるSIE Worldwide Studios(現PlayStation Studios)のチェアマンに就任するなどしていた。同氏は2019年にSIEを退職。理由としては、本人の心労に加え、社内の方針転換がきっかけだったと述べている(関連記事)。

今回GameIndustry.bizは、Layden氏に加え、アメリカの市場調査会社CircanaのシニアディレクターであるMat Piscatella氏、そしてイギリスの調査会社Ampere Analysisのゲーム部門責任者のPiers Harding-Rolls氏にインタビューを実施した。インタビューは2部構成となっており、第1部ではゲーム業界が直面している状況や、大作タイトルに見られるいわゆる“80ドル級”ゲームの登場、基本プレイ無料ゲームの台頭などが語られた。
第2部となる今回は、そんな3名がゲーム業界の未来について語った。Piscatella氏はこれからのゲーム業界について、若年層が基本プレイ無料ゲームを好む傾向があることや、スマートフォンやPCでゲームが遊ぶユーザーが増えている近年の市場動向を鑑み、今後20年から30年ほどかけ、基本プレイ無料の形態へと完全に移行することになるだろうと発言。“80ドル級”の大作ゲームのような作品は消滅していくかもしれないとの予測を立てた。一方Layden氏は、そうした若年層も、歳をとることで趣味が変わっていく可能性があるとして、コンソールやフルプライスタイトルの“終焉”については懐疑的な見方を示した。
しかし、ゲーム市場に変化が求められていること自体はLayden氏も認めており、長い間同じことを続けている影響で「コンテンツ疲れ」が見え始めていると指摘している。そこでLayden氏が主張するのは、「コンテンツ疲れ」を起こしたゲーム市場に新たな風を吹き込むために、古いジャンルの“再解釈”をおこなうことで、新しいコンテンツができるのではないかとするものだ。

そして、その“温故知新”にあたっては、中程度の予算で制作できるもの、つまり“AA級”のゲームが最適だという。Layden氏は、大企業よりも中小会社のほうが迅速に市場の変化に適応できると指摘。新しいことに挑戦して成果を得られるという点で、AA級ゲームが今後多様なコンテンツとともに興隆すると予測しているようだ。
なおLayden氏によれば、現在のゲーム企業ではプロジェクトの規模が肥大化することにより、持続不可能なコストを抱えてしまうという現象が起こっているという。昨今報道が相次ぐゲーム業界のレイオフは、そうした事業の再編かもしれないとの見解を明らかにした。今後はより少数精鋭によってゲーム開発がおこなわれる可能性があるとも語られており、今がまさにそうした業界の変化に向けた過渡期なのかもしれない。
今回SIEA元幹部が、ゲーム業界、特に買い切りゲームやコンソールの衰退については否定的な意見を述べつつ、今後“AA級ゲーム”が隆盛すると予測した点は興味深い。なおインディーゲームほど小規模ではなく、AAA級ゲームほど大規模でないAA級ゲームの台頭を予測する見方、そして“非・大規模開発志向”は、業界関係者や開発者の声として寄せられている。

たとえば人気RPG『Clair Obscur: Expedition 33』開発元Sandfall InteractiveのCEO、Guillaume Broche氏は、リソースを集中することで制作しているゲームの方向性がチーム内で共有しやすかったという経験から、少人数開発のメリットを挙げている。また同スタジオのCTO、Tom Guillermin氏も青天井のクオリティUP要求についていけるメーカーは少なく、開発予算に上限ができ、必然的にAA級の開発規模・形態になるのではないかとの見解を示している(関連記事)。
また『Avowed』などを手がけるObsidian Entertainmentの業務部門VPのMarcus Morgan氏、開発部門VPのJustin Britch氏は、社を長く存続させるため、「そこそこ売れるゲーム」を無理のない範囲の短いスパンで提供していく姿勢をとっているという(関連記事)。開発側としては、ゲームはリリースすれば終わりではなく、開発にかかる期間と開発費/人件費の回収などといった問題も付きまとうだろう。業界全体として、ハイリスクハイリターンなAAA級ゲームを手がける傾向は弱まっており、AA級ゲームの「自由度」と費用回収の「期待値」は、昨今の厳しいゲーム業界の状況において多くのゲームスタジオにとって魅力的に映っているのかもしれない。