AAA級スタジオ縮小の裏で「“受託開発”が勢いを増した」との分析レポート。苦境の欧米業界で頭角現す
あるベテラン開発者が、昨年から今年にかけてのゲーム業界の人材市場について分析。市場調査データなどに基づき、今後の業界の動向を見据えている。

あるベテラン開発者が、昨年から今年にかけてのゲーム業界の人材市場について分析。市場調査データなどに基づき、今後の業界の動向を見据えている。
今回ゲーム業界の雇用状況を分析しているのは、Ben Pielstick氏だ。業界歴15年以上のベテランで、現在はBlizzard Entertainmentで『World of Warcraft』のシニアエンカウンターデザイナーを務めている。同氏はさまざまなメディアや調査レポートなどをもとに「2024年から2025年にかけてのゲーム業界の人材市場のシフト」をまとめ、ビジネス向けSNSであるLinkedInに記事として投じている。

地域で違う求人状況
まずBen氏は世界のゲーム業界で、2023年には1万500人以上、2024年には1万4000人以上のレイオフが実施されたとみられる点に言及(関連記事)。このうち米国でのレイオフがもっとも多かったとされ、なかでもカリフォルニア州でのレイオフが大部分を占めていたという。
一方でMY.GAMESのビジネス開発ディレクターDmitriy Byshonkov氏によるニュースレター「GameDev Reports」によれば、昨年の求人件数は地域別だと32.5%をアジアが、28.3%をヨーロッパが、22.9%を北米が占めていたとのこと(いずれもリモートワークを除く)。国別だと米国が16.4%ともっとも多いものの、ついで中国が13.9%、英国が7.4%、カナダが6.3%、日本が4.2%となっていた。そのため米国でもっとも多くのレイオフが実施されたのと裏腹に、人材はアジアやヨーロッパで多く求められている様子だ。
AAA級スタジオ縮小模様
なおゲーム開発者会議Game Developers Conferenceによる調査レポート「2025 State of the Game Industry」では、2024年に業界の10人に1人以上がレイオフの憂き目にあった可能性が示されていた(関連記事)。そしてAAA(大規模)スタジオに属しているという開発者の割合は、2023年が18%であったのに対し、2024年では15%に減少していた。
インディー開発者は横ばい、AA(中堅)スタジオなども1%減にとどまっていたため、同レポートの調査ではAAAスタジオに属する開発者が特に減少していたとみられる。2024年にはソニー・インタラクティブエンタテインメントやマイクロソフトの傘下や、Ubisoftなど、大手各社での大規模レイオフも相次いでいたことを踏まえると、AAAスタジオの人員あるいはプロジェクトが縮小傾向にある可能性も垣間見える。

そうした状況に触れつつBen氏は同レポートに基づき、開発者のうち56%が自己資金でプロジェクトを進めている点に言及。レポートにおいてはパブリッシャーから資金調達しているスタジオ/プロジェクトが28%とされており、業界では自己資金で開発する開発者やスタジオがかなり多くを占めているようだ。
また一方でBen氏は、Keywords StudiosやVirtuosといった受託開発会社が不況の中でも勢いを増していると言及。Keywords Studiosといえば世界各国に拠点を持ち、翻訳やデバッグなどサポートを請け負っている会社だ。2023年から2024年にかけてCertain Affinityをはじめさまざまなスタジオを買収しており、規模を拡大してきた。またVirtuosといえば『サイバーパンク2077』のアップデート開発参加や先日発売された『The Elder Scrolls IV: Oblivion Remastered』などの開発を請け負ってきたほか、『METAL GEAR SOLID Δ: SNAKE EATER』の開発にも携わっている。同社も世界各地に拠点をもち、さまざまな作品に手腕を発揮してきた。
そうした状況からBen氏は、近年ではAAAスタジオの人員が削減される傍らで、インディースタジオや、中堅スタジオおよび受託開発系のゲーム会社が勢いを伸ばしているとの見方を伝えている。巨大なスタジオが縮小される傍らで、外部委託で補完される開発スタイルに移行していくのではないかと考えているそうだ。

需要を増す受託開発
Ben氏のほかにも、委託開発元が勢いを増していることがうかがえる業界人の声は見られる。T-Minus Zero EntertainmentのCEOを務めるRich Vogel氏はLinkedInにて、GDC 2025に参加した所感を投稿。同氏によれば、AAA級ゲーム開発をサポートするために、月額8000ドル~1万5000ドル(約115万円~約220万円)ほどの予算で開発を委託できる企業の需要が高まっていたという。同氏によれば特に東欧、中国、南米の委託先が求められていたとのこと。北米のコアチームと共同開発をおこなうことで、チームを効率的に拡張し、燃え尽き症候群にも対処できるといった効果が見込まれているそうだ。そうして最終的なプロジェクトの予算とリスクを軽減する狙いもあるという。
またRich氏は、新しい世代のゲーマーの多くが『マインクラフト』や『Roblox』に触れて育ってきたことにも言及。そうした世代では、高品質のグラフィックや洗練された体験よりも、ゲームプレイ自体やソーシャル体験を重視する傾向があると同氏は見ているそうだ。そのため数億ドル規模の予算で開発されるようなAAAゲーム自体が、将来ビジネスモデルとして採用されなくなっていく可能性を伝えている。
2022年以降、連年失職者数が増加するなど苦境が続いてきたゲーム業界。今年に入ってからやや落ち着きを見せていたものの、先日Electronic Artsでは300人~400人規模のレイオフが実施されたことが報じられた(関連記事)。複数の業界人がAAAスタジオの縮小傾向を予想しており、今後レイオフの波が収まるにせよ、業界の状況は変容を見せるかもしれない。