売上25万本ヤドカリソウルライク『Another Crab’s Treasure』開発者いわく、“バズるだけ”では売れない。中身のこだわりで「バイラル化」、ヒットに繋げる

高難易度ヤドカリソウルライクアクション『Another Crab's Treasure』の成功について、Aggro Crabの共同設立者のひとりNick Kaman氏がThe GameDiscoverCoのインタビューで語った。

Aggro Crabは4月26日、高難易度ヤドカリソウルライクアクション『Another Crab’s Treasure』をPC(Steam)/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S/Nintendo Switch向けに発売した。小規模スタジオのタイトルでありながら、発売から同時に本作へは多くの好評が寄せられ、Steamプラットフォーム上では同時接続者がピーク時で約4700人を記録するなど大きな話題を呼んだ。本作の成功について、Aggro Crabの共同設立者のひとりNick Kaman氏がゲーム開発者向けマーケティング情報などを提供するThe GameDiscoverCoのインタビューにて語っている。

『Another Crab’s Treasure』は海底を舞台としたソウルライクアクション。プレイヤーは主人公であるヤドカリのクリルを操作し、奪われた貝を取り戻すため汚染された海を冒険する。デフォルメされたかわいらしい見た目でありながら高難易度で骨太なソウルライクというギャップと、完成度の高いゲームプレイなどから発売直後から話題を呼んでいる作品だ。Steamユーザーレビューでは本稿執筆時点で約5000件のユーザーレビュー中95%が好評とする「圧倒的に好評」ステータスを獲得している。

ソウルライクというジャンルにおけるギャップとバイラル化

本作の売上についてNick氏がThe GameDiscoverCoに語ったところによると、すでに本作は25万本売れており、そのうちの60%がSteam、20%がPlayStation 5、20%がNintendo Switchだと明かした。また本作はXbox Game Pass向けにも提供されており、GameDiscoverCo独自の推測ではXbox Game Passのダウンロード数を含めるとすでに100万本に近い数字にあるとのこと。

開発元であるAggro Crabは、過去作として『Going Under』をリリース。事業に失敗したITベンチャー企業の廃墟をインターン生が探索するというブラックなユーモアにあふれたローグライクゲームで、こちらも「非常に好評」ステータスを獲得している。実績のある同スタジオの目線でも、『Another Crab’s Treasure』は特に大きな成功を収めたと認識しているようだ。とはいえなぜ、本作はここまで大きく売り上げを伸ばすことができたのだろうか。

Nick氏はまず、本作が広い層に受け入れられたポイントとして、作品に強いフックがあったことを要因のひとつとして挙げている。本作ではまず、ソウルライク作品にありがちなシリアスさをコミカルな絵柄で打ち消しているという。一方で絵柄とは裏腹にダークなテーマを潜ませており、このギャップが本作の強いセールスポイントになっているとのこと。

また同氏は、主人公であるクリルの死にざまがソーシャルメディア上で「バズった」ことにも言及している。『エルデンリング』におけるツリーガードのような序盤のエリアにいる印象深い敵や、インパクト溢れる死にざまなどがユーモアなクリップとして拡散されやすい傾向にあったという。そういったクリップを見て本作を知り、興味をもって手に取ったユーザーも多いと同氏は考えているのだろう。

宣伝リソースの選択と集中

さらに続けてNick氏は、Aggro Crabの本作におけるマーケティング戦略についても言及した。まず同氏はスタジオとして真に独立するためにはスタジオ独自の支持層が必要だと考えているという。スタジオをプラットフォームホルダーやメディア、インフルエンサーが支持してくれるとは必ずしも限らないという考えのようだ。そのため同氏は、Aggro Crabというスタジオ自身の支持者を拡大することが結果として外部のメディアやインフルエンサーを動かすことにつながるとの持論を述べている。

その結果としてAggro Crabは、Xなどのソーシャルメディアにリソースと時間を選択的に集中して本作のプロモーションを実施したとのこと。そうしてバイラル化を狙ったことが、本作の成功の後押しになったことは間違いないとNick氏は考えているそうだ。

ただNick氏は、もし最初に何らかの「バズる」火種があったとしても、結局はそこからバイラル化に繋げるためにはゲームの品質にかかっているとの考えも述べている。またバイラル化するかどうかを計画的に設計することはできないものの、こだわりをもってゲームを作ることで可能な限りその機会を与えられると考えているという。ただバイラル化を狙うだけではなく、さまざまな要素がフックとなるよう丁寧にゲームを作り上げたことが、本作の成功につながっているのだろう。

小規模スタジオがプロモーションに割くリソースの選択と集中という例では、直近ではゾンビサバイバルFPS『Sker Ritual』をリリースしたWales Interactiveが小規模スタジオのタイトルながら大きな成功をおさめた事例がある。同作では大々的にプロモーションをするのではなく、限られた宣伝リソースの中で回数を絞り、インフルエンサーなどを通して『CoD』のゾンビモードが好きなプレイヤーという狭い層に強くアプローチすることで大きな効果を上げたという(関連記事)。


小規模スタジオでは、宣伝に割くことができるリソースが大型スタジオと比べると少なくなるだろう。Nick氏が語るように、こだわりをもってゲームを作りつつ、プロモーションに割くリソースの選択と集中で“どの要素を売り出すか”“どんな風に売り出すか”を決めることが作品の売れ行きを左右する鍵となるのかもしれない。

『Another Crab’s Treasure』は、PC(Steam)/PS5/ Xbox One/Xbox Series X|S /Nintendo Switch向けに2023年配信予定だ。

Jun Namba
Jun Namba

埼玉生まれBioWare育ちです。悪そうなやつはだいたいおま国でした。RPG全般が好きですが、下手の横好きでいろいろなジャンルに手を出しています。

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