『Hi-Fi RUSH』で実績あげたTango Gameworksが閉鎖された理由が「はっきりしない」ままで混乱生じる。元スタッフも含め止まらぬ波紋

先日5月7日に閉鎖が発表されたTango Gameworks。同スタジオの閉鎖理由が「ちゃんと明かされない」点に、ファンや関係者からの批判も寄せられている。

先日5月7日、マイクロソフトが傘下のBethesda Softworks(以下、Bethesda)にて人員削減を実施することが報じられた。さらに、BethesdaおよびZeniMax Media(以下、ZeniMax)が擁する4つのスタジオが閉鎖されることが発表・報道されている。閉鎖となったのはTango GameworksとArkane Austin、Alpha Dog Games、Roundhouse Studiosだ。このうちTango Gameworksの閉鎖理由がマイクロソフト側から「ちゃんと明かされない」点に、ファンや関係者からの批判も寄せられている。

Tango Gameworksは、東京に拠点を構えるゲームスタジオだ。元カプコンの三上真司氏によって2010年に設立。ZeniMaxの傘下スタジオとして、Bethesdaをパブリッシャーとしゲームをリリース。『サイコブレイク』シリーズに始まり、『Ghostwire: Tokyo』や『Hi-Fi RUSH』といった個性的な作品を世に送り出した。特に『Hi-Fi RUSH』はThe Game Awards 2023でBest Audio Design賞を、BAFTAゲーム部門でBest Animation賞を受賞するなど高い評価と人気を獲得している。


はっきりしない理由と“矛盾発言”

そんなTango Gameworksが突然閉鎖され、さらにその理由がZeniMaxやマイクロソフト側からはっきりと説明されていない点に批判が寄せられている。本稿執筆時点でスタジオ閉鎖についての公式な発表は、閉鎖となった各スタジオ側の声明のみ。声明のなかでは閉鎖の理由については伝えられず、突然の発表となったからかごく短い内容となっている。またIGNはXbox Game Studiosの責任者であるMatt Booty氏がスタジオ閉鎖に際して送ったとされる社内メールの内容を報じているものの、こちらにも閉鎖されたスタジオが選定された基準までは明かされていない。

ちなみに海外メディアBloombergThe Vergeの報道によると、Matt氏はZeniMax社員向けのミーティングにて、閉鎖の背景としてZeniMax傘下スタジオの人員が手薄になっていた状況があったことを説明。一方で、「名声や賞を与えてくれる小規模開発ゲームが必要(We need smaller games that give us prestige and awards)」といった今後の方針も伝えられていたという。先述のとおり『Hi-Fi RUSH』にて複数の賞を獲得したTango Gameworksが閉鎖された点に矛盾が生じうることから、そうした報道が物議を醸している状況にある。


“その場しのぎ”のインタビュー回答

そんななかで海外メディアBloombergが主催するBloomberg Technology Summitにて、マイクロソフトのXbox部門の社長であるSarah Bond氏へのインタビューが実施された。同氏はXboxプラットフォームやそのビジネス戦略を担当する人物であり、厳密には傘下スタジオの経営方針を決める役割にはないとみられる。


インタビュアーはそのことを承知のうえといった前置きをしつつ、Sarah氏に対し4つのスタジオが閉鎖されたこと、及びそのなかにはゲームがヒットを果たして複数の賞を獲得したスタジオもあり、ユーザーコミュニティにも波紋を広げていると言及。そうした実績はスタジオの将来を確約する要素とならないのかどうかをSarah氏に訊いた。つまり、Tango Gameworksが実績をあげていたにもかかわらず閉鎖された判断理由を訊いているわけだろう。これに対し同氏は経営判断においては各スタジオやそれぞれのゲームの開発チームを見て、さまざまな要素を検討しているといったことを説明。長期的な目線でゲームやデバイス、サービスを提供するためであると繰り返し強調した。先述のとおりSarah氏は、基本的には傘下スタジオの経営方針を担当していないとみられ、それぞれの返答には歯切れの悪さもある。

一方、これまでスタジオの経営方針を担うMatt Booty氏や、マイクロソフトのゲーム部門CEOでXbox事業を率いるPhil Spencer氏といった人物からはスタジオの閉鎖理由に関する声明は出ていない状況だ。先述のMatt氏の“矛盾発言”もあり、特にTango Gameworksについては閉鎖された理由が注目されている状況もある。今回のSarah氏の返答を受けて、ユーザーやメディア関係者などからはTango Gameworksが閉鎖された納得できる理由がいまだに示されていない点への批判も集まっている。また回答内容がその場しのぎのようであるとして、公表できる回答が“用意”されていないのではないかといった推察もおこなわれている。


このほか、Tango Gameworksのスタッフでさえも、スタジオがなぜ閉鎖されたのかに疑問を抱いている様子もみられる。たとえば『Hi-Fi RUSH』のゲームプロジェクトマネージャーを務めていた江頭和明氏は「Not enough?(これでも足りないの?)」として、スタジオがこれまで受賞したアワードの飾り棚を紹介。数々の受賞実績があるスタジオにもかかわらず閉鎖された点に納得がいかない想いもあるのだろう。また『サイコブレイク2』『Hi-Fi RUSH』などでディレクター/クリエイティブディレクターを務めたJohn Johanas氏も、先述のMatt氏の“矛盾発言”を受けて疑問を呈する反応を見せている。閉鎖されたスタジオのスタッフたちでさえ、納得のいく説明を受けていない可能性はありそうだ。


なおTango Gameworksの閉鎖理由を巡っては、ユーザー間で根拠のない憶測も生じている状況がある。たとえばReddit上では、スタジオ設立者であり2023年にスタジオを離れた三上真司氏が、同氏が最近新たに設立した株式会社カムイに“スタッフを引き抜いた”との憶測がTango Gameworksの閉鎖理由としてまことしやかに広まっている。この情報については、Tango Gameworks作品でシネマティックディレクターを務めてきたYun M. Watanabe氏など関係者がきっぱりと否定している

いずれにせよ、特にTango Gameworksを巡っては閉鎖の理由の公式説明がないことから根拠薄弱な情報が出回るといった混乱もみられる。また先述のMatt氏の発言報道が注目を集めたこともあり、ファンだけでなく関係者からも納得のいく閉鎖理由の説明が求められている状況はあるだろう。


元マイクロソフトスタッフの見解

ちなみに閉鎖理由がうかがえる見解のひとつとして、今月までマイクロソフトにてシニアパブリックリレーションマネージャーを務めていたBrad Hilderbrand氏が、今回の一件についてビジネス向けSNSであるLinkedInに自身の考えを投稿。Game Passの直近での収益状況とActivision Blizzardの買収が、4つのスタジオの閉鎖に繋がったという説を説いている。

まずBrad氏によればGame Pass向けに提供されるゲームは、サブスクリプションサービスにてプレイされ購入されないゆえに、基本的にどの作品も売上目標を大きく下回るそうだ。ただし同氏いわくGame Passの人気上位タイトルには(Game Passの)収益の一部が還元されるといい、そうしたデメリットが補われる部分もあるとのこと。しかし上位を1~2か月以上維持することは難しく、また直近ではGame Passの成長自体が停滞して開発予算を回収することが難しい傾向もあったという。Game Passについては、Phil氏が特にコンソールでの加入者数の成長が停滞していることを過去に明かしていた(The Verge)。


さらにBrad氏によればActivision Blizzardの買収に総額687億ドル(約10兆円・現在のレート)もの費用を費やしたことで、マイクロソフトのゲーム部門は買収にかけた費用を取り戻す、あるいは経費を徹底的に削減することが求められる状況になったとしている。そのため同氏は『Hi-Fi RUSH』がいかに優れた作品といえど、(今後)多額の買収費用を埋め合わせられるほどの収益が期待できないため、Tango Gameworksが閉鎖に至ったとの見方を伝えた。

Brad氏は今月マイクロソフトを退職しているものの、約4年半にわたって『Halo』シリーズの開発で知られる343 Industriesなど複数のスタジオのPRチームなどを率いてマネジメントしてきた人物だ。同社のマーケティング戦略を知る元スタッフにより、スタジオ閉鎖理由の見解が伝えられているのは興味深い。 このほか先述したBloombergの報道によれば、Tango Gameworksでは新作の開発プロジェクトが企画段階にあったといい、そうしたプロジェクト状況も要因のひとつかもしれない(関連記事)。いずれにせよTango Gameworksなどが閉鎖対象となった背景にはさまざまな理由があるとみられ、今後マイクロソフト側から各スタジオの閉鎖の明確な理由が公表されるかどうかは注目されるところだろう。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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