高評価インディーゲーム開発者いわく、「Xbox Game Passなどのサブスクサービスは“命綱”」。マイナーでも遊んでもらえるし、契約金ももらえる
『Citizen Sleeper(シチズン・スリーパー)』の開発者Gareth Damian Martin氏は海外ゲーム情報誌のインタビューにて、同作を発売日からサブスクリプションサービスXbox Game Passにて提供し続けている理由を説明。インディーデベロッパーにとってサブスクリプションサービスが重要性をもつとの見解を伝えている。海外メディアTwistedVoxelなどが伝えている。
『Citizen Sleeper』はRPGだ。本作の舞台となるのは、資本主義社会の辺境に位置する宇宙ステーション「アーリンの瞳(Erlin’s Eye)」。プレイヤーは、人工の肉体に人間の意識をデジタル化して宿す存在であるスリーパーとしてこの宇宙ステーションにたどり着く。スリーパーは存在自体が、エッセンアープ(Essen-Arp)社という企業の所有物。そのため、プレイヤーは備品として自身を回収しようと迫る同社の追手を逃れつつ、生活を成り立たせなければいけない。
本作ではテーブルトークRPGを彷彿とさせるシステムにて、選択とダイスロールを繰り返して日々の生活を営んでいく。本作では一日(サイクル)のはじまりにダイスロールがおこなわれ、あらかじめ複数のダイスの出目が与えられる。コンディションによって左右される出目を上手くやりくりしながら、世知辛いコロニー生活を過ごしていくのだ。
本作は2022年5月に、PC(Steam/Microsoft Store)/Xbox One/Xbox Series X|Sなど向けにリリース。本稿執筆時点でSteamユーザーレビューにて約4600件中94%が好評とする「非常に好評」ステータスを得ている。じわじわと人気を高めたこともあってか、2024年2月には国内PS4/PS5/Nintendo Switch向けにも発売されてPC/Xbox向けに日本語ローカライズパッチも配信された。なお本作は発売日からXbox Game Pass(PC/コンソール/クラウド)向けに提供され続けている。
サブスクサービスは“命綱”
そんな本作を手がけたのは英国に拠点を置く開発者Gareth Damian Martin氏による個人スタジオJump Over The Ageだ。今回同氏は、ゲーム情報誌Edgeのインタビューにて本作をXbox Game Pass向けに提供し続けている理由を明かしている。同氏によると、Xbox Game Passでは多くのユーザーが「普段遊ばないジャンル」として本作を試し、気に入ってくれたという。これは本作にとって効果絶大(massive)だったそうだ。つまり特徴的な世界観やゲームシステムをもつ本作にとって、Xbox Game Passは気軽に試してもらえる機会になっていると同氏は見ているのだろう。
またMartin氏によると、Junp Over The Ageのような小規模スタジオにとって、サブスクリプションサービスによって支払われる契約金は“命綱”のようなものだという。インディーデベロッパーにとって契約金は次のゲームを開発するリソースになるといい、Xbox Game Passが多くのインディースタジオを存続させているとの見方を伝えている。
Xbox Game Passへの提供作品は、ストアページ上などさまざまな形でユーザーへの露出が増えるため、サービス未加入者の購入にも繋がるとの見方もある(関連記事)。宣伝費などを多く使えないインディーデベロッパーにとって、作品を周知させ、試しに遊んでもらえる機会となるサブスクリプションサービスはきわめて重要な手段となっているのだろう。
開発資金獲得の困難化
なお直近では『Darkest Dungeon』の開発元Red Hook Studiosの共同設立者Chris Bourassa氏および『Slay the Spire』の開発元Mega Critの共同設立者Casey Yano氏が、インディーゲームの開発資金調達に関して「“ゴールドラッシュ”が終わった」といった見解を伝えたことが報じられていた。両氏によれば、パブリッシャーやプラットフォームホルダーはより保守的になっている傾向も見られ、インディーゲーム業界でも資金調達が従来以上に困難化しているという。
ちなみに「ゴールドラッシュが終わった」との発言は、Xbox Game PassおよびEpic Gamesストアでの提供契約についての両氏の見解として海外メディア各誌に報道されていたものの、後日両氏はこの点を一部否定(Gamer Social Club)。Bourassa氏によれば「ゴールドラッシュ終了」との表現について、インディーゲーム業界全体での資金調達の実情をあらわす意図があったとのこと。またYano氏は、Epic Gamesストア設立時に見られた“非常に魅力的な取引”の規模が縮小している状況を指していたという。両氏には、少なくともXbox Game Passにおいてインディーデベロッパーのチャンスが激減しているといった見解を伝える意図はなかったとみられる。
なお昨年2023年にはDevolver Digitalが、サブスクリプションサービスへのゲームの提供について、今後慎重に判断していく方針を改めて明らかにした(関連記事)。同社によると、2021年から2022年にかけてサブスクリプションサービスは力強く成長していたとのこと。一方それ以降は契約における同社の収益が減少に転じており、この流れは2024年にかけて続くと見込まれたそうだ。プラットフォーム側からのいくつかの契約の提案について、対象のゲームの価値および2023〜2024年の収益機会を過小評価した提案内容だったことから拒否したといい、今後も拒否することがあるだろうとしていた。プラットフォーム側から提案されるサブスクリプションサービスの契約金は減少傾向もあるとみられ、大手パブリッシャー目線では作品に不相応な金額と判断される場合もあるのだろう。
とはいえ、少なくともインディーデベロッパーにとってサブスクリプションサービスの存在は依然として命綱になりうるようだ。また、『龍が如く』を手がけるセガ・龍が如くスタジオ代表の横山昌義氏は、Game Passへの作品展開がユーザー層の拡大に役立ったとコメントしていた(弊誌インタビュー)。大手目線でも、作品の立ち位置によっては戦略的価値がある展開手法といえそうだ。昨今では海外を中心にレイオフが頻発するなど、ゲーム業界の苦境も垣間見える状況にある。そうしたなかで世に出した作品を周知させたり遊んでもらったりしつつ、売上にかかわらず次回作の開発資金獲得にも繋がる手段として、今後もサブスクリプションサービスはマーケティング目線でも魅力的な選択肢のひとつとなるだろう。
なお『Citizen Sleeper』は続編『Citizen Sleeper 2: Starward Vector』が発表されており、PC(Steam)/Xbox One/Xbox Series X|S向けに発売予定。Xbox Game Pass向けにも提供予定となっている。