「ゲーム開発者はマーケティング費用をおさえて開発費に回すべきかどうか」を巡り議論白熱。宣伝減らせばゲームのクオリティは上がるか
ゲームを作る際には開発費が必要となり、売るために広告などを打ち出す場合には、別途マーケティング費用が必要になるだろう。今回、Reddit上でゲームの開発・販売予算において「マーケティング費用を減らして開発費に回し、ゲームの品質を高めるべきではないか」との意見が投じられ、賛否が巻き起こり議論が白熱している。
今回、「マーケティング費用を減らして開発費に回し、品質を高めるべきではないか」とのトピックを巡って議論が勃発しているのはReddit上のゲーム開発に関する話題を扱うコミュニティr/gamedevだ。ユーザーのall_is_love6667氏が投じたスレッドには本稿執筆時点で約300件のコメントが寄せられている。
all_is_love6667氏は「ゲームの予算の半分をマーケティングに費やすべき」との定説があるとしており、そうしたアドバイスがどのような根拠に基づいているのかとコミュニティのユーザーらに訊いている。r/gamedevの過去のスレッドでは「ゲームのマーケティング費用は開発費と同等になるのが一般的」といった見解を伝えるユーザーなども見られ、特に同コミュニティ内ではこうした考えが定説としてあるのかもしれない。all_is_love6667氏は自身が開発者か否かは投稿上では明かしていないものの、ゲーム開発に興味のある一ユーザーとして、そうした説に素朴な疑問を呈したかたちだろう。
品質を上げればゲームは売れる?
all_is_love6667氏はマーケティングが重要であることは理解していると前置き。一方で同氏は、費用が必要なマーケティングはプラットフォーマー・広告主などの匙加減で効果が変わる“ギャンブル”のようなものではないかとの見方を述べている。そうしたマーケティングに予算の半分を費やすのはやりすぎであり、開発にもっと予算を注ぐべきではないかとの考えを伝えた。また同氏には、マーケティング費用を大量に使う開発者は「ゲームの品質を高めずにマーケティングによって売り上げを伸ばそうとしているのではないか」といった疑念もあるようだ。
all_is_love6667氏の考えに対しては、ユーザーによりさまざまな意見が投じられている。なかでも同氏の述べるようにマーケティング費用を減らし、品質を高くすればゲームが売れるかどうかについてはユーザー間で意見が割れており、議論は白熱している。
品質さえ高ければゲームは売れるとするユーザーは、たとえばSteamのおすすめ表示やSNS上での口コミを頼りにすればいいとの考えを述べている。Steamでは広告枠の販売がおこなわれておらず、ユーザーへのおすすめ表示はユーザーの関心、居住地などに基づきアルゴリズムや運営元Valveの判断で決定されているという(関連記事)。品質が高いゲームであればSteamユーザーレビューで高いステータスを獲得して、そうしたおすすめ表示やSNS上の口コミなどを頼りにしてマーケティング費用をかけずに売ることも可能ではないか、といった考えのようだ。
ただしSteamのおすすめ表示のアルゴリズムにおいても「ユーザーの関心」は一定程度必要になると見られ、品質の高さだけでは初動の関心をもたれること自体難しいだろう。マーケティングがまったく必要ないといった極端な意見には反論も投じられている。
マーケティングに最適な予算配分は「作品による」説
なおall_is_love6667氏の述べた、マーケティング費用として「予算の半分は使い過ぎ」という考えに対してもさまざまな意見が見られる。たとえばゲーム開発者だというユーザーのMeaningfulChoices氏は、マーケティング費用はゲームのジャンルや販売形態によっても異なると指摘。半分以上であれ以下であれ、そもそも予算に対するマーケティング費用の割合をアドバイスすることなどできないと考えているようだ。
MeaningfulChoices氏は例として、低予算で開発されたモバイルゲームがマーケティングに注力する場合はマーケティング費用の割合は大きくなると説明している。一方複雑な大作ストラテジーゲームでは、マーケティング費用の割合が小さくなる場合もあるとのこと。そうした作品は開発にリソースをかけるものの、マーケティング対象を関心のあるユーザーに絞り込むからかもしれない。開発規模やマーケティング方針によって、マーケティング費用が予算を占める割合は異なるわけだろう。
またMeaningfulChoices氏はゲームを売るためのアドバイスとして、基本的に開発とマーケティングの両方に注力しなければならないと説いている。マーケティングにおいて自分のゲームに関心のあるユーザーを把握しつつ、ユーザーがプレイしたいと思えるようなゲームを開発しなければ、いくら宣伝してもゲームはヒットに繋がらないとのこと。逆にほとんど周知されていないものの品質の高いゲームであれば、開発にさらに予算を注ぎこむよりもプロモーションにお金をかける方がはるかに売上増加を見込めるとしている。ゲーム開発・マーケティングにおいても「収穫逓減の法則」のようにバランスを考える必要はあるようだ。
なおMeaningfulChoices氏はマーケティングは決してギャンブルではないとも強調。広告を打ち出す地域や対象、どのような形態で打ち出すかなど、さまざまな点を考慮する必要があるとしている。効果を予測して展開することも可能であるし、ギャンブルのように運任せでむやみにお金を注ぎこむだけでは効果は見込めないとの見解だろう。またスクリーンショットやトレイラーを丁寧に作ったり、インフルエンサーにゲームキーを売り込んだり、SNS上で自ら作品の特徴をアピールしたりといった施策もマーケティングのひとつ。ゲームによっては、マーケティングには予算だけでなく時間をかけたりアイデアを凝らしたりすることも重要かもしれない。
実際マーケティング費用はどの程度の割合なのか
ちなみに、ゲームの開発費やマーケティング費用が公式に明かされる事例は少ないものの、市場調査データが公開されたケースもある。たとえばマイクロソフトによるActivision Blizzardの買収方針に関するイギリスCMA(競争・市場庁)の審査においては、審査IT市場調査会社などを傘下に置くInternational Data Group(IDG)による業界の調査報告が公開されていた(関連記事)。
IDGのレポートでは、パブリッシャー関係者の証言として、マーケティング費用についていくつか紹介。あるパブリッシャーは発売前までの開発費に1億5000万ユーロ(約240億円)がかかった一方で、マーケティングに5000万ユーロ(約80億円)を費やしたと証言。また別のパブリッシャーは、開発予算が8000万ドルから3億5000万ドル(約120億円から約520億円)なのに対して、マーケティング費用は最大で3億1000万ドル(約460億円・いずれも現在のレート)にものぼると述べていた。大規模開発作品には莫大な開発予算と長期にわたる開発期間が注ぎこまれており、できるかぎり売上を安定・向上させるためにマーケティング費用もかさんでいる傾向にありそうだ。
インディーゲームのマーケティング費用についてもデータとして示されることは珍しいものの、たとえばSNS上で業界人がアンケートを実施するといったケースが見られる。デベロッパーFirespriteのジュニア開発マネージャーOri Mess氏がX上で2022年に実施したアンケートでは、マーケティング費用を全予算のうち15%以下と答えたユーザーが643人中約80%という結果となった。不特定多数のユーザーへのアンケート結果ながら、インディーゲーム開発者はマーケティングに予算を使わない傾向も垣間見える。
いずれにせよ、ゲームをたくさん売るために必要となるマーケティング方法は開発規模やゲームジャンル、販売形態などさまざまな要因で変わると見られ、予算に対してどの程度の割合が最適なマーケティング費用かを一律で決める法則は存在しないだろう。
ただ、すでにヒットした作品はマーケティングと開発の両方に注力した結果として、マーケティング費用と開発費が半々程度に落ち着いたといったケースもあるかもしれない。そうした事例から結果だけを見て「ゲームの予算の半分をマーケティングに費やすべき」との経験則が生じた可能性はありそうだ。また、作品の最終的なクオリティには予算以外のさまざまなファクターも絡む。「マーケティング費用をかけた分、ゲームのクオリティが下がっている」と直接結びつけることも難しいだろう。