大ヒットRPG開発元トップ「サブスクが業界の主流になると野心的なゲームを作りにくい」と懸念。一方でサブスクそのものの成長率は伸び悩み傾向

『バルダーズ・ゲート3』の開発元Larian StudiosのSwen Vincke氏がゲームのサブスクリプションサービスについて懸念を述べ、注目を集めている。

バルダーズ・ゲート3』の開発元Larian StudiosのSwen Vincke氏がゲームのサブスクリプションサービス(以下、サブスクサービス)について懸念を述べ、注目を集めている。同氏はサブスクサービスがゲーム業界の主流ビジネスモデルになった場合にはデメリットがあるのと見解を示し、警鐘を鳴らしている。

『バルダーズ・ゲート3』

ゲーム業界においても、各社がサブスクサービスをさまざまに展開。月額を支払うことで、サービスごとのラインナップをプレイ可能になるといったサービスが提供されている。マイクロソフトが提供するXbox/PC Game Passを筆頭に、PlayStation向けのPS Plusのエクストラ/プレミアム、Electronic ArtsのEA Play、UbisoftのUbisoft Plusなどが挙げられる。

今回サブスクサービスについて開発者目線で懸念を示したのはLarian Studiosの創設者兼CEOのSwen Vincke氏だ。同スタジオが手がけた『バルダーズ・ゲート3』はゲームの祭典「The Game Awards 2023」にてゲーム・オブ・ザ・イヤーを獲得するなど高い評価と人気を獲得している。なおVincke氏は同作について、12月におこなわれたIGNのインタビューに対して「Game Passで提供する予定はない」旨を明言していた。

今回Vincke氏は、Ubisoftのサブスクリプション部門のディレクターPhilippe Tremblay 氏のインタビューに関する報道に反応。GamesIndustry.bizがおこなったTremblay氏へのインタビューでは、サブスクサービスの普及に関する同氏の見解が伝えられていた。Vincke氏はインタビューの内容ではなく、サブスクサービスの普及そのものについての懸念を伝えたかたちだ。


サブスク主流だと“野心作は生まれない”


Vincke氏はまず、ゲームの未来がどうなるにせよ「内容(content)」が今後もずっと重要になるとの考えを示した。一方で同氏は、もしサブスクサービスがゲーム業界を支配するようになった場合、良い内容のゲームを手に入れることはより難しくなるだろうとの持論を明かしている。

Vincke氏は、サブスクリプションサービスでは常に利益を最大化するための費用便益分析だけが重要視されているとの考えを説明。もしサブスクサービスが業界を席巻するようになれば、限られた一部の層のみが世に出るゲームを決定するようになるとの懸念を示している。たしかにそうした市場環境では、経営陣やサブスクサービスのプラットフォーム運営元などがどのゲームを配信するかの決定権をもつようになるかもしれない。

つづけてVincke氏は、サブスクサービス主体の市場では(利益よりもクリエイティブを重視する)理想主義的なプロジェクトの存在が難しくなるとの見方を示した。同氏によれば、ゲーム開発において理想主義的なプロジェクトを経営陣に認めさせることはほぼ不可能だという。一方同氏は、たとえビジネス面で大惨事を招くとしても、理想主義的なプロジェクトも存在できる余地がゲーム業界には必要だと見ているそうだ。


実際『バルダーズ・ゲート3』も野心的なプロジェクトであったといえる。同作はPC(Steam)にて2020年10月より、約3年にわたって早期アクセス配信として開発が続けられた。大規模開発作品として珍しい開発方法だろう。また同作はCRPGというジャンルであり、開発規模に見合うほど成功するかどうかも開発当時は未知数だったかもしれない。そんな同作を手がけたスタジオを率いるVincke氏だけに、経験上サブスクサービス主流の業界では挑戦的なゲームを作るのが難しいといった考えに至ったようだ。

またVincke氏は現在のゲーム業界が、一部のデジタル配信プラットフォームに依存している点についても言及。同氏は、すでに「ゲームの見つけやすさ(discoverability)」がプラットフォームの仕組みに深刻に依存していると考えているそうだ(関連記事)。そうしたプラットフォームがすべてサブスクサービス主体に切り替わるとすれば、ビジネス的な競争はさらに苛烈化するだろうとの見解が伝えられている。

一連の投稿の最後に、Vincke氏はLarian Studiosの作品をサブスクサービスに配信する予定がないことを強調。ゲーム業界において、サブスクサービス以外のビジネス形態が途絶えないようにしたいとした。


サブスクサービスには伸び悩み傾向も

ゲームのサブスクサービス台頭に向けた、業界人目線での懸念が伝えられたVincke氏の投稿。一方で、同氏が懸念するようなサブスクサービス主体のビジネスモデルに業界が推移するのは当面先かもしれない。市場調査会社Circana(旧NPD Group)のエグゼクティブディレクターでゲーム業界担当アナリストを務めるMat Piscatella氏によると、米国ゲーム業界ではサブスクサービスの成長率が横ばいになっているとのこと。また米国ゲーム業界ではコンソールおよびPCプラットフォームでのサブスクサービスによる売上が、コンテンツ売上総額の10%程度だという。

https://twitter.com/matpiscatella/status/1747660051269988522


なおXbox Game Pass/Xbox Game Pass Ultimateでは2023年7月に値上げが実施。値上げに先だって2022年11月には、同社ゲーム部門CEOでXbox事業を率いるPhil Spencer氏が、PC Game Passは加入者率の著しい増加が見られるものの、コンソールにおいては加入者率の成長が鈍化していることを明かしていた(The Verge)。理由として、コンソールでのXbox Game Passの見込み客をすべて獲得したからだろうとの見方が示されており、サブスクサービスでは一定割合以上のユーザー獲得が難しい傾向も垣間見える。

そのほかSteamを運営するValveの社長Gabe Newell氏は2022年2月のインタビューにて、当時の時点ではSteam独自のサブスクサービスを提供する必要性はないと考えられていたことを伝えていた(PC Gamer)。SteamではEA Playなどとの提携もおこなわれているものの、あくまで他社のサブスクサービスの導入にとどめる方針のようだ。

サブスクサービスは動画配信サービスや音楽配信サービスでは瞬く間に主流のビジネスモデルになった一方で、ゲーム業界でもビジネス形態として主流となるかどうかは現時点では不明瞭といえそうだ。とはいえGame Passを筆頭にサブスクサービスは人気を高めており、作品を周知する効果などから開発者にとっても魅力的なサービスといえる(関連記事)。今回報じられたUbisoftも含め各社でさまざまなサブスクサービスが登場するなかで投じられた、開発者目線でサブスクサービスの台頭に警鐘を鳴らすVincke氏の見解は興味深く、業界の今後の動向は注目される。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

記事本文: 2612