Activision Blizzardの元CEO、退任してすぐ元スタッフらによる“告発”投じられる。「ゲームに悪影響だった」など惜別より批判の声だいぶ多め
Activision Blizzard(以下、AB)のCEOを務めていたBobby Kotick氏は現地時間2023年12月29日付でCEOを退任した。Kotick氏の退任に際して、傘下企業の元スタッフによる同氏への批判が複数見られる状況となっている。
Bobby Kotick氏は、ABのCEOを務めてきた人物だ。1991年に当時のActivisionのCEOに就任。後に同社のVivendi Gamesとの合併を主導し、2008年に合併完了。Vivendi Gamesは『ディアブロ』シリーズや『オーバーウォッチ』シリーズの開発元として知られるBlizzard Entertainment(以下、Blizzard)などを擁しており、合併後の社名は「Activision Blizzard」となった。
その後AB は2023年10月に、マイクロソフトによる買収が完了。買収方針が発表された2022年1月から反トラスト法(独占禁止法)違反の恐れがないかなどに関する各国・地域の規制当局による審査がおこなわれ、1年半以上を経ての買収に至った。この間も同氏はCEOとして在籍し、Activision時代から約32年間にわたって同社を率いてきたものの、昨年末に退任に至った。
なおABには2021年7月、有害な職場文化と性的ハラスメントの氾濫を理由に、行政機関から訴訟が提起されていた過去がある。それ以降、現・元従業員による告発や重役の退任などが続出。Kotick氏についても、ハラスメントを黙認していたとの告発があり、CEO退任を求めるデモなどに発展していたことがある(関連記事)。
元スタッフによる批判
そんなKotick氏の退任を受けて、元ABスタッフによる“告発”がおこなわれている。そのうちのひとりがAndy Belford氏だ。同氏は2023年9月までBlizzardにてコミュニティ担当部門のシニアマネージャーを担当していた人物。同氏は昨年8月11日の『オーバーウォッチ2』のSteamでのリリース時について振り返り、当時のKotick氏およびAB上層部の対応を批判している。
『オーバーウォッチ2』Steam版は、リリース後すぐさま11万件以上のユーザーレビューが寄せられ、そのうち好評率は約10%にとどまる「圧倒的に不評」ステータスを記録。ゲーム内容や運営方針についての批判もあったほか、中国語(簡体字)で投稿された不評も数多く見られた(関連記事)。これはBlizzardが2022年11月にNetEaseとの中国現地パートナー契約を終了し、『オーバーウォッチ2』が実質的に配信停止の状態が続いていたことに起因するとみられる。いずれにせよユーザーの不満が噴出し、いわゆる“低評価爆撃”がおこなわれていたかたちだ。
そしてBelford氏含むコミュニティ担当チームはSteam版のリリースが低評価爆撃を引き起こすことを何か月も前から予見し、(上層部に)警告していたという。同氏いわく、チームはSteam版リリースにあたってより多くの情報や、低評価爆撃に対処するための人員・リソースを要請したものの、すべて却下されたとのこと。
一方でリリース後にコミュニティ担当チームは、Steamユーザーレビューの“モデレーション”を命じられたという。Steamを運営するのはValveであり、Blizzardの運営するコミュニティ機能ではないにもかかわらず、上層部は事態の収拾を求めてきたようだ。Belford氏は低評価爆撃状態にあるユーザーレビューにて、チームに有害(toxic)な投稿の対処をさせたくないと考えこれを拒否したものの、これも受け入れられなかったようである。Belford氏は、低評価爆撃に備えないままSteam版がリリースに至った責任はKotick氏にあると批判している。
またBelford氏は、上層部の判断ミスによる影響が現場のスタッフになすりつけられるといった企業体質もKotick氏が定着させたものであるとの主張を展開。同氏の見方ではBlizzardの経営陣は、ブレる方針への対応や無意味な決定をおこなうことに精一杯であったと考えているそうだ。なお一連の投稿にはBelford氏個人による見解も含まれる点には留意したい。
過去の脅迫問題
そのほかKotick氏に対しては、退任に際して過去の言動面の問題も取り沙汰されている。The Wall Street Journalによる2021年の報道では、Kotick氏が2006年に同氏のアシスタントを務めていた女性従業員に対して、ボイスメールで「殺す」といった脅迫をおこなっていたことが伝えられた。この件に関して、同誌がABの広報担当者のコメントとして伝えたところによると、2006年当時Kotick氏は相手の女性に対して“誇張的で不適切なボイスメール”を送ったことをすぐさま謝罪していたとのこと。その後ボイスメールについて深く反省し続けているとした。当事者間で解決した問題とみられるものの、ボイスメールによる脅迫的な言動は実際におこなわれていたようである。そうした問題についても、退任に際してふたたび注目が寄せられているわけだ。
このほかにも当時The Wall Street Journal は、ABに関連するハラスメントなどについて報道。先述したようなKotick氏がハラスメントを黙認したといった告発も紹介されていた。こちらに関してはABの広報担当者により一部否定されていたものの、当時のABの企業体質やKotick氏の言動は問題視される状況があったわけだ。かつてABの子会社に在籍していた元スタッフらも、同氏退任に際してそうした一件を振り返ってKotick氏を批判しており、改めて注目を集めるかたちとなった。
Activision時代から約32年間にわたってABを率いたKotick氏。在任中には多数の人気IPの創出・展開が続けられており、経営面では同社に果たした功績も大きいのだろう。しかしながらその裏では社内にひずみも生じていたのか、退任にあたり一部スタッフ・元スタッフやコミュニティからは惜別ではなく批判の声があがっている状況だ。
なおマイクロソフトによるABの買収方針発表時には、そうした諸問題を考慮してか、マイクロソフトおよびXbox公式がインクルージョン(包括性)を尊重する方針を強く打ち出していた。つまり性別や性指向および、障害の有無などで差別されることのない環境をABに構築していく意思表明だ。Kotick氏が離脱し、マイクロソフト傘下となった新たな体制では企業体質の改善も期待されるだろう。