人気ホラーゲーム開発者、作品値上げで「金欲しさにゲーム作ってる」と言われ反論。その通り、お金がほしいから売っている
開発者のDavid Szymanski氏は日本時間11月3日、『Iron Lung』の価格を改定し、同作は日本円では620円から900円に値上げとなった。このことに一部ユーザーが批判を寄せていたようだ。
David氏は本作には値上げ後の価格相応の価値があるとして、「今の価格に納得できないなら海賊版か何かで入手してくれ」と批判をはねつけている。なお本作の値上げはコンテンツアップデートとともに前もって告知され、その後おこなわれた最安値を更新するセールの後に実施された。
映画化も決まった高評価作品
David氏は、オールドスクールFPS『DUSK』の開発者として知られる人物だ。同作は2018年1月に早期アクセス配信開始されたのち、New Blood Interactiveのパブリッシングで2018年12月に正式リリースされた。往年の傑作を踏襲したクラシックなビジュアルや現代向けにテンポよく遊びやすいゲームプレイが評価を受け、人気を獲得している。
David氏が今回言及した『Iron Lung』は、同氏が手がけPC(Steam)向けに2022年3月にリリースされた短編ホラーゲームだ。同氏個人の名義でリリースされた作品である。同作の舞台は架空の衛星にある赤い海「ocean of blood」で、プレイヤーは潜水艇にて血の海の深海調査を命じられる。
プレイヤーの乗る潜水艇はオンボロであり、水圧に耐えるべく唯一の窓は分厚い鉄板で塞がれている。そのため船内から外の様子を確認する手段は、ソナーと船外のカメラ、そして何かが船にぶつかる音だけだ。しかも不気味な血の海の底には、得体のしれない危険も存在。頼りない潜水艇を駆り、命がけの任務に挑むことになる。
本作はSteamユーザーレビューでは現時点で約6600件中93%が好評とする「非常に好評」ステータスを獲得。閉塞感ある潜水艇の中で想像を掻き立てられる特徴的なホラー演出などが評価を受けているようだ。さらに本作は、米国の人気YouTuberであるMarkiplierことMark Edward Fischbach氏がプロデュース・主演などを務め、実写映画が製作されている。David氏も製作に協力しているほか、映画にもカメオ出演するという。
約300円値上げへの批判
本作は日本時間11月3日に販売価格が改定され、米ドルでは6ドルから8ドルに、日本円では620円から900円に値上げとなった。約300円相当の値上げながら一部批判も寄せられたようだ。たとえばSteamユーザーレビュー上では本作のコンセプトを評価するかたわらで、ボリューム不足を課題として指摘する意見がかねてより見られた。今回の値上げにより、さらに内容に不相応な価格になったとの声があがっている。
こうした批判を受けてか、David氏は自身のXアカウントにて声明を投稿。本作を値上げした理由は、本作に8ドルの価値があると判断したからだと断言した。本作は複数回のアップデートにより要素が一部追加されており、そうした点も値上げの背景としてあるのだろう。また「この値段に納得しない人のお金はいらないし、海賊版か何かで手に入れればいい」として、値上げに対する批判をはねつけた。
続くポストでDavid氏は、一部ユーザーから寄せられたと見られる「お金のためだけに活動をしている」との批判に対して返答。同氏は「当然そうだ」と答えたうえで、生活のためにゲーム作りをしており、お金が不要なら無料で配っているとしている。
David氏は最後に、自分の作品に値段相応の価値がないと思うのならそれも構わないとコメント。大きなセールを待って買うのもいいし、あるいは隠れて(不正な手段で)無料で手に入れてもいいと明言している。また同氏は、値段相応の価値がないといった意見も受け付けており、次の作品の価格を調整する考えもあるそうだ。
値上げは前もって予告され、最安値セールもやった
なお本作に向けては値上げ前となる10月24日に、値上げ告知とともにアップデート「Cheats Update」が配信された。ゲーム内のコンピュータターミナルにて入力できるチートコマンドが複数追加され、窓を塞ぐ鉄板をなくして船外を見ることができる要素などが実装された。映画化も決まったうえアップデートで新要素が加わったタイミングであり、作品人気や要素の拡充が値上げの背景としてあるようだ。
また上記告知においてはSteamにて10月27日から11月3日にかけて開催された「絶叫フェス:ザ・リベンジ」のセール対象タイトルであり、セール終了後に値上げとなることが事前に伝えられていた。セール価格はこれまでの最安値を更新する496円。また『Iron Lung』に向けては今後も無料でアップデートが配信予定のほか、映画公開後に配信される見込みのDLCも無料でおこなわれる予定であると明言されていた。値上げが前もって告知されており、また値上げ前の大盤振る舞いもおこなったにもかかわらずDavid氏のもとには批判が寄せられていたと見られる。
「海賊版か何かで手に入れればいい」といった発言の裏には、そうした配慮があったうえでなお寄せられた値上げ批判に対して、はっきりと開発者としてのスタンスを示そうという想いがあったのかもしれない。また、自分が開発したゲームの品質への自負もあっただろう。今回のDavid氏の投稿のもとには値上げを支持する反応も寄せられており、「もっと高くてもいいくらいだ」との意見も見られる。
またDavid氏は、なぜ今値上げになったのかを訊くユーザーの純粋な疑問に返答。同氏によれば、小規模なゲームといっても開発には時間がかかり、インディー作品開発においても数年先のことを考える必要があるようだ。『Iron Lung』の値上げには新作に向けた予算確保の狙いもあるのだろう。映画化も控えているためか、同氏には今後数年は同作が稼ぎ頭になるだろうとの見立てもあるという。
ちなみに本作はニッチなコンセプトのゲームだったため、売れるかどうかとの不安もありリリース時は低価格に設定されていたそうだ。先述の理由やアップデートによるコンテンツの拡充をふまえて、値上げに踏み切ったとのこと。
なおDavid氏は『Iron Lung』の価格変更に関して言及するのは今回が最後になるだろうと明言。また今後の同氏の作品ではリリース後の価格調整をおこなわない見込みだそうだ。ちなみに『Iron Lung』はコンソール向けのリリースに向けても取り組まれているとのことである。
『Iron Lung』はPC(Steam)向けに配信中だ。