ゲーム業界のレイオフ情報を集計する個人サイトvideogamelayoffs.comによると、2023年は10月5日までの時点で推計6100人以上のレイオフがおこなわれているという。海外メディアVentureBeatのゲーム部門GamesBeatが伝えている。
videogamelayoffs.comではメディア報道のほか、ビジネス向けSNSであるLinkedIn、X(旧Twitter)での従業員報告などをもとにゲーム業界でおこなわれたレイオフを集計。レイオフされた従業員数や日付が公表されていない場合は、同サイト運営者が正確と判断した推定値で記載されているとのこと。
videogamelayoffs.comのリストを見ると、2023年のレイオフにおけるさまざまな傾向が垣間見える。たとえばEmbracer Group傘下では7社でレイオフが実施。従業員の解雇だけでなく、先月初めに閉鎖となった『セインツロウ』シリーズ開発元Volitionも含まれており、同サイトの推計では240名以上が職を失ったとされている(関連記事)。
Volitionが伝えたところによれば、同スタジオの閉鎖は親会社Embracer Groupが今年6月に発表した組織再編プログラムの一環としての決定とのことであった。Embracer Groupというと数多くのスタジオ・IP買収を重ねて急速に規模を拡大させてきたことで知られるが、当時同グループは大規模な投資モードからのビジネス戦略の転換を宣言。事業リスクの低減と収益性の向上を目指すとし、そのなかにはスタジオの閉鎖や売却、未発表ゲームの開発中止などが含まれるとしていた。
またリストを見るとElectronic Artsでは今年、本社および傘下スタジオあわせて6社でレイオフが実施されてきたようだ。EA本社においては3月末、同社の6%の従業員がレイオフされたことが伝えられた。2022年3月に発表された年次報告から従業員数から推計すると、約775人の従業員が解雇されたと見られる。理由としては、同社において優先される事業により集中すべく、企業戦略に貢献しないプロジェクトの中止・チーム再編がおこなわれたとのこと(GameIndustry.biz)。傘下スタジオでもレイオフが相次いでおり、モバイル向け作品の開発・運営中止や、スタジオにおける経営判断など伝えられている理由はさまざまだ。
そのほか今年に入って大規模なレイオフがおこなわれているゲーム関連企業として、ゲームエンジン「Unity」の開発元Unity Technologiesが挙げられる。同社では今年1月に284人のレイオフが実施。企業としてより成長するために、さらに厳選された投資が必要と判断されたためとされていた。また5月にも約600人のレイオフが実施され、合計約900人の従業員が解雇されたことが明かされている。さらに同社では昨年6月にも225人のレイオフがおこなわれていた。1年足らずの間で1000人以上の従業員がレイオフされたわけだ。
なお先月、同社はUnity利用者向けの新たな料金システム「Unity Runtime Fee」を2024年1月から導入すると発表。適用基準・運用方法などを巡って批判や混乱が渦巻く結果となった。同社への信頼を失ったとしてUnityの利用をやめることを宣言する開発元も続出していた。そうした騒動の中でUnity Technologiesは謝罪を述べて批判や懸念が寄せられていた部分を中心に新料金システムの規定を変更することを発表したものの、一定数のユーザー離れを招いたことだろう(関連記事)。「Unity Runtime Fee」発表以前にさらなる成長を掲げてレイオフによる経費削減をおこなってきた同社が、今後どのような舵取りをおこなうのかも注目される。
また同じくゲームエンジンの「Unreal Engine」を開発するEpic Gamesでも先日大規模なレイオフが実施。従業員のおよそ16%となる約830人が解雇されたことが明かされた。Epic Gamesでは『フォートナイト』などゲーム開発もおこなわれており、レイオフの理由には同作におけるビジネス構造の変化が挙げられていた。
というのも『フォートナイト』では現在、コンテンツ制作ツール「Unreal Editor for Fortnite(UEFN)」を提供するなど、メタバースの創造を視野に入れた展開がおこなわれている。「UEFN」でコンテンツを制作したクリエイターは、エンゲージメントに応じて配当金を受け取れるという仕組みだ。事業は成長を見せているもののクリエイターへの多額の収益分配を伴うため、以前よりも収益性の低い事業になっているとのこと。収支の持続可能性を確保するため、レイオフがおこなわれたとされている。
そうした事例を含め、videogamelayoffs.comでは本稿執筆時点で2023年におこなわれた107件のレイオフが集計されている。それぞれレイオフに至った原因としてさまざまな説明がおこなわれており、事業再編や成長のための経費削減などが掲げられている。
なおゲーム業界のグローバル市場調査会社Newzooによれば、同社がグローバル市場の売上規模の推計を開始した2012年以降、売上規模は上昇傾向が続いていたという。特に新型コロナウイルスが感染拡大を見せた2020年には前年比23.1%増となる1778億ドル(26兆5000億円・現在のレート)、2021年は1927億ドル(約28兆7000億円)と推計されている。新型コロナウイルスの流行はゲーム業界への影響としては開発体制などに打撃を与えた一方で、ゲームの娯楽としての需要は高まったと見られ、グローバル市場の売上規模は大きな成長を見せていたようだ。
一方で同社の推計によると、2022年のグローバル市場売上は1840億ドル(約27兆4000億円)と前年比で縮小傾向を見せたとのこと。同社は今年2023年の市場売上はふたたび成長傾向に転じていると見立てているものの、それでも2021年よりも控えめな1877億ドル(約28兆円)に留まると推計されている(GamesBeat)。新型コロナウイルス流行後のゲーム事業の成長が、やや落ち着きを見せた様子がわかる分析だろう。そうした傾向が戦略見直しやレイオフに繋がった事例もあるかもしれない。