マイクロソフト側証人「『Call of Duty』のSteam販売停止は“大失敗”だった」と対FTC裁判にて明かしていた。独占してもBattle․netユーザーはあまり増えず

 

マイクロソフトによるActivision Blizzardの買収計画に関して、米国FTC(Federal Trade Commission・連邦取引委員会)が仮差し止め命令を求めて訴訟を提起。先日7月12日に棄却の判決が下された。

本件における審理はカリフォルニア州北部地区連邦裁判所にておこなわれ、今まで一般には明かされなかった情報が続々と明かされていた。その中で、マイクロソフト側からの証人により「『Call of Duty』のSteamでの販売を一時取りやめたのは“大失敗”だった」との見解が述べられていたことが判明している。


マイクロソフトは2022年1月、Activision Blizzardを総額687億ドル(約9兆6500億円・現在のレート)で買収する方針を発表。その後、反トラスト法(独占禁止法)違反の恐れがないかなどについて各国・地域の規制当局による審査がおこなわれており、日本やEUを含む多くの当局ではすでに承認済み。

一方、米国ではまだ審査が続いており、FTCは買収阻止に向けた法的措置も展開。マイクロソフトがその結果を待たずに買収を完了させることを防ぐべく、FTCは仮差し止め命令を求めて訴えていた。先月6月には関係者が出廷して証言し、それをもとに審理が進められ、仮差し止め命令の請求を棄却する判決が出された(関連記事1関連記事2)。

今回の裁判における文書が公開されており、その中では審理における証言も確認できる。そしてマイクロソフト側の証人からは、『CoD』に関する興味深い証言が見られる。反トラスト法および競争法などの専門家、Elizabeth Bailey氏の発言だ。同氏はコンサルティング会社Charles River Associatesのバイスプレジデントを務める人物。同氏はPC版『CoD』が、Activision BlizzardによるPC向けプラットフォームBattle.netにて独占されていた過去に言及。この試みは大失敗(resounding failure)であったとの見解を述べている。Battle.netの成長を狙った試みだったものの、その狙いは外れていたというのだ。

*『CoD』シリーズの情報を扱うTwitterアカウントCharlieIntelも本件を紹介し、注目を集めている


『CoD』シリーズ作品のPC版は、2017年11月発売の『Call of Duty: WWII』(CoD: WWII)以前のシリーズ作品はSteam向けにも発売されていた。一方で2018年10月発売の『Call of Duty: Black Ops IIII』以降、2021年11月発売の『Call of Duty: Vanguard』までの作品が一時期Battle.netの独占タイトルとなっていた。また基本プレイ無料のバトルロイヤル作品『Call of Duty: Warzone』もかつて同プラットフォームの独占タイトルであった。

Bailey氏はBattle.netによる『CoD』PC版独占は、プラットフォームの成長が大きな狙いであったと説明。しかし、独占がおこなわれた2018年から2022年までの期間中、同プラットフォームの月間アクティブユーザー数は比較的横ばいで推移していたと述べている。一方のSteamでは2017年から2021年にかけて、月間アクティブユーザー数は6700万人から1億3200万人に増加していたという。つまり『CoD』シリーズの独占は、プラットフォームにあまり成長をもたらさず、それどころか大手プラットフォームであるSteamでの売上機会を損失してしまった可能性もあるわけだ。

なおシリーズ最新作である『Call of Duty: Modern Warfare II』および『Call of Duty: Warzone 2.0』は、『CoD: WWII』ぶりにSteamでも配信。Battle.net独占だったシリーズ作品についても、Steam向けに展開されている。Activision BlizzardもBattle.netの伸び悩みとSteamの成長ぶりなどを鑑みて、『CoD』PC版の独占を“失敗”と判断して取りやめた可能性はあるだろう。


なおこれまでにマイクロソフトは、Xbox版と同等の『Call of Duty』シリーズ作品を(市場のライバルである)PlayStationプラットフォーム向けにも10年間提供すると法廷でも一般発表でも約束。任天堂やSteamとも同様の合意を結んでいる(関連記事1関連記事2)。マイクロソフトがActivision Blizzardの買収を完了したとして、『CoD』シリーズは、今後少なくとも10年間はXboxプラットフォームやBattle.netで独占されることはないと見られる。

ちなみにActivision BlizzardのPC版タイトルの中には、『オーバーウォッチ2』『ディアブロ4』など依然としてBattle.net独占の作品も見られる。『CoD』については“失敗”と判断されたからか独占が取りやめとなったものの、同社のほかの人気IPについてはプラットフォームの強みとして引き続き独占がおこなわれる可能性はありそうだ。

なおFTCは今回の仮差し止め命令の請求を棄却する判決に対し、米国第9巡回区控訴裁判所に異議を申し立てている(The Verge)。マイクロソフトによるActivision Blizzard買収方針については、7月18日が買収期限として予定されており、控訴裁判所がそれまでに判決を下すかどうかは不明。同買収の行方は今後も注目されるところだろう。