「Nintendo Switchの次世代機はPS4/Xbox One並の性能」との報道が出回る。が、ただの推測の可能性濃厚
Activision Blizzard買収計画を巡るマイクロソフトと米連邦取引委員会(FTC)の係争にて、Activision BlizzardのCEOが「任天堂(Nintendo Switch)の次世代機はPS4/Xbox One並の性能」と発言したとの報道がなされている。しかし、原文を確認するとそうした解釈は発言内容から乖離していることがわかる。
マイクロソフトは2022年1月、Activision Blizzardを総額687億ドル(約9兆8700億円・現在のレート)で買収する方針を発表。その後、反トラスト法(独占禁止法)違反の恐れがないかなどについて各国・地域の規制当局による審査がおこなわれており、日本を含むいくつかの当局ではすでに承認済みだ。一方の米国では審査が継続されるとともに、FTCが仮差止命令を求めて訴訟を提起。マイクロソフトやActivision Blizzard含む、ゲーム企業関係者たちが法廷で証言を重ねている。
先日には、Activision BlizzardのCEOであるBobby Kotick氏が証言台に立ち、『Call of Duty』の任天堂コンソール展開についてコメントしている。その一部が「Kotick氏が任天堂次世代機はPS4/Xbox One並の性能であると明言した」と解釈され、国内外メディアで報道されるに至っている。たとえば、Kotick氏がすでに任天堂次世代機の情報を得ていると推測して、正確性の高いスペック情報として伝える報道も散見される状態だ。
しかし、Kotick氏の発言原文を確認してみると、そうした解釈はかなり元のニュアンスからかけ離れているようだ。今回焦点となったKotick氏の発言は、『Call of Duty』の任天堂次世代機展開についての内容だった。発言の書き起こしとされる一節が広く引用されている。出典は定かではないものの、現在削除済みである海外メディア記事の可能性が濃厚だ。原文は以下のとおり。
Given closer alignment of Gen 8 platforms and our previous offerings on PS4 and Xbox One, it’s reasonable to assume we can make something compelling for NG [next-gen] Switch as well.
この文章によれば同氏は、第8世代(Gen 8)コンソールの性能水準および『Call of Duty』シリーズのPS4/Xbox One(いずれも第8世代に分類される)展開を鑑みて「“次世代Nintendo Switch”でもしっかりしたものを作れると予想できる」との見通しを語っている。Kotick氏が任天堂次世代機の性能について、第8世代コンソールに近い水準と考えているとは解釈できるだろう。しかし、これをもって任天堂次世代機のスペックをはかるのは早計である。
というのも、Kotick氏はこの前後のやりとりにおいて「任天堂次世代機のスペックはまだ把握していない」と明言しているのだ。海外メディアThe Vergeの別の書き起こしによれば、「買収の成否に関係なく、『Call of Duty』シリーズを次世代以降の任天堂コンソールで展開するか」と質問されたKotick氏は「スペックさえわかれば検討するが、現在まだ情報は提供されていない」と解答しているのである。つまり、PS4やXbox Oneと任天堂次世代機を比較した発言は、あくまでKotick氏の推測によることがわかる。
また、Kotick氏は質疑応答の最中、複数回「任天堂次世代機のスペックについての知識はまだない」との点を強調していたようだ。にもかかわらず、比較発言のみが一部国内外報道やSNS上で独り歩きしてしまったかたちだろう。
なお、Kotick氏は一連の答弁のなかで任天堂次世代機への『Call of Duty』展開に前向きな姿勢も見せている。また、Nintendo Switchに向けて『Call of Duty』シリーズを展開しなかったことについて「間違った判断だった(it was a bad decision)」と語る一幕もあった。将来、同シリーズが任天堂機で遊べる機会も訪れるかもしれない。ほか、マイクロソフトとFTCの争議を巡っては、マイクロソフトによる過去の買収検討対象や、ゲーム企業間での駆け引きなど、さまざまな情報が明らかにされている(関連記事1、関連記事2)。