「Steamで日本語対応してほしいゲームと、その費用に払ってもいい金額シート」が作成され、さっそく盛況。作成者に聞いた“本当の狙い”

 

Steamではさまざまなゲームが並んでいる。どのゲームも異なる魅力を放っているが、日本語非対応のゲームも多い。「あのゲームが日本語に対応していればなあ」そう考えたことがあるゲーマーも多いだろう。そんなゲーマーや開発者のために、あるシートが作成された。そのシートとは、「日本語対応してほしいゲームと、その費用に払ってもいい金額シート」である。

日本語対応希望ゲームと、それに出せる金額を書くだけ

「ゲーム翻訳ファンディング」と題されたそのGoogleスプレッドシートには、ずらっとゲームが並んでおり、その隣には金額や記入者のTwitterアカウントが並んでいる。ようするに、日本語対応希望タイトルとその金額 にいくら払えるかが、記されているのだ。シート作成および公開から2時間経過時点ですでに20近いタイトルと金額が記されており、盛況していることがうかがえる。


このシートは注意書きがゆるめ。シートに記入したから義務が発生するわけではない、対象言語のこともまず気にしないなど、ラフに記されている。いったいこのシートは、何をきっかけにして生まれ、どのような意図があるのだろうか。シートを作成した発起人である、nicolith氏に話を聞いた。

日本語対応における壁

まずシートを立ち上げたきっかけについて尋ねたところ、『flesh, blood, & concrete』の日本語対応がきっかけだったそうだ。弊誌でも取り上げたが、同作ではホラーゲームのススメなる人物が、開発者に日本語対応を打診し、その後自腹で翻訳者を雇い、日本語対応をさせたという異色の経緯をもつ(関連記事)。nicolith氏によればもともと「未翻訳ゲームのファンがお金を出し合って翻訳費用を集める」という考えは、ゲーマー/翻訳者コミュニティなどでたびたび出ていたという。しかし実際にファンディングをするとなるとややこしい。そこで、スプレッドシートを作ってみたそうだ。


一方で、どのように活用されることをイメージしているのか気になるところ。このシートの活用成功イメージを聞いてみた。nicolith氏は、このシート内で十分な出資者が集まり、翻訳が実現されるのがもっとも理想的とコメント。nicolith氏は「インディーゲーム開発者にとって日本語のローカライズ費用は高すぎ、翻訳者にとっては安すぎます」と言及。シート記入者によってその差額を埋められれば、より橋渡しが進められると考えているそうだ。しかし、実際シートの希望者だけで費用を捻出しきるのは現実的に難しいだろう。ここがnicolith氏の真なる狙いではないようだ。本当の狙いは、シートに金額を記入してもらうことで、“開発者に日本市場におけるニーズを把握してもらうこと”であるそうだ。

本当の狙い

英日翻訳者として活躍するnicolith氏が海外インディーゲーム開発者と話すなかでもっとも受ける相談が「日本の市場のニーズがわからない」というものだそうだ。実際に費用をかけるかどうか判断する以前に、日本語対応によって見込める収益が予想できないため、予算を決められないわけだ。

直近例としては、nicolith氏はロシアのビジュアルノベルゲーム『Tiny Bunny』の翻訳を担当。『Tiny Bunny』はSteamで1万ほどのユーザーレビューが寄せられ、「圧倒的に好評」の評価ステータスがつくヒット作品。しかし、開発者は日本語対応におけるニーズが読めなかったという。しかしながら、nicolith氏が日本語の公式翻訳を引き受けると告知したところ、開発者が想定していたよりも反応があり驚いていたそうだ。


そもそもとして、英語が共通言語である世界のインディーゲームコミュニティにおいて、日本人は極めて少ない。それゆえに、開発者サイドとしては日本市場のニーズは極めて読みづらく、洋ゲーがあまり受けないと見なされているとのこと。nicolith氏は、そうした日本市場のニーズに関する質問をよく開発者/翻訳者(日本語以外)から受けていたという。それゆえに、今回のシートによってニーズを示したいと考えているのだろう。日本語対応については、パブリッシャーや開発者が「そのゲームのSteamウィッシュリスト次第」と話すことが多い。生のデータだからだ。それと同様に、シートを通じてニーズや熱量を示したいという同氏の意図がうかがえる。

そのほか、nicolith氏は「未翻訳ゲームのおすすめ情報がまとまったものが、自分の知る限りありません」とコメント。シートを通して、副次的な効果として、そういったタイトルを知る場になってもいいと考えているそうだ。そもそもとして海外インディーゲームの日本語翻訳のボトルネックは、翻訳工程以前、特に制作者との交渉をやる人が少ない点にあるという。nicolith氏のように、そこを担う人間がいると知ってもらうだけでも価値があると、同氏は考えているそうだ。

まずは提案

とはいえ、ざっくりとまとめたシートであっても、お金が動くにあたっては、権利や条件含め考えなければいけないことは山ほどある。その点はnicolith氏も重々理解しているという。のちに考えていかなければいけないとしつつも、まずはニーズがわかる場所を作ったそうだ。なお同氏はこれまで『q.u.q.』を含むさまざまな英日翻訳をしてきたが、『Tiny Bunny』で初めて有償にて翻訳を担当するという。つまり、それまでの作品は無償で担当してきたわけだ。無償でやることが良いとは限らないが、他言語の素晴らしいゲームを日本に伝える活動を、商業ベースではないステージから貫いてきたnicolith氏の振る旗は、重みがあるだろう。

『q.u.q.』


現在シートには、さまざまなゲームタイトルに、さまざまな金額が寄せられている。普通のゲームユーザーのほか、翻訳者やゲームメディアの編集者など、多彩な人達がその熱を伝えている。実際にこのシートがどのようなかたちで利用されるか未知数であるが、シートを見てその熱を感じ、共感した際にはシートに想いをぶつけてみるのもいいだろう。



※ The English version of this article is available here


国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)