Activision Blizzard重役、突然『The Last of Us』ドラマとソニーをベタ褒めする。ライバルが凄いので買収は問題なし論


Activision Blizzardの重役が、SNS上で突然『The Last of Us』ドラマ版をべた褒め。さらにはソニーは市場を圧倒する存在であると称える一幕があった。一見脈絡のない称賛の背景には、マイクロソフトによるActivision Blizzard買収にまつわる思惑があった。

ドラマ版『The Last of Us』
Image Credit: Liane Hentscher/HBO


マイクロソフトは昨年1月にActivision Blizzardを買収する方針を発表。それ以降、各国・地域の規制当局では承認審査が進められている。各地域の当局がそれぞれの態度を示すなか、イギリスCMA(競争市場庁)のように買収に懸念を示す機関もあらわれた。「マイクロソフトがActivision Blizzardを買収すれば、市場のなかで強力な存在になりすぎるのでは」という考え方だ。昨年12月には米連邦取引委員会(FTC)がそうした懸念にもとづき、買収阻止を宣言して法的手続きに乗り出すに至っている(関連記事)。

そんな中、Activision BlizzardのCCO(最高コミュニケーション責任者)を務めるLulu Cheng Meservey氏が、自身のTwitterアカウント上で発言。FTCに向けたリプライとしつつも、突如として『The Last of Us』のドラマ版とソニーをべた褒めし始めたのだ。

『The Last of Us』は、Naughty Dogによる人気アクションゲームシリーズ。現地時間1月15日からは、HBOにて(国内ではU-NEXTにて)実写ドラマ化作品の配信が開始されている。同ドラマは、ゲーム版の立役者でもあるNeil Druckmann氏が携わり製作。ファンや批評家からの高い評価を受け、さっそくシーズン2の製作決定が伝えられている(Deadline)。また、ドラマのヒットの影響で、リメイク作『The Last of Us Part I』の売上がイギリスにて跳ね上がったとの報告もある(GamesIndustry.biz)。とはいえ、Meservey氏が突然ドラマをベタ褒めし始めたのには、「ドラマが面白かった」以外の理由がある。

Meservey氏はFTCに向けて、「昨晩の最新話を見ました?凄かったですね」と呼びかけいかに『The Last of Us』ドラマが流行っているかを語った。続けて、原作ゲームはソニーのファーストパーティースタジオであるNaughty Dogが開発し、PlayStation独占タイトルとして発売され、さらにドラマ版もソニーグループ企業によって製作されていると熱弁している。ほかにも、「ソニーはゲームのみならずテレビ、映画、音楽の分野でも誰にも敵わないほどのIP軍資をもっている」「(ソニーが各分野で抱えるそうしたIPや才能は)真に素晴らしく、なおかつ脅威である」と絶賛。「ソニーは“The first of us(業界の代表格)”である」と伝えて、ソニーにはFTCによる保護など必要ないと主張した。

Meservey氏がここまでソニーの優位性を強調するのは、「マイクロソフトとActivision Blizzardが束になっても敵わない相手である」とのアピールだ。業界でのライバルが強力だと主張することで、買収が成立してもマイクロソフトが優位になりすぎることはないと示しているわけである。こうした駆け引きの結果としてライバル企業を褒めそやす奇妙な一幕は以前にも発生しており、ソニー・インタラクティブエンタテインメントとマイクロソフトがお互いのサービスの優位性を当局に向けて強調し合っていた。また、その過程でなぜか『Battlefield』シリーズが、“流れ弾”的に「『Call of Duty』シリーズより売れてないタイトル」とレッテルを貼られる場面もあった(関連記事1関連記事2)。

今回は、マイクロソフトによる買収を望むActivision Blizzard重役が、またもライバルコンテンツを褒めて買収の正当性を主張したかたちだ。今後も、こうした奇妙な褒め合いは続いていくかもしれない。また、発言の意図からしてMeservey氏が『The Last of Us』ドラマ版を心から褒めたかはやや疑問なものの、同作が好評なのは事実。こうした闘争とは無関係に純粋に楽しみたいものである。

『The Last of Us』ドラマ版は国内向けにはU-NEXTにて配信中だ。