マイクロソフト、SIEが手がける独占タイトルの多くが「自社のものより品質が良い」とコメント。Activision Blizzard買収審査に際して

 

マイクロソフトが今年1月にActivision Blizzardを買収する方針を発表してから、各国・地域の規制当局では承認審査が進められている。この過程では、マイクロソフトや関係各社が当局に提出した、意見書の内容が公開されることも。イギリスCMA(Competition and Markets Authority・競争市場庁)は11月23日に新たな資料を公開。そのなかでマイクロソフトが、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)のPlayStation向け独占タイトルの品質に言及しており注目が集まっている。海外メディアEurogamerなどが報じている。


今回公開された資料は、マイクロソフトのActivision Blizzard買収に関して、CMAが今年9月に第2段階の審査をおこなうと発表したことに対するマイクロソフトの意見書である。まず前提としてCMAは、この買収において反トラスト法(独占禁止法)違反の可能性について懸念を示し、特にSIE/PlayStationの競争力を損ねる恐れがあると指摘していた(その結果、消費者が損害を被るという理屈)。SIEは、この買収に反対の立場を鮮明にしており、CMAがその主張を受け入れた格好となっている。

一方のマイクロソフトは異なる見解を示しており、今回の意見書でも同様だ。同社は当初よりゲーム業界においては「追う立場」であることを強調し、この買収が完了した後も、収益ベースでテンセント、ソニーに次ぐ3位の規模になるとしている。今回公開された資料にてマイクロソフトは、SIEはコンソールメーカーとして支配的な立場にあるとしたうえで、SIEのパブリッシャーとしての立ち位置について指摘した。

マイクロソフトは、SIEのパブリッシング事業の規模はActivisionとほぼ同程度で、マイクロソフトのおよそ2倍であるとコメント。またSIEは2021年以降、280本以上のファースト・サードパーティの独占タイトルをリリースしており、こちらはマイクロソフトの約5倍の数だとした。そして、『ゴッド・オブ・ウォー』や『The Last of Us』『Marvel’s Spider-Man』『ゴースト・オブ・ツシマ』などを象徴的な作品として挙げ、「SIEはマイクロソフトよりも多くの独占タイトルをもち、その多くは(マイクロソフトのものと比べ)より品質が良い(Sony has more exclusive games than Microsoft, many of which are better quality)」とした。

ライバルが手がける独占タイトルの品質が、多くの場合自社のものより優れているとしており、珍しい発言であると注目されている。もっとも、業界におけるSIEの優位性を強調するなかでのコメントであるため、どこまでがマイクロソフトの本音なのかは分からない。


独占タイトルに関してマイクロソフトは、SIEがおこなうサードパーティとの契約についても言及している。それによるとSIEは契約において、対応プラットフォームからXboxを除外(exclusion)するようパブリッシャーに求めていると指摘。『ファイナルファンタジーVII リメイク』や『Bloodborne』『ファイナルファンタジーXVI』などが、そうした契約を経た作品だとしている。あくまでマイクロソフトがそう主張しているという段階であるため、こちらも事実かどうかははっきりしない。

ちなみに、CMAに対してはSIEも意見書を提出しており、今回時を同じくして、ある数字が注目されることとなった。意見書にてSIEは、マイクロソフトのサブスクリプションサービスXbox Game Passの優位性を主張。その加入者は2900万人に達しており、PS Plusを大きく上回っているとした。マイクロソフトが公開している公式な加入者数は、今年4月時点の2500万人であり、突如新たな数字が出てきた格好だ。市場調査会社Ampere Analysisのデータなどを元にした数字とのこと(IGN)。

ただ、Ampere AnalysisのアナリストPiers Harding-Rolls氏は、2900万人というのは同社がもつ最新の数字ではないと指摘している。いずれにせよSIEとしては、買収が完了し『Call of Duty』シリーズなどが発売日からXbox Game Passに提供されると、競争力に大きな影響が及ぶと主張しているわけだ。

一方でマイクロソフトは今回の資料にて、「『Call of Duty』シリーズのユーザーの性質は、ほかタイトルユーザーに比して特別でもユニークでもない」との旨をコメント。Xboxプラットフォーム上でのデータから、ユーザーのプレイ時間がほかの大型タイトルと比べて特に多いわけではないことなどが根拠のようだ。また任天堂やSteamが、『Call of Duty』シリーズなしでも繁栄している点も指摘されている。

マイクロソフトが同シリーズを独占かするのかどうかというのは、今回の買収手続きにおける大きな焦点のひとつとなっており、同社としてはその影響力が過剰に評価されているとの見方なのだろう。

同社ゲーム部門CEOのPhil Spencer氏は先日、「PlayStationが存在する限り、『Call of Duty』のPlayStation向けリリースを続けることが、我々の意図するところだ」とコメント(関連記事)。同社はSIEに対して、さしあたり10年間の提供を約束するオファーをおこなったとの一部報道もあり(VGC)、マイクロソフトとしては独占の意図がないことを強調している。それでも、規制当局を舞台にしたSIEとの対立は続いており、承認審査においてどのような判断が下されるのか注目される。