自作チンコントローラーに、TENGAが製品提供。障害と戦う男性の快適なスティック操作を支援

格闘ゲーマーの畠山駿也(Jeni)氏は10月31日、TENGAから製品を支援提供されると報告した。筋ジストロフィー症を患う同氏による自作コントローラーである「チンコントローラー」の緩衝材となるという。

格闘ゲーマーの畠山駿也(Jeni)氏は10月31日、自身のTwitterアカウントにて、TENGAから製品を支援提供されると報告した。使い道は、筋ジストロフィー症を患う同氏による自作コントローラーである「チンコントローラー」の緩衝材だという。

念のため書き添えておくと、チンコントローラーとは、chin(チン)、すなわち下顎を使ってスティック操作できるコントローラーのこと。摩擦を利用して顎先でジョイスティックを操作するようなイメージだ。

畠山氏は筋ジストロフィー症という難病を患っている。筋ジストロフィー症は、骨格筋が萎縮し、筋力が低下する指定難病だ。原因は不明であり、治療法も確立されていない。noteの投稿によれば、小学2年生から車いすでの生活を余儀なくされていたとのこと。同氏は、「出来る事が減っていく生活の中、内向的になり、学校以外は自宅にいる子供になっていった。唯一できることはテレビゲームくらい」とnote投稿にて振り返っている。しかし高校性の時、ニコニコ動画で『スーパーストリートファイターIV』の実況プレイを見て対戦型格闘ゲームに興味をもったそうだ。トッププレイヤーのプレイを見ながら練習するうちに、無理だと思っていたことが可能になっていく感覚を味わったとのこと。

『スーパーストリートファイターIV』(カプコン、2010年)


しかし、その後も症状は進行。『ウルトラストリートファイターIV』が登場する2014年頃には、普通のプレイは困難になっていたそうだ。しばらくは格闘ゲームコミュニティを離れていた同氏。しかし去年、裏方として参加したイベントで提案されたことをきっかけに、格闘ゲームに復帰。顎で操作できるコントローラーを自作し、ふたたび戦いの場に立つことができたという。現在同氏は、eスポーツを通じた障害者支援活動をおこなう企業、ePARAの社員として活動している。

畠山氏は顎コントローラーを使うにあたって、「肌に優しく強度のある」カバーを求めていた。アクションゲーム、特に対戦格闘ゲームではスティックでの入力が重要となる。同氏が「人生を狂わされた」と表現する『ストリートファイター』シリーズは、アクション中に特定の操作の組み合わせでコマンドを入力し、技を繰り出すのが醍醐味だ。しかし手のひらと顎とでは、動かしやすさやクッション性、物を捉える力が違う。長時間力強くこすりつけても痛くならず、それでいてしっかりと肌を捉える摩擦力をも有するような緩衝材が、スティック側に設置されている必要があるのだ。かくして昨年、畠山氏はTENGAに狙いを付けた。

TENGAとは自慰行為の際に補助的に使う道具のブランドである。畠山氏はこのTENGAの製品のうち、男性向けのPOCKET TENGAを操作部に装着したのだ。人肌を摩擦するという面で考え抜かれた素材が功を奏したのか、この目論見は上手くいったようだ。TENGAを装着したコントローラーさばきは同氏のTwitchの配信映像で確認できる。実に器用かつ精密にスティックが動いていることがわかるだろう。

同氏によればこの「POCKET TENGAを加工して使ってみた」旨のツイートをした事がきっかけとなり、このたびTENGAから正式に製品提供を受けることになったとのことである。同社は、アダルトグッズメーカーとしてのイメージが強いが、性教育や不妊治療、勃起障害など、とかく公然としにくい性にまつわる諸問題にも取り組んでいる。そんな同社の社会的責任活動の一つに、身体障害者への支援があるようだ。たとえば、握力が弱くても保持することのできる「TENGA用カフ」や「iroha用カフ」などの製品を開発している。ちなみにirohaとはTENGAの女性向け製品レーベルである。

TENGA社の公式ホームページ。障害のあるアーティスト、山野将志氏がパッケージをデザインした製品がトップで固定されている


TENGAは今後、手の不自由な人に使いやすいマウスや目線だけでポインターが動かせる視線入力式のマウスなど、さまざまな悩みに対応できる補助具を開発してゆくとしている。今年に入ってからは就労支援にも力を入れており、これらの障害者向け器具を障害のある当事者たちが製作する。11月上旬からは通信販売サイトも障害のある当事者たちが運営する予定だ。同社の「みんなの、愛と自由のために」というブランドメッセージに則るならば、チンコントローラーもまた、TENGAの一つの見事な使い方だろう。

ゲームとマスターベーション。どちらの分野でも、健常者と障害者のアクセシビリティの溝を埋めるような動きは引き続き求められていくだろう。最近では『ストリートファイターVI』の充実したサウンドアクセシビリティ設定が話題になった(関連記事)。あらゆる分野が手を取り合い、組み合わさり、一人でも多くの人が豊かなプレイを経験できる世の中になることを祈っている。



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Daiki Imazato
Daiki Imazato

下手の横好きでシミュレーションゲームなどをしています。自分のミスでだんだん状況が悪くなっていく様を他人事のように眺めるのが好き

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