『幻塔』翻訳品質向上のため協力者募集も報酬は「ゲーム内アイテム」。御礼をめぐる疑問寄せられる

 

Level Infiniteは10月19日、 基本プレイ無料オープンワールドRPG『幻塔(Tower of Fantasy)』の新たな開発レポートを公開した。同レポートでは、本作向けに配信された大型アップデートVer2.0の内容などが紹介。本作ローカライズ品質向上のための取り組みである、「ローカライズスペシャリスト」計画も告知された。しかし、その仕組みについて、海外を中心としたユーザーらから疑問の声が投じられているようだ。

『幻塔』は、PCおよびiOS/Android向けのSFオープンワールドRPGだ。舞台となるのは、地球を離れた人類が移住したアイダ星だ。人類はこの星で大災厄に見舞われるも、その生き残りたちは荒廃したアイダ星で力強く生き続けていた。プレイヤーは、そうした生き残りのひとりとして、人類の未来をかけた冒険を繰り広げることになる。本作は今年8月よりサービスが開始され、10月20日からはSteam向けにも配信開始。さらに、同日には大型アップデートVer.2.0「ヴェラ」も配信開始されている。

本作運営元は10月19日、大型アップデートでの実装コンテンツなどを紹介するブログ投稿「開発レポート10/19」を公開した。新アバターキャラ「ラビィ」の登場や新マップ・新ダンジョンなどのコンテンツ追加のほか、キャラレベルの上限は80まで引き上げられ、新たなダンジョン難易度「ハード」が開放される。また、今後のイベント実施予定なども含め、大型アップデートに関する情報をひとまとめにした告知となっていた。

そして、同告知では“「ローカライズスペシャリスト」計画”なる展開も明らかにされていた。開発元の説明によると、プレイヤーの協力を仰ぎ、ローカライズの品質向上を目指す計画のようだ。そうした協力者たちをローカライズスペシャリストと位置づけ、貢献度に応じてゲーム内報酬がもらえると告知されている。そして、この試みがユーザーらの疑念を呼ぶこととなった。

同レポートの英語圏向けバージョンの公開と共に、SNS上にてローカライズスペシャリスト計画に対し懸念する意見が寄せられている。中心となるのは「ユーザーに翻訳品質の向上を任せるのは、不適切ではないか?」という疑問だ。上述のツイートの投稿者は、『幻塔』の運営母体がTencent Gamesである点に触れて、「それほどの大企業ならば、ユーザーに頼るのではなくローカライズ専門のスタッフをきちんと雇用するべき」との見解を示している。

また、同ツイートへのリプライなどでは「ローカライズの品質向上は本質的にはLQA(言語的品質保証)業務にあたるのでは」といった別ユーザーからの指摘も寄せられている。ほかにも、翻訳者やQA業務に携わっていたというユーザーたちからも意見が投じられる状況だ。そうした意見の軸となるのは「本来であればしっかりと現金で報酬が支払われる業務を、“ガチャ通貨”を報酬にしてプレイヤーに押し付けようとしているのではないか」との論調だ。

たしかに『幻塔』がローカライズ品質向上をユーザーだけに託しているとすれば疑問だ。一方で、『幻塔』のいう「ローカライズスペシャリスト計画」が、運営側の予期しないニュアンスで伝わっている可能性も高い。というのも、日本向け開発レポートの同計画の項目を見てみると、ニュアンスとしては「ボランティア募集」にも近い印象を受ける。詳細については不明なものの、あくまでも「貢献度に応じてゲーム内報酬を差し上げます」とだけ伝えられている。誤訳報告へのインセンティブ制度などを感じさせる内容であり、少なくとも、「ユーザーに仕事を押し付けている」とは一概に解釈しづらい印象だ。

一方で、英語版はかなり日本語版からニュアンスが変わる。まず該当部分の見出しは英文では「We are looking for Localization Specialists!」とされている。この表現は「ローカライズの専門家(スペシャリスト)を募集しています! 」といった、プロに対する求人のようなニュアンスも感じられる。「ローカライズスペシャリスト/Localization Specialist」という言葉自体が、英語としては専門的なプロを想起させる表現なわけだ。

また、同計画への貢献に対する報酬について英文では「properly compensated(適切な報奨が支払われる)」とややフォーマルな言い回しにされている。しかしながら、支払われるのはゲーム内報酬である。そうした点で、「スペシャリストに対して支払われるべき適切な報酬は、ゲーム内報酬ではなく現金ではないか」という違和感を、多くの英語ユーザーに与えた可能性はあるだろう。


『幻塔』のローカライズ体制に対する印象でも、「ローカライズスペシャリスト計画」の受け止め方は変わってくるだろう。というのも、本作では日本語版・英語版いずれにおいても、しばしば誤訳・表記ミスが話題にのぼる。一例として、アイテム性能表記の誤りが批判の種となる一幕もあり、それらの原因をローカライズの不備に求めるユーザーもいる。「現状で翻訳のクオリティが低い」と感じる者にとって、その品質向上をユーザーに頼るスペシャリスト計画は、品質改善を“丸投げ”しているように感じるかもしれない。

グローバル展開する運営型ゲームにて、ユーザーたちに向けて誤訳などの指摘を募るケースは珍しくない。開発・運営元が小規模な作品などでは、本格的な多言語展開を有志の翻訳者チームに頼るケースなども散見される。しかし、本作の運営母体となるTencent Gamesは世界有数のゲーム企業であり、小規模運営元とは事情や見られ方も変わって来るだろう。また、ローカライズスペシャリスト計画は、一般プレイヤーに対してゲーム内報酬を提示して参加を募る点でも、ボランティアによる有志翻訳とは毛色が異なる。「ローカライズスペシャリスト計画」が実際にどのようなシステムとなるのかはいまだ不明。詳細については、追って『幻塔』運営より告知されるそうだ。

幻塔(Tower of Fantasy)』はPC(Steam/公式クライアント)およびiOS/Android向けに基本プレイ無料で配信中。


※ The English version of this article is available here