Activision Blizzard、米行政機関から「不当な賃上げ渋り」をしたと指摘される。傘下スタジオ労組への報復か
Activision Blizzardが「労組参加者に対して賃金に関する報復をおこなっていた」と、米国行政機関による判断が下ったようだ。傘下スタジオであるRaven Software内の労働組合所属従業員について、賃上げを不当に渋っていたと指摘されている。The Washington Postなどが伝えている。
Raven Softwareは、『Call of Duty: Warzone』や『Call of Duty: Black Ops Cold War』を共同開発したゲームスタジオ。同社は1997年にActivisionに買収され、現在はActivision Blizzard傘下のスタジオとなっている。
そしてActivision Blizzardは、Raven SoftwareのQA(Quality Assurance・品質保証)部門の従業員たちの賃上げを不当に渋っていた可能性があるようだ。同部門の従業員たちは今年5月、Game Workers Alliance (GWA)として労働組合を組織していた。それに先だってActivision Blizzardは、同社でパートタイムまたは契約社員として従事するQA部門約1100人を、フルタイムの従業員に転換することを決定。あわせて彼らの最低賃金を時給換算20ドルにまで引き上げると伝えていた。ただし、Activision Blizzardはほかの従業員たちの待遇改善を実施した一方で、GWAに属する従業員たちには賃上げを認めなかったとされている。
Activision Blizzardはこの理由について、全米労働関係法(NLRA)に基づき、組合結成の最中にある従業員の賃率の変更は、許可されていなかったと各メディアに対して主張。つまり、GWAに属する従業員たちの賃上げを認めなかったのは、法的に認可されていないため仕方なかったとの主張だろう。
一方で今回のActivision Blizzardの対応には、NLRAに基づく米国連邦政府の独立行政機関である全米労働関係委員会(NLRB)が調査を実施。結果NLRB は、Activision BlizzardがGWAの組合活動に対する「報復として」賃上げを実施しなかったとの判断を示した(The Washington Post)。ようするに、Activision Blizzardの法に反するため賃上げができなかったという主張と、NLRB の調査結果は食い違っているわけだ。
GWAは先述のとおり、今年の5月に結成された労働組合だ。Raven SoftwareのQA部門の従業員によって組織されている。GWAの結成は、同部門の従業員たちが昨年12月、突然の解雇を言い渡されたことに端を発する(関連記事)。同部門の従業員であるOnah Rongstad氏によれば、従業員たちは約5週間にわたっての強制的な長時間労働(いわゆるクランチ)を経験。さらにその直後に、同部門従業員の約3分の1が早期の契約終了を告げられたのだという。
GWA結成の動機としては、そうした長時間労働や突然の従業員解雇、そして低賃金といった、QA部門の従業員たちの待遇の悪さがあるようだ。なおGWAは米国の大手ゲーム会社において誕生した、初の組合でもあるという。
一方のActivision Blizzardには、GWA結成を阻止するような動きも見られていた。GWA結成にあたっては、Raven SoftwareのQA部門内28人での投票が実施されていた。しかしその際、Activision BlizzardはQA部門内だけでなく、Raven Softwareの従業員230人全員からの投票を募る必要があるとして、組合結成を阻止しようとしたことが伝えられている。こちらについてもNLRBが、QA部門内のみでの投票による独自の組合結成を認めたという一幕があったようだ。
GWAとActivision Blizzardとの間では、労働協約についての交渉が今後も続くと見られる。米国では、正式に承認された組合であっても、新たな組合が経営陣と契約上の合意に達するまで1年以上の期間を要することもしばしばあるようだ(Bloomberg Law)。そして海外メディアTechCrunchによると、今回NLRBがActivision Blizzardの報復としての賃上げ拒否を認定したことは、今後の交渉内容にも反映されると見られている。Activision Blizzardによる不当な対応の可能性がNLRBの調査結果として提示されたことで、GWAに有利な交渉が進むとの見方だろう。
なおThe Washington Postは、今後のActivision BlizzardとGWAの交渉に決着がつかない場合、NLRBのさらなる介入や連邦裁判所での係争に発展する可能性を示唆している。先述のようにActivision Blizzardは、GWAに属する従業員に賃上げを実施しなかった点について、NLRBの調査結果とは食い違う主張をしている。Activision BlizzardとGWAが交渉成立の道を見いだせず、さらなる争いに発展する可能性もあるとの見解だろう。両者の交渉はどのような着地を見せるのか、今後の動向が注目される。