人気ゲーム開発者たちが「開発初期のゲーム映像」を続々投稿しお祭り状態に。“グラフィックは最初に完成される”論への静かな抗議

人気ゲームの開発スタジオや制作者が、自身のタイトルの“制作段階のグラフィック”を続々と公開している。きっかけとなったのは、とある論争だ。

人気ゲームの開発スタジオや制作者が、自身のタイトルの“制作段階のグラフィック”を続々と公開している。開発中の映像はいわゆる未完成の状態であり、機密情報でもある。すでにローンチされた製品のものは講演会などでなければあまり公開したくはないだろう。しかしながら、彼らは惜しげもなく公開しているのである。またそれらのツイートには共通して「グラフィックはビデオゲーム開発において最初に完成されるものだ」(Graphics are the first thing finished in a video game)という一文が引用されている。いったいどういうことなのか。

きっかけとなったのは、とある論争だ。先日『Grand Theft Auto』新作の開発中の映像ファイルがリークされる被害にあった(関連記事)。リーク映像への反応はさまざまであったが一部ユーザーからは「まるで未完成品みたいだ」といった厳しい声も上がっていた。そうした批判を受けてか、人気インフルエンサーが一石を投じる。「GTA6のリークは、いかにゲーマーが開発の流れを知らないかを示しているな。リーク映像なんだから未完成品で当然だろう」と皮肉交じりにいさめるツイートをしたのだ。


このツイートは27万いいねを集めるなど支持を得た。しかしながら、このツイートにも賛同しない者もいたようだ。その中の一人こそが「Graphics are the first thing finished in a video game(グラフィックはビデオゲーム開発において最初に完成されるものだ)」と提唱したのである(投稿したアカウントは現在非公開)。すなわち今回リークされたものはほぼ完成品に近い、と主張しているわけだ。

これに対して、ゲーム開発現場を知る当事者たちはツッコミ。そしてその証左として仮グラフィックが完成品とはいかに程遠いか、実際の試作段階の映像とともに示しているのだ。人気ゲーム関係者が続々と開発中の映像を公開しているわけである。

特に注目を集めているのが『Cult of the Lamb』公式Twitterアカウントである。同アカウントは「開発初期版」の映像を投稿している。製品版では色鮮な背景やエフェクトが世界を彩っているが、開発初期版は背景含めてかなり質素。アニメーションなどもかなり未完成。一方でコアとなるアクションのゲームプレイはすでに完成に近いことも見て取れる。今をときめく大ヒットアクションの開発映像が公開されているということで、注目を集めている。


またライターのCian Maher氏は『Horizon: Zero Dawn』の開発初期画像を投稿。製品版では猛々しいサンダージョーが、おもちゃのブロックのような容姿をしている。同作の開発Guerrilla(Games)はGDCなどゲームイベントで開発初期バージョンを公開してきた。そうした資料を引用して「美麗な大作であっても開発初期版は荒々しい」と主張しているのだろう。Maher氏は他にも『ゴッド・オブ・ウォー』の開発初期映像なども紹介している。


またRemedyのリードデザイナーであるPaul Ehreth氏は大ヒット超能力アクション『Control』の初期段階の映像を披露。同作はグラフィックの美しさを含めて高く評価されたが、開発初期段階では当然ながらグラフィックは未完成で、テクスチャが貼られていないところが多く無味乾燥な背景も多い。一方で超能力部分などはできあがっており、製品としてのポテンシャルを感じさせる。


なかにはこの流れに応じてジョークじみた投稿をする開発者も存在。最近『Immortality』を発売したクリエイターSam Barlow氏は、一枚の画像を投稿。「こちらが『Immortality』制作においてAIと戦闘システムのバランス調節をしていた最初の2年の画像と、製品版の画像を比べたものです」と記されている。左が開発初期、右が製品版ということだろう。『Immortality』にはAIとの駆け引きや戦闘など存在しない。嘘っぱちのジョークなわけだ。

また現在新作リズムゲーム『Rift of the NecroDancer』を開発中のBrace Yourself Gamesは、同作のヨガミニゲームパートの開発初期段階の映像を公開。メガネをかけた男性が不思議なヨガをかましている。たしかに同作のPVにはこうしたヨガのミニゲームは見られたが、なにか違う。どうやらこの映像は、ゲームディレクターのMarlon Wiebe氏がモックアップを作った際の資料だそうだ。これもまた開発初期映像となるだろう。

紹介したのは、多く寄せられている開発中映像のあくまで一例。数多くのクリエイターたちがそれぞれのやり方で「Graphics are the first thing finished in a video game(グラフィックはビデオゲーム開発において最初に完成されるものだ)」という意見に強く反論している。こうした事例を見れば、仮グラフィックは、仮のものとはいえ完成品とはほぼ別物と言っていいことがわかる。その差こそ、完成に向けた制作者たちの苦労の跡である。

あるいはこれらの投稿からは、『Grand Theft Auto』新作の開発映像が流出されたことへの、同業者としての憤りや怒りも感じられるかもしれない。開発者たちは日々ゲームの品質向上に取り組んでいる。発表時にファンたちの喜ぶ顔を想像しながら頑張る人もいるだろう。そんな努力をリークによって台無しにする行為は許せない。今回の一連のムーブメントからはそう言わんばかりの、開発者たちのささやかな連帯が垣間見えるかもしれない。

Daiki Imazato
Daiki Imazato

下手の横好きでシミュレーションゲームなどをしています。自分のミスでだんだん状況が悪くなっていく様を他人事のように眺めるのが好き

記事本文: 51