『ウマ娘』の「うまぴょい伝説」を、サカナクションの山口一郎氏が称賛しうまぴょい。うまぴょいは天使でペガサス

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サカナクションの山口一郎氏は1月5日、自身のTwitterアカウントで突如「うまぴょい!うまぴょい!」と投稿しファンを騒然とさせた。この投稿は、『ウマ娘 プリティーダービー』の楽曲「うまぴょい伝説」にちなんだものだろう。今をときめく人気バンドのボーカルは、うまぴょいにハマっているのである。

『ウマ娘 プリティーダービー』は、Cygamesが手がけるクロスメディアコンテンツだ。名馬たちの名前と個性を受け継いだウマ娘たちが織りなす世界観で、ゲーム・漫画・アニメなどに展開している。ゲーム版は育成シミュレーションとして、PCおよびAndroid/iOS向けに配信中だ。そして「うまぴょい伝説」は、プロジェクト発表当時のプロモーション映像にも用いられた、本作を代表する楽曲。作詞・作曲・編曲をしたのはCygamesに所属する本田晃弘氏だ。「うまぴょい!うまぴょい!」と繰り返すフレーズが印象的で、一度聞いたら忘れられないだろう。YouTubeやTikTokなどでも人気で、幅広く多くのユーザーを虜にし続けている曲だ。


人気バンドであるサカナクションの山口一郎氏もまた「うまぴょい伝説」の魅力に、とりつかれたようだ。山口氏は、サカナクションにてボーカル・ギターおよび楽曲の作詞・作曲を担当している、同バンドのフロントマンだ。そんな山口氏が1月5日、突如として自身のTwitterアカウントにて「うまぴょい!うまぴょい!」と言い放ったのだ。突然のうまぴょいにファンは騒然とし、ツイートには多くの反響が寄せられることとなった。このうまぴょいの背景には、山口氏がパーソナリティーを務めるTOKYO FMのラジオ番組「サカナLOCKS!」での一幕があったと見られる。


「サカナLOCKS!」は、山口氏が講師となり、音楽についてリスナーに授業をするプログラム。昨年に放送された同番組のなかで、山口氏は「うまぴょい伝説」を取り上げ絶賛していたのだ。放送時のテーマは「検証:人気楽曲のテンポ(BPM)を落としたらどう聞こえるのか?」であった。BPMとは、楽曲が一分間に何拍を刻むかという指標。一分間の拍数が多ければ多いほどいわゆるアップテンポとなり、テンポによりけりで楽曲の印象も変わる。番組のなかで山口氏はYOASOBIの「夜に駆ける」やBTSの「Butter」など、人気曲のテンポを変化させ分析していった。そして、最後に待ち構えていたのが「うまぴょい伝説」だったのだ。

最初は聴き入っていた山口氏だったものの、曲が展開し始めると「よく出来てるね」と関心のコメント。そしてサビでは「めっちゃよくできてる」と称賛し、ワンコーラスを聴き終えると所見を語り始めた。同氏はまず「音楽的な面ではルール違反がいっぱいある」と指摘した。とはいえ、この言葉は楽曲を批判する意図ではない。同氏はその後すぐさま「音楽にそんなルールなんてない、それを思い出させてくれる」と述べ、「自由にしてくれる」とまで称賛した。さらに同氏は、「“うまぴょい伝説”は翼を与えてくれるペガサス」とまで褒め称えている。


では、山口氏のいうルール違反とはなんだったのか。それは恐らく、音楽理論を踏まえた先にある、型破りな楽曲構成などのことだろう。山口氏は「うまぴょい伝説」をテンポダウンしふたたび再生すると、解説を始めた。同氏によれば「うまぴょい伝説」は、Aメロ・Bメロ・サビなどがある構成が「全部違う曲」だという。

たしかに、序盤のファンファーレから「うまぴょい!うまぴょい!」でおなじみのイントロがまず別物である。続いて、Aメロで転調しラップ調の掛け合いが軽快に繰り返される。さらに「きょうの勝利の女神は……」からのBメロでは、おそらく細かい転調を繰り返していると思われる「理解できないがしっくり来る」としか表現しようのない音の動き方だ。そして「きみの愛馬が!」で開幕するサビでは、ストレートに胸を打つ爽やかで壮大なメロディーが駆け抜ける。下手をすれば破綻寸前の、レースの如き目まぐるしい展開が続く構成だ。セオリーや常套手段から外れた構成や音は、プログレッシブ・ロックなどのジャンルでは珍しくはない。しかし、人気コンテンツのキャッチーな楽曲でここまでひっきりなしに耳を驚かせるのは、かなり異例だと思われる。


山口氏はこうした構成について、「ずっと裏切られているから、気持ちよくなってくる」と表現している。曲の意外性のある展開が、聴衆を惹きつけ魅了するとの分析だろう。同氏はさらに「音楽を作っている側からしても、幅を広げてくれる曲」と評価し、「うまぴょい伝説」を天使に例えた。かなりの褒め称えようである。おそらくこうした邂逅が、前述の山口氏のツイート「うまぴょい!うまぴょい!」に繋がったのだろう。

そして、「うまぴょい伝説」が山口氏にそこまで言わしめるのも無理はない。というのも、同曲を手がけた本田晃弘氏は、多数のゲームに楽曲を提供してきた実力派コンポーザーだからだ。本田氏はかつてコナミに在籍しており、『beatmania IIDX』シリーズや『pop’n music』シリーズに楽曲を提供。『メタルギアソリッド』シリーズでは「恋の抑止力」「HEAVENS DIVIDE」などのテーマ曲を手がけている。本田氏はコナミを離れた後もフリーとして『メタルギアソリッドV ファントムペイン』向けに主題歌「Sins of the Father」および「Quiet’s Theme」を作曲。同作は2015年のThe Game Awardsにて、音楽の優れた作品に贈られるBest Score/Soundtrack部門を受賞した。作品全体での受賞ではあるものの、同氏の優れた楽曲制作の手腕は、世界的にも評価を受けたといえるだろう。

ただ、「うまぴょい伝説」についてはかなりの苦心を経て作曲されたようだ。本田氏は国内メディアReal Soundによるインタビューにて、「ワインを2本開けつつパンツ一枚で踊りながら作った曲」との旨を語っている。意味不明ながら中毒性のある楽曲、いわゆる「電波ソング」を作ってほしいと注文され、進退窮まっての行動だったようだ。つまり「うまぴょい伝説」は、上質で幅広い楽曲を手がける手腕をもつ本田氏の実力と、アルコールの奇跡的な化学反応によって誕生した楽曲なのだ。腕利き作曲家が追い詰められ、文字通り(パンツ以外)すべてを脱ぎ捨てて作り出したのである。山口氏が称賛するのも頷けよう。

ファンたちのみならず、山口氏の脳裏にまで焼き付いたであろう「うまぴょい伝説」。型破りでキャッチーな楽曲の背景には、卓越した本田氏の作曲・編曲技術、そして苦労があった。そうした背景を踏まえて「うまぴょい伝説」に耳を傾けてみると、聞こえ方も変わるかもしれない。あるいはパンツ一丁で聴いてみることで、新たな世界がひらけるかもしれない。




※ The English version of this article is available here

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