『ハースストーン』世界大会で、日本人のPosesi選手が世界一に上り詰める。賞金は約2200万円

『ハースストーン』の世界大会である「2021年ハースストーン世界選手権」において、日本人選手であるWataru “Posesi” Ishibashi選手が優勝し、賞金20万ドル(日本円で約2200万)を獲得した。

『ハースストーン』の世界大会である「2021年ハースストーン世界選手権」において、日本人選手であるWataru “Posesi” Ishibashi選手(以下、Posesi選手)が優勝し、賞金20万ドル(日本円で約2200万)を獲得した。

「2021年ハースストーン世界選手権」は12月19日から20日にかけて開催された、『ハースストーン』のeスポーツシーンにおける最大規模の大会である。賞金総額は50万ドル。出場するのは南北アメリカ、ヨーロッパ、アジア太平洋の3つの地域それぞれ16名ずつで構成された公式リーグ「グランドマスターズ」および中国独自の「Gold Series Champions」において、地域ごとに選出された計8名。なお、昨年度王者に輝いたKenta “glory” Sato選手は準優勝。日本人がワン・ツーフィニッシュを飾る結果となった。

『ハースストーン』のeスポーツシーンの中心にある公式リーグ「グランドマスターズ」について説明したい。グランドマスターズは先述したとおり南北アメリカ、ヨーロッパ、アジア太平洋の3つの地域それぞれ16名ずつで構成された公式リーグである。

今年度は4月から10月にかけて行われた。8週を1シーズンとし、1~3週目は木曜日にリーグ内予選を行い、金曜日から日曜日にかけて優勝決定戦を行う。ルールを変えながらこれを7週にわけて繰り返していく。8週目はプレイオフが開催。それまでの成績上位者が出場できる。プレイオフで優勝することができれば、年末に行われる世界選手権への切符を獲得することができる。その一方で、成績下位者達による降格戦も発生。リーグ全体として9名の選手が戦いの場を去る事になる。

Posesi選手はシーズン1におけるアジア太平洋地域プレイオフ優勝者として大会に参戦。ルールとしては「4種類のデッキを持ち込み、相手が持つデッキひとつを使用停止にさせ、先に3本勝利した方が勝ち抜け」である、4Hero1Banと呼ばれる形式で行われた。

本年度の戦いは昨年の王者Kenta “glory” Sato選手による史上初の2連覇がかかっていたほか、最近の競技シーンで凄まじい躍進を見せる中国勢の動向や、「あまりにも強すぎる実力を持ちながら、あまりにも若すぎたため公式試合に出られなかった」経緯を持つハースストーンの申し子Gabriel“Gaby”Jeanne選手が遂に参戦を果たすなど、大会開始前から見どころに溢れたものであった。ゲームの対戦環境としては、カードを1ターンに何枚も使用して相手を倒す「コンボ」を勝ち筋としたデッキ群がメインストリームとして暴れており、10日前に新しいカードが発売されたという状況もふまえ、これらをどう攻略していくか、どう乗りこなしていくかが勝利の鍵となっていた。

そうして始まった世界選手権。Posesi選手の初戦はなんと、『ハースストーン』の申し子であり優勝候補筆頭のGabriel“Gaby“Jeanne選手であった。しかしGaby選手を一方的に破り3縦ストレート。Gaby選手も先の先を読む高次元なプレイを繰り返し続けたが、Posesi選手は明鏡止水を体現するかのような冷静な姿勢を崩さず、不利と言われたデッキ相性も安定感をもって覆していった。その後順当に勝ち進み大会は上位4人の戦いに突入。

Posesi選手は、Kyle“McBanterFace“Spigelman選手との戦いでは危うく敗北が見えたものの相手のミスに救われ、チャンスを手放すことなく見事勝利を飾った。1点差の勝利であった。大会で使われているコンボデッキは「勝つ」ためのカードと「守る」ためのカードが同じなものが多く、一手、使うカードを間違うと途端に勝てなくなってしまう。1ターンの制限時間もあり、選手にかかる負担は相当なものとなる。そうした激闘の果てに迎えた決勝戦。なんと相手は前年度覇者Kenta “glory” Sato選手であった。

長年世界で遊ばれているゲームの頂上決戦が日本人対決、かたや2連覇がかかっている。その状況からして信じられないものがあるが、互いに切磋琢磨をし、互いの手を知り尽くした両者の勝負。勝てば約2200万円。試合自体の内容もフルセットに至り、最終的にはドロー勝負までもつれ込む死闘であった。いかなる状況においても表情を崩さないことで知られるPosesi選手が優勝の際に思わずこぼした笑みは、本年度の競技シーンを締めくくるに相応しい。日本のeスポーツシーンに新たな足跡が刻まれた瞬間であった。

以前筆者が執筆したコラムにもあるように、『ハースストーン』の国内における知名度は低く、海外産のマイナーゲームであるという印象をいまだ払拭することができていない。一方でコミュニティの熱量は強火どころか凄まじい火力を保ち続けており、なかでも競技レベルは歴代最高レベルにまで至っている。筆者としてはこうして日本人が立て続けに活躍しているのは偶然ではなく必然と言える。

来年からはこの「構築戦」に加え、オートバトルシステムを用いた異なるゲームモード「バトルグラウンド」の公式大会も開催される運びとなっている。以前からコミュニティより言及されていた「世界選手権に参戦するための間口が狭すぎる」という意見を受けての変更である。競技シーンに参戦したい方は公式ホームページをチェックしてほしい。

「バトルグラウンド」も日本のレベルは非常に高く、何人ものプレイヤーが海外サーバーのランキング上位常連になるほどである。もし、これを機に『ハースストーン』に興味を持ったという方はぜひ臆することなく酒場の門を叩いてほしい。愉快で奥深い世界があなたを待っている。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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