任天堂の「マリオ」を連呼し続けた男、ついに自由になる。家族と仲間に支えられた100万マリオが感動のフィナーレ


ストリーマーのNicro氏は現地時間12月16日、「100万マリオ連呼」を達成した。同氏は12月1日より、ひたすら「マリオ」と言い続ける配信を実施していた。無限に続く気配もあったためか、先ごろには目標を100万回に制限。そして今回、感動のフィナーレを迎えた。

Image Credit: Nicro


Nicro氏はカナダを拠点とするストリーマー。『スーパーマリオ』シリーズのスピードランなどでも活躍する人物だ。同氏は配信者として活動してきたが今年3月に活動休止。約9か月後に12月1日に突如として復帰。「睡眠も食事も中継し、ひたすらカメラの前で「マリオ」と連呼し続ける」という、人体実験の如き過酷な企画を引っさげて帰ってきたのだ。必要マリオ連呼回数は、視聴者の寄付などに応じて増加する仕組みだった。つまり、連呼回数のノルマがどんどん増えていくシステムだ。趣旨としては、待たせたファンに対するNicro氏の「セルフ罰ゲーム」のような趣向だった(関連記事)。

最初は意気揚々としていたNicro氏だったのものの、この企画は想像以上に厳しかった。復帰を喜ぶファンの歓迎が、ノルマの増加というかたちで牙を剥いたのだ。開始約1週間後にNicro氏が40万マリオ連呼を達成するも、必要ノルマは60万マリオに到達。同氏のマリオ連呼も虚しく、ノルマまでの連呼回数が20万回ほど差が開いた状況が続いていた。マリオと言うより早くマリオが追加される、恐るべきマリオの永久機関である。

終わりの見えないマリオ連呼は、どんどんNicro氏を蝕んでいった。口を開けば「マリオのおっぱい」「マリオが車線変更します」と支離滅裂なことを言ったり、「ローガン・ポール、ローガン・ポール」と無関係な著名人の名前を唱えるまでになった。また、筆者が様子を見た際には、部屋の暗がりにひたすら愛しげに話しかけるNicro氏の姿を目撃してしまった。「ついに一線を超えてしまったか」と戦慄したものの、暗がりの中には同氏の飼っている黒猫がいた。また、家族や友人が配信に訪れることもしばしばだ。そうした癒やしが、Nicro氏の正気をギリギリで保っていたのだろう。さすがに途中で“休マリオ日”も設けていたと見られる。

Image Credit: Nicro


しかし、癒やしがあるとはいえ、このままマリオ連呼で一生を終えるわけにはいかない。挑戦11日目には、「視聴者がマリオ連呼回数を決める」とされていた配信タイトルが「マリオ連呼100万回への道」へと変更。無限にマリオが増えないよう目標が制限されたのだ。挑戦13日目には、順調に数を伸ばしていき、100万マリオ連呼にむけて同氏のラストスパートが始まった。

そして、12月16日。ついにその時はやってきた。99万9000マリオで一旦水分を補給し深呼吸すると、Nicro氏は怒涛のマリオラッシュを開始した。そして、残り500回を切った頃にはNicro氏の母親が登場。ほかの家族や友人も祝福のため、列をなして現れた。「マリオ連呼」なる奇妙な理由で壊れゆく息子を、両親はどのような気持ちで見つめていたのだろうか。想いを背負ったNicro氏の連呼も早まっていく。これまでの同氏の最速連呼だった毎秒4マリオを超え、約5マリオ/sec.の領域に突入した(速度は筆者計測によるもの)。

さらには愛猫までも登場して同氏を応援。BGMは『スーパーマリオ オデッセイ』のエンディング曲「Break Free (Lead the Way)(邦題:ハニークレーター – 脱出)」だ。自由への脱出を歌う名曲が、まさに今自由になろうとするNicro氏と重なり合い気持ちが高まる。そして同氏が仲間と共に100万回目の「マリオ」を口にすると、一斉に歓声が上がった。

Image Credit: Nicro


チャレンジ開始から334時間55分54秒。休止を除いてもほぼ丸14日間におよぶチャレンジのフィナーレだ。あまりの疲労のためか喜びのためか、床に転げ落ちるNicro氏に母が優しく歩み寄る。そして、仲間たちからスピーチを求められた同氏は、しっかりと両足で立って語り始めた。まず視聴者と仲間たちへの感謝を述べる同氏。しかし「もっとも感謝したいのは、マリオだ」と万感の思いを込めて伝えた。そして、「ドクターマリオに診てもらえ」などと揶揄されたことに言及しつつ、今後もマリオの存在を心に宿しながら歩んでいく旨を述べている。締めは「マリオ、マリオ、マリオ」とマリオ三唱だ。と思えば、その後またマリオ連呼を再開して戯れにカウントした。意外と余力が残っていたようだ。もう少し続けられそうである。

※ 100万マリオを達成した放送、フィナーレは5時間35分頃より


今回の突飛なチャレンジは、最初は単なる思いつきだったかもしれない。しかし、ここまでの苦行を成し遂げた背景に、Nicro氏のなかに根付くマリオへの愛情があったことは間違いないだろう。挑戦の内容は馬鹿げていたものの、筆者はなぜかクライマックスに目頭が熱くなってしまった。勝手に連呼されるマリオおよび任天堂側にとってはいい迷惑だったかもしれないが、ともかくマリオ連呼は終わった。Nicro氏にはしっかり休んでもらい、マリオ連呼の後遺症にも注意してほしいところだ。




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