『ポケモン』ダイパリメイクで非搭載の「ランダム対戦環境」を疑似構築する動きが、コミュニティで広がる。合言葉は6350 4649
『ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール』(以下、ポケモンBDSP)にて、「ランダム対戦環境」を擬似的に構築する動きが、コミュニティ内で広がっているようだ。呼びかけ人であるアシキ氏の話をまじえて、その背景を追っていく。
ランダム対戦機能がないダイパリメイク
『ポケモンBDSP』には、ランダム対戦環境が存在しない。本作では、ユニオンルームと呼ばれる機能を介して、プレイヤー同士での対戦が可能だ。クロガネジムのジムリーダーであるヒョウタを倒すことでジムバッジを入手。ポケモンセンターに行くことでユニオンルームが開放される。しかしそこには、ランダム対戦機能は存在しない。本作での対戦は、あくまで知り合いのプレイヤー同士に限定されている。
株式会社ポケモンの宇都宮崇人氏は、そうした点を「Pokémon Presents 2021.8.18」の放送内で説明済み。『ポケモンBDSP』ではユニオンルームを介してのみ世界中のプレイヤーとの交流と対戦が可能で、『Pokémon LEGENDS アルセウス』にはトレーナー同士の通信交換要素は存在するものの、通信対戦要素は導入されないという。ランダムおよびランクマッチは、『ポケットモンスター ソード・シールド』で楽しんでほしいと語られた(関連記事)。とはいえ、なかには『ポケモンBDSP』でもランダム対戦を楽しみたいユーザーもいる。そんなユーザーの間で、「ランダム対戦環境」を擬似的に構築しようとする動きがあるようだ。
広がる「6350 4649」の輪
その手法はというと、ユニオンルーム入室時の合言葉を統一すること。ユニオンルームのグローバルルームにて「6350 4649」と入力することで、特定の部屋に入室。同番号を入力して部屋に入った、対戦希望の人々とマッチングできるわけだ。共通のパスワードを作り広めることで、擬似的にランダム対戦が再現されているわけだ。6350は「手持ちの6匹のポケモンから3匹を選び、レベル50以下」を意味する。4649は語呂合わせの「よろしく」。一部で使われていたワードを、アシキ氏が改めて合言葉として使用するよう呼びかけたわけだ。
YouTuberのアシキ氏による呼びかけツイートは12月6日10時30分時点で1万6000以上RTされており、この土日は同部屋にアクセスすることで、すぐに対戦相手が見つかるような状態であった。配信者など影響力のある人物もこの部屋を使って対戦を楽しんでおり、少なくとも現時点では、「6350 4649」部屋は大盛況状態にある。
実は、パスワードを統一することで、ランダム対戦を再現する試みは、今回が初めてではない。たとえば、同じくランダム対戦機能が搭載されていない『ポケットモンスター Let’s Go! ピカチュウ・Let’s Go! イーブイ』では、合言葉となるアイコンをピカチュウ3つ並べることで、擬似的なランダム対戦が実現されていた。しかし、『ポケモンBDSP』での対戦疑似構築の盛り上がりは、より計画されたものであった。背景には、呼びかけ人物であるアシキ氏の配慮が存在するだろう。
利用されることを踏まえた呼びかけ
アシキ氏の呼びかけの特筆すべき点は、呼びかけツイートに「参加するにあたって必要な情報」が十分に盛り込まれている点。単に「6350 4649」という数字を広めるだけでなく、入室の手順も画像付きで解説。またルールについても記載されており、その記述もフェアでわかりやすい。あくまで3匹の選出であることや、伝説・幻ポケモンは非推奨であること。アイテムやポケモンの重複もまた非推奨であると書かれている。
そのほか「よくある質問」も添えられており、バグポケモンは使用不可であることや、対戦の様子の配信や動画化は可能であることが記されている。これらのルール群は『ポケモン』対戦経験のあるものなら、当たり前と思うだろう。しかし、何もない場所に対戦環境のみが用意された場合、そのルールやレギュレーションを明示化しなければ、認識が統一されず荒れた場所になり利用者は減っていく。アシキ氏が、こうした必要な情報をすべて記載し呼びかけているからこそ、「6350 4649」は正しく利用され盛況しているわけだ。単に呼びかけるツイートのみならば、ここまでの反響はなかっただろう。
アシキ氏はあくまで自分が呼びかけ人の一人であることを強調しているほか、合言葉使用者には感謝の言葉を贈っている。画像使用に際しては、引用元を示さなくてもいいとも綴っている。あくまでも、盛り上がりを重視している。アシキ氏の、謙虚かつ丁寧な仕事っぷりが、「6350 4649」の浸透につながっているのだろう。そもそもなぜこのような呼びかけをおこなったのか。アシキ氏に話を訊いた。
アシキ氏がこうした呼びかけをしようと思ったきっかけとしては、『ポケモンBDSP』についてはバグばかり認識されており、対戦環境が盛り上がらない可能性への懸念があったそうだ。さらに今作では四天王やバトルタワーでは、オンライン対戦でも見るような手強いCPUたちが立ちはだかる関係で、普通のユーザーも対戦環境に興味をもつ導線が用意されている。ただ、対戦が盛り上がりそうなものの、バグの話題ばかり広まってしまうことに危機感を覚えていたという。またアシキ氏はYouTuberとして対戦動画をあげており、対戦も盛り上がってもらわないと困るという、個人的な側面もあったわけだ。
一方で、言い出した合言葉が定着しなければ、外から見ているユーザーから揶揄される懸念もあった。対戦環境が盛り上がってほしいという想いと、失敗することで冷笑されるリスクの葛藤に揺れていたようだ。しかしながら、対戦したいという自身の欲や、もっといろんなユーザーに本作の対戦の魅力を知ってほしいという思いから、「6350 4649」の呼びかけに踏み切った。結果としては、現時点では大成功に至っている。ルールやレギュレーションを併記した件については、アシキ氏自身が『ポケモン』シリーズの大規模対戦オフ会ファクトリーオフに携わった経験も関係しているとのこと。
生まれる流行とメタ
面白いのは、ランダム対戦機能がない『ポケモンBDSP』でも対戦における流行やメタ が生まれつつあり、この「6350 4649」にもその傾向が見られること。『ポケモンBDSP』の対戦では、とくせいのポイズンヒールをもつキノガッサやグライオンが使われることが多いという。キノガッサはキノコのほうしを使用でき、グライオンはハサミギロチンを使えることもあり、その2体は凶悪なゆえに、対策としてマンムーやパルシェンが採用されているという。
※ アシキ氏によるパルシェンをメインとした対戦動画。落ち着いた実況と的確な解説が魅力
そしてこの4体に強く出られるハッサムとラティオスを組ませた「ラティハッサム」を、アシキ氏はよく見かけるという。ハッサムは、前述のキノガッサ・グライオン・マンムー・パルシェンに強く出られるほか、ハッサムとラティオスはタイプとしても補完性があるのでタッグだと使いやすいわけだ。さらにそのラティハッサムへの対策として、両ポケモンに強く出られるはがねタイプのヒードランやジバコイルの使用が見られるという。しかし、これらを使うと、キノガッサ対策として採用されているマンムーに弱くなってしまう。といったように、『ポケットモンスター』シリーズの対戦環境に見られるような、流行やそれに対するメタが生まれているわけだ。ランダム対戦がなくとも、そうした“環境”が構築されているのは興味深い。
【UPDATE 2021/12/6 13:30】
ラティハッサムの記述を調整
ただし、「6350 4649」ではこうしたガチ対戦だけが展開されているわけではなく、好きなポケモンを使って戦うプレイヤーもいるという。最近の『ポケモン』では、対戦はカジュアルマッチとランクマッチに分けられていただけに、アシキ氏は新鮮な気持ちで対戦できているとのこと。とりあえず対戦してみたい、という人も受け入れられる環境になっているようだ。
人気作のリメイクとして渇望されながら発売された『ポケモンBDSP』。良くも悪くも不具合面に注目が集まる一方で、『ポケモン』の楽しみのひとつである対戦の魅力が、やや隠れてしまっている面もある。正式にランダム対戦機能は実装されていないので、あくまでコミュニティでの運動のひとつに留まる。しかし「6350 4649」の試みにより、対戦の魅力が広まっていくことに期待したい。対戦ルーム「6350 4649」はすでに盛り上がりを見せており、その熱が続いていくかは、ユーザー次第である。
※ The English version of this article is available here