AmazonがSteamで配信中のMMO『New World』にて、一部サーバーにおける経済が“デフレ状態”にあると報じられている。まるで現実の写し絵のような経済危機を受けて、一部プレイヤーはゲーム内通貨の利用を控え、物々交換に乗り出しているそうだ。海外メディアPlayer Auctionsが報じている。
『New World』はAmazon Games Orange Countyが開発し、今年9月29日に配信開始したMMORPGだ。同作はSteamでのリリース後間もなく、90万人を超えるピーク同時接続者数を記録。高い人気を見せる一方で、ゲーム内での金銭問題やシステムを悪用したメタゲーム戦略疑惑が持ち上がるなど、話題にも事欠かない作品だ（関連記事）。まるで現実社会の縮図のような様相を呈する『New World』にて、今度は経済問題が発生したようだ。具体的には、ゲーム内通貨であるCoinの価値が上がりすぎる「デフレーション」が起きてしまったとのこと。
まず、前提として『New World』における経済システムを説明する。同作には昨今の一般的なMMOのようなNPCのアイテム販売・買取ベンダーは存在せず、基本的にはプレイヤー自身が生産・流通も担うシステムになっている。つまり、同作のプレイヤーたちは消費者であると同時に、自営業者でもあるのだ。また、現実の日本では日本銀行が貨幣を発行するが、『New World』のゲーム内通貨であるCoinの主な“発行元”はモンスターのドロップ品やクエストの完了などだ。プレイヤーが手に入れた貨幣はトレードを通じて別のプレイヤーの手にわたる。需要や供給および価格が流動的に変化する、現実に近い経済システムになっているのだ。
そしてデフレーション（デフレ）は、新聞や報道などでもしばしば取り上げられる、現実の経済でも起こる現象だ。デフレは物品などに対して貨幣の価値が上がりすぎている状態を指す。貨幣の価値が上がれば、物品の値段は下がる。「お金の価値が上がって物が安くなるのは良いこと」と直感的には感じてしまうものの、デフレはさまざまな問題を抱えている。まず、貨幣の価値上昇は物価の低下を意味する。つまり、『New World』ゲーム内で例えれば、10Coinで売れていた商品が5Coinでしか売れなくなり、その分プレイヤーの収入は減る。収入が減ったプレイヤーたちはお金を使いたくなくなり消費を控え、そうした状況ではさらに値段を下げなければ物品は売れなくなる。こうした負の連鎖は「デフレスパイラル」と呼ばれる。そして今、『New World』の一部サーバーはまさにデフレスパイラルが進行した状態にあるというのだ。
もちろん、『New World』のゲーム内経済は現実と単純に比較できず、現実のデフレとまったく同じ現象とするには語弊がある。しかし物価下落と貨幣価値上昇の流れは現実のデフレに共通する。Player Auctionsの報道によれば、一部ユーザーはもはやCoinの絡むトレードを控え、物々交換に乗り出しているという。経済崩壊による決済手段の変化という、興味深くもプレイヤーたちにとっては切実な出来事が、ゲーム内で起きてしまっているわけだ。
また、問題となりえるのが、『New World』でCoinを要求するのがほかプレイヤーだけではない点である。同作においては加工場の利用や、武具の修繕にCoinが必要になる。また、能力値の振り直しやハウジングの購入などにもCoinが必要だ。つまり、このままデフレ経済が深刻化しつづければ、ゲーム内機能の利用にさえ支障をきたす恐れがあるのだ。
海外掲示板Redditの『New World』コミュニティ/r/newworldgameでは、ユーザーがデフレの影響を訴える投稿をしている。同投稿は記事執筆現在で2300件以上のUpvoteを集めており、実際にデフレの影響を感じる多数ユーザーの存在を示している。また、投稿者はデフレの原因を「単純にモンスターやクエストから供給されるCoinが少なすぎるため」だと分析しており、解決策としてアイテムの買取をおこなうNPCベンダーの設置を提案している。
前述の通り、このまま『New World』内でデフレが進めばゲームシステム利用に支障をきたし、ゲームそのものが機能不全になりかねない。一方で気がかりなのは、運営側によって対策がなされた結果、デフレの逆である「インフレ」が発生した場合だ。そうなると今度は、ユーザーが節制を重ねて貯めに貯めたCoinが大量に流通し、瞬く間に価値を下げる可能性がある。 あくまでもリアルマネーではないため影響は限定的だと思われるが、ユーザーの不満の原因にはなりえる。
そうした影響を最小限に押さえるためには、何よりも早急かつ抜本的な経済対策が必要になってくるだろう。まるで現実世界のような経済問題が発生する『New World』のなかで、同作の世界政府たるAmazonはどのような「経済政策」を打ち出すのだろうか。
